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エピソードタイトルがもう思い浮かびません。時々目安程度に入れていきますのでご容赦下さい。
サイラの立ち位置がここに来て確立され、私のことについては彼女なくして決められなくなった。どんな手を使ったのか、かなりの気迫で誰も逆らえなくなっているようです。
朝食後、軽く散歩を勧められ素直に従う。直ぐ側に護衛としてマグダがついてくれ何故か距離を置いてイーロがついてきている。
「アレなに?」
「気にしないでいいわよ。護衛は基本二人体制だけど今は女子だけで話したいかなっと思って」
こっそり話せば内容が把握できない絶妙な距離だ。そのまま川の方へブラブラ歩いて行った。
「エメラルド様」
「はい!」
いくらか行ったところでサイラがピリッとした感じで話しかけてくる。その緊張感に堪えきれず助けを求めるようにマグダに視線を向ける。
「駄目よ、今日は大人しくサイラの言うことを聞いたほうがいいわ。昨日あなたが予定より遅れて帰ってきた上に疲れ切った顔して食事もあんまり食べないで気絶するように寝ちゃってから大変だったんだから。子爵様にまで物凄い形相で詰め寄るサイラはもう見たくないわ」
その情景を思い出したのか自分の腕を擦りながら苦い顔をするマグダ。やっぱり昨日私が眠ってからとんでもない事が起こってたんだ。
私は何を言われるのか怯えながらもサイラに向き直った。
「あ、あのね……」
「エメラルド様、お願いですからご自分の体をもっと大事になさって下さい」
てっきり叱られると思ったサイラの声や体が微かに震えて目には涙が薄っすらと浮かんでいる。彼女は今にも泣き出しそうで私は途轍もなく心配をかけてしまったのだと改めて気づかされた。悲しませてしまい申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになる。それに彼女が心から心配してくれたことに不謹慎ながらもじんわり温かい気持ちが込み上げる。
「サ、サイラ……ごめんね、心配かけ……」
「もう我慢できません。私はエメラルド様の今後一切の行動に必ず同行させて頂きます」
「え?ちょっと待っ……」
「諸事情等一切聞き入れません。昨夜のうちに他の方々にも了承は頂きましたのでエメラルド様の許可は不要です。まったく!これ以上あの方々には任せておけません!!」
サイラは悲しんで泣いているのではなく、怒りで感情が振り切れていたようだ。彼女の決意は離れた場所にいたイーロにも聞こえたようで、いつも冷静な彼も怯えた顔をしていた。
私の為の散歩というよりサイラの気を静めるための時間をゆっくりととり、今日は遺跡へ行くことは諦めて宿へ戻った。すると宿の前に見知らぬ馬車が数台停まっていた。私たちの馬車より高級そうなので恐らく上位貴族か同等の金持ち平民だろう。この村は橋が流され足止めされた時用の宿泊施設なので、橋が通過できるようになった今はただの休憩場所という感じかな。
私たちは馬車の横を通り過ぎ宿へ入ろうとして中から聞こえる怒鳴り声に足を止めた。
「なんだとテメェ!!アスピドケロン?キングクラーケン?笑えない冗談言いやがるとぶっ飛ばすぞこの野郎!!」
声と共に何かが、恐らく食堂のテーブルやイスが蹴り飛ばされたような音がする。
「エメラルドちゃん下がって!」
マグダが護衛らしく腰に帯びているショートソードに手をかけ私の前に出るとサイラが素早く私の腕を掴んで後ろへ引っ張り下がらせる。マグダって本当に護衛として働くんだとちょっと感心してしまう。
「エメラルド様、早くここから離れましょう」
サイラがそのまま私を連れて行こうとしたので腕に添えられている彼女の手に触れながら笑った。
「大丈夫よ、マグダもありがとう。あぁついでにイーロも」
いつの間にか近付いて来てマグダと並んでドアとの間に滑り込んできていた彼にも声をかける。
「俺はついでかよ」
なにやら不満を呟いていたが放っておこう。
「残念だけどこの声は知り合いよ」
はぁ?って顔をしている三人に苦笑いしながらドアを開けるとそこにイライラが最高潮に達している見覚えのある後ろ姿の男がリュディガーとピッポに詰め寄っていた。
「それでエメラルドは今どこにいやがるんだ!とっとと俺の目の前に連れてきやがれっ!!」
「はーい、私はここで〜す」
「ゔぁっ!?」
意味不明な声を上げて振り返ったのは予想通りのモッテン船長。そしてその横で船長を宥めようとしていないオジジの姿!
「オジジ!」
「エメラルド!無事か?!」
何故二人がここにいるのかとか、どうやってここまで来たのか、なんてことは置いておくとして。私はオジジに駆け寄ると広げられた両腕の中へ飛び込んだ。
「ぬはっ!」
私とオジジがぎゅっと抱き合って感動の再会を果たしている横で、再び奇声をあげなげながら、どうすればいいのか分からないという感じでモッテン船長が私を見ながら両手を上げたり下ろしたりしている。それに気づいたオジジがやれやれと言いながら私を抱きしめていた腕を緩めた。仕方ない、船長の相手もしてやるか。
「船長、心配かけちゃった?」
抱き合うような間柄ではなかったが、いつも私を気にかけてくれていたことはわかっている。久しぶりに会ったんだしここはひとつハグでもしてやるかと抱きしめてやった。もちろんサクっと軽く、回した手で背中をポンポンと叩く感じだ。オジジとのようなぎゅっとではない。
「ひゃっ!」
さっきから奇声ばかり発する船長につい笑ってしまう。
「プハッ、変な船長。ちょっと見ない間に腑抜けたの?」
ケタケタ笑う私を見て我に返ったのか、船長が慌てて取り繕う。
「何言ってんだ!お前がとんでもねぇ事ばっかりしてやがるからだろう」
「ごめんて。私も好きで巻き込まれたわけじゃないんだからさ」
「つまりこのボケナスリュディガーと役立たずなピッポのせいってことか?!この野郎っ」
「いやいやいやだから、エメラルドがやらかしてたのは俺達が合流する前だから!」
「そっすよ!エメラルドは一人で勝手に死にかけていたんっすよ」
さっきまで責め立てられていたらしいリュディガーとピッポがきっと何度も口にしていたであろう言葉を繰り返しているようで、かなりうんざりした顔をしている。
流石にこのまま睨まれ続けるのは可哀想なので私は船長を宥め食堂のイスへ座らせる。オジジも隣に座り私もその横に座ったが何故か子爵が違和感なくオジジの向かいに座ってじっとオジジを見つめている。
「なんだてめぇ。貴族か?」
そりゃあ偉そうにモッテン船長が子爵を睨みつけている。ヤバくない?
「申し遅れました。私はこの度エメラルドとカイの案内人に指名されたボナベントゥーラ・ランベルティーニ子爵です。高名なゼバルド・ガーラント殿にお目にかかる事ができ光栄です。……それにかの有名なメルチェーデ号のモッテン船長にもお会いできるとは……胸が一杯です」
子爵はオジジに目を輝かせて挨拶したあと一瞬忘れかけ取ってつけたように船長にも挨拶をした。船長はそれに気づいているみたいだったがフンッと忌々しげに鼻を鳴らし「古代文明馬鹿か」とこぼした。
いやいや、貴族相手にその態度はどうなの?しかも子爵も相手は一応平民なのに自ら率先して挨拶をするなんてどういう状況?
私は混乱していたがオジジも船長程ではないが探るように少し黙って子爵を見ていた。
「お初にお目にかかります、ランベルティーニ子爵。お噂はかねがね伺っておりました。古くからの『古代遺跡保存の会』会員であり古代遺物の収集家だと」
オジジが慎重な態度で子爵に挨拶を返す。ランベルティーニ子爵と名乗った瞬間に少し眉間にしわを寄せた感じだったのでどうやら名前を聞いたことがあったらしいとは気づいていた。古代文明に関わっている人としてただ意識していたのか。もしくは何か子爵に対する情報を持っているのだろうか?『古代遺跡保存の会』自体は古くからあったみたいだから耳にしたことはあっただろう。その関連なのかな?
モッテン船長が好きです。