103 予定変更2
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体調や仕事に阻まれ上手く時間が取れませんでした。
結局、なんとか食事をかき込みお風呂に入ると一気に疲れが出たのか、ちょっと休憩しようとベッドに横になった瞬間に寝落ちしてしまった。
翌朝にカーテンの隙間から差す日差しで目が覚めた。体を起こすと頭がスッキリとしている。睡眠は偉大だ。
「エメラルド様、お目覚めですか?」
気配を察したのかサイラが部屋に入って来て身支度を手伝ってくれる。直ぐに食堂へ行くと既にみんながテーブルについていて、私が近づくと一斉に視線を向けてくる。
「お、おはようございます」
なんだかちょっとビックリしながら挨拶を口にすると皆それぞれ返してくれる。リュディガーの隣に座るとサッと朝食が目の前に置かれた。
「顔色は良さそうだな。体調はどうだエメラルド?」
「大丈夫です、お気遣いありがとうございます。子爵様」
向かいの席で満足そうに頷く子爵様を見てそのまま遺物の話になるかと思ったが先に食事を済ますように言われた。何故か私の後ろに立つサイラに皆の視線がチラチラ向いているのは気のせいだろうか?もしかしてサイラ怒ってる?
食事が済みいよいよ今後の予定を話し合う事になった。
「それで、エメラルドはどうしたい?」
リュディガーが真っ先に真剣な顔で尋ねてきた。昨日、遺跡で遺物を国へ売るのは止めてくれないかと言われ、できるなら私もそうしたいと思った。だが落ち着いて考えてみればそうするとこの旅の案内人である子爵に迷惑がかかる気がする。子爵本人がそうして欲しいと言っているのでそれ込みで話しているのだろうけれど、どういうペナルティがあるのかは聞いておきたい。
「私はここでオジジと合流して遺跡も遺物も一緒に調べてみたい。でも」
「そうすると子爵様に迷惑がかかるんじゃないかと気になるんだな?」
リュディガーは私がどう思っているかわかっているらしく後を続けて言った。子爵を見ると少し嬉しそうに口角を上げるとふっと微笑む。
「案ずるな。こういう事態は今回が初めてでは無い。これは私が案内人をしている目的の一つでもあるのだ」
子爵によれば運ばれる大物遺物の中に特に貴重な物があるとわかれば色々な手を使って国へ売る前にこちら側の手の者を使い交渉を重ねて手に入れる事があるという。
「それが貴族に腹を立てて他国へ売り先を変更したと言われる事もあるのだ。無論わざと流している噂である」
悪評を引き受けても遺物を守りたいと子爵は言う。
「そんな事をして国から子爵様にはなんのお咎めもないのですか?」
「ふむ。今回は高速艇で出迎えた若い貴族がかなり問題を起こしていたと報告を受けているから策は講じやすいな。だがエメラルドの大物遺物は第一区分の可能性が高いと言われる物であるからな。引き留めるよう要請があることは確かであろうな」
なんだかサラッと流された気がする。大丈夫なの?
子爵が敢えて口にしないのであればこれ以上は聞くなと言う事なのかもしれない。リュディガーと視線を合わせると彼もため息をつきつつ首を横に振る。
子爵は王都へ遣いを差し向けることにしたらしい。私が遺物の引き渡しを拒否しているという嘘の手紙が王都へ届くのに三日。その返事が届くのに三日として取り敢えず六日の時間がかせげる。
直ぐに出発することは無くなったがオジジをここへ呼び寄せるのに十日はかかるといっていたはず。
「ではここで私がエルドレッド国へ遺物を売るのを拒んで駄々をこねている我儘娘を演じる事になるのですね」
「ふむ、不名誉かも知れぬが少なくともゼバルド殿が来るまでは私の必死の引き留めに付き合ってもらうぞ」
ニヤリとする子爵に私も笑顔で頷く。その間、あの遺跡をじっくりと見ることが出来るのだから否やはない。
翌日の早朝にやっと何とか通行できるようになったとされる橋を通り、子爵の遣いを王都へ向かわせる事に決まった。そして王都と逆方向の港町へもオジジをここへ呼び寄せるための遣いを走らせることになった。
「メルチェーデ号も港町へ向かっていたはずだから運が良ければ既に到着しているはずだ」
「だったら上手く行けば王都からの返信より早くここへ来れるかもしれないわね?」
私が淡い期待を口にするとリュディガーがクスリと笑う。
「流石にお前がここで立往生していることは知らないだろう。まして遺物を売るのをやめると言い出していることも知らないんだから港町でゆっくりしてるだろうよ」
雨による増水で橋が渡れなくなったことをいちいち港町へ知らせる事は無いだろう。つまりオジジは私が順調に王都へ向かっていると思っているはず。まさか高速艇がアスピドケロンに襲われ救出されるもキングクラーケンに捕獲され巣へ曳航されなんだかんだで救命艇で遭難して死にかけていたなんて思いもしていないだろう。ってか私ってよく生き残ってるな。普通なら三回は死んでるぞ。
「そうか。オジジがまだ来ないことは残念だけど王都へ急いで向かわなくてよくなったんだよね?だったら早速あそこへ行きたいんだけど」
人払をしているとはいえあまり堂々と遺跡の事を口にするのは良くないだろう。筆頭過保護者のリュディガーにちょっと上目遣いになりながら聞いてみた。まぁリュディガーの方が背が高いんだから勝手にそうなるんだけど、若干の媚びる気持ちが入っていることは間違い無い。若干じゃないか。
「今日は体を休めることに集中した方が良いんじゃないか?お前のためだけじゃなく周りの為にもな」
そう言われ子爵をはじめ皆の顔を見ると心配そうな様子で私を見ていた。
「いやいや、昨日のは体調が悪いとかじゃなくって」
「倒れるなんて体調が悪いに決まってるだろう」
カイが困った顔で言う。子爵も深く頷き同意している。
「せめて今日一日、じっくり身体を休ませるがよい。時間はあるのだからな」
今朝は遺物を売る売らない話もあり、今から準備して遺跡へ行って帰るには遅くなると説得された。時間的にイケると期待していた私は何が何でも行きたい一択だ。
「体調は回復しております。まだ午前中ですし、今出発して二、三時間の滞在で帰れば夕食に間に合いますから」
子爵にキッパリした口調で説明しているとリュディガーが横から口を挟んでくる。
「いや昨日お前が倒れたにも関わらず帰らないと駄々をこねた事を忘れたか?『ヴィーラント法』を解読している時も俺達の言うことに耳を貸さずに寝食を忘れて没頭していた実績がある奴の二、三時間で帰る発言を誰が信じる?」
「ぐっ、そ、それは……」
私が言い淀んでいると、コホンッ、と後ろに控えていたサイラが咳払いをする。すると急に食堂に妙な緊張感が走り全員がピリッとする。勿論子爵も。
「サ、サイラ。大丈夫だ、今説得するから」
何故かリュディガーが頬をピクつかせ少し焦っている。サイラは伏せていた目を上げてリュディガーを見てから私へ視線を移す。どうやら私が眠っているあいだに何かあったらしい。子爵までビビらすなんてサイラ最強じゃない?
「今日はお休み頂くのは決定するとして」
「え?!でも私は……」
「「「エメラルド!!止めておけ」」」
私がサイラに遺跡へ行きたい気持ちを訴えようとすると色々なところからストップがかかりビックリして口をつぐんでしまう。
「明日からどこかへお出でになるなら私も同行致します。もう殿方にはお任せしておけません」
笑顔だけど強火のサイラに貴族さえも逆らわなかった。
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