表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/128

102 予定変更1

 男爵の掠れた声以外誰も何も言わない。咄嗟だったせいで人目を憚らず特級ケースを開けてしまったがその事すら気にならないほど目の前の光景にここに居る全員が釘付けになってしまう。

 

 正二十面体の特級遺物は夜空が月に照らされ透き通ったようなほんのりとした蒼い光を帯び、一面一面に記されている記号が金色に輝いている。最初に見た時は一体何の記号なのか見当もつかなかったが『ヴィーラント法』を解読したせいか今は意味が理解できる気がする。おもむろに手に取りくるりと回転させながら文字を読み取る。


「リーヴスラシル」


 そう呟くとガタガタッと音がし、男爵がテーブルの側に置いてあった椅子を退かせて私に近づく。


「どういう意味ですか?」


 私の手元だけを見て男爵が独り言のように零す。


「さあ?ただ読んだだけだから」


 正二十面体の記号を組み合わせると『ヴィーラント法』同様になんと読めばいいかがわかったが、その単語の意味はと問われればわからない。その道の馬鹿と呼ばれるほどの研究者である男爵すら知らないなら私にはもっとわからない。そういえば前にもこの遺物を見た時に頭に思い浮かんだ言葉があったな。確か『レプラハム』だったかな。今回のも前のも意味はわからないけど。


「オジジならわかるかもな」


 リュディガーの言葉に男爵が首がねじ切れんばかりに振り返りまるで魔術を使ったかのように瞬間移動し、彼に許しを請う、いや、捨てられまいと縋り付く恋人のようにリュディガーの足元に跪く。


「頼む!ゼバルド殿に会わせてくれ!何でもする!この遺跡も案内、いやいっそ全て捧げるしなんなら私をいいように使ってくれて構わない。いや寧ろ使われたい!はっ!?だがそれではご褒美ではないか?あぁー、どうすればいいんだ!?私は、私は……」

「うわっ、止めろ!」


 その必死さにドン引きのリュディガーを完全に無視して、男爵は彼の膝を両手で抱きしめ涙を流しその勢いのままに危ない位置に顔を押し付ける。


「何やってんだ!」


 ガシッとリュディガーが股間に顔面を埋めようとする男爵の頭を掴む、と同時に慌てて来たジーナが男爵の後ろに束ねられた髪をグイッと引っ張る。


「痛い〜!」

「「痛いじゃねぇ!離せ!!」」


 さっきまでの神秘的な雰囲気が一気に下降し混沌とした展開を見せられみんなが冷静になってきた。


「あぁ~ミルコ、少し落ち着け。そのような態度では通るものも通らんぞ」


 我に返った子爵が呆れながらも言い聞かせる。ジーナもリュディガーの手を借りながら男爵を彼の膝から引き剥がし距離をあけるために壁際まで髪を掴んだまま引きずって行く。


「痛い痛い痛いぃ〜!ジーナ、もっと優しく」

「十分優しいわ!これ以上異常行動取るなら蹴り上げるぞ!」

「異常行動って大袈裟な。私の本気の気持ちを必死に訴えただけじゃないか」

「お前の必死は男の股間に顔を埋めることか!?馬鹿っ!変態っ!」


 平民が貴族を口汚く罵るとはなかなか見れないものじゃないだろうか?だけど子爵はそんな二人を一瞥しただけで構わず、私のそばに来る。


「エメラルドとリュディガー、ミルコが失礼したな。だが奴の言う通り出来ればそれをゼバルド殿に見せて欲しいし、その場に立ち会わせてくれると嬉しいのだが?」


 男爵と違い貴族らしく丁寧な物言いだけど眼力は凄い。まぁオジジと子爵を会わせることは大丈夫な気がする。寧ろそうすればこの遺跡をオジジが見れるだろうし、ここでオジジが遺跡の調査をしたり『ヴィーラント法』に書かれていた暗号の結果を研究することが出来るだろうし何より私がオジジと一緒に居れる。


「わかりまし……」

「少し待ってくれませんか?この特級遺物は国へ売る為に私達はここまで来たのですよ。ここで今足止めされているのは橋が渡れないからという事になっていますが何時までもそれで誤魔化せないでしょう?オジジをここに呼び寄せるのに少なくとも十日以上かかりますよ」


 私の言葉を遮りリュディガーが慎重に答える。

 そう言われれば確かに国へ売ると報告が上がっているから子爵が案内人として付いてくれていたわけだし、あまり遅れてしまうのはよくない気がする。


「其方らはこのような素晴らしい遺物をまだ国へ売り払うつもりなのか?」


 何故か子爵が信じられないものを見たという顔をしている。いやそれが貴方の仕事ですよね?


「駄目だよ!この遺物を国へなんて。古代文明への冒涜だ!」


 男爵も壁際でジーナに押さえつけられながらも必死に訴えてくる。

 私にしてみればそんな事していいの?って気がする。メルチェーデ号から特級遺物が発掘された報告が国へ上げられ馬鹿貴族達が高速艇で迎えに来たのに今更売らないとか言えるのだろうか?


「まぁ、貴族達の態度が悪くて他の国へ売ると言い出す輩もいるらしいから出来なくはないだろうな」


 カイが眉間に皺をよせ私の特級ケースにあるもう一つの特級遺物を取り出す。これは第三区分の物だ。


「これだけでも売れば二千万ゴルにはなる。俺の遺物を売った金もエメラルドに渡すから今回これは売らないでくれないか?頼む、俺もこいつをゼバルドが調べるところに立ち会いたい」

「はぁ?何いってるのカイ!?なんでアナタの遺物のお金を……」

「いや正直俺はゼバルドと一緒に研究できるならコレくらいの金はいらない」


 カイは手にしている第三区分の遺物を拾った小枝でも弄んでいるようにプラプラと振る。いやそれ私のだから、もっと丁寧に扱ってよ。


 ここに居る全員が私に決断を迫るよう視線を向けて来る。


 え?今直ぐ決めなきゃいけないの?


 そう思ってちょっと焦っていると毎度良い仕事をするピッポが口を挟んでくれた。


「とりあえず帰ろうぜ。もう食いもんも無くなってきたし、エメラルドも休ませなきゃだろ」


 そう言って手早く荷物をまとめカイと私の手から遺物をとりあげ特級ケースに仕舞うと私に鍵をかけるよう促し、ホラホラと階段を登れと急かして来た。仕事が出来る(しごでき)だな、ピッポ!


 私は急かされるままにリュディガーとピッポと一緒に階段を登り、外に出ればすっかり日が暮れていた。少しして子爵とカイも出て来てそのまま言葉少なく護衛のダキラ船長とニコラスと合流し馬車へ向かった。もしかしたら男爵とジーナもついてくるんじゃないかと思ったが流石に来なかった。


 私の顔色が悪い事をニコラスに指摘されたがまだ体調が回復しきっていないせいだと言うと直ぐに納得してくれた。護衛二人と別れた後のことは全く追求されず、いい加減そうなニコラスでもプロに徹する事ができるんだなとちょっと感心してしまう。


 二時間ほど馬車に揺られ何とか村へ戻って来た。夕食の時間には間に合わなかったがそれほど遅すぎる時間でもなかった。

 サイラとマグダがホッとした顔で出迎えてくれ私も気が緩んだ。あの遺跡から離れて馬車に揺られている間も頭の中では特級遺物をどうするかとか、遺跡自体やそこに保管されていた遺物の事も気になり考えすぎたせいか体調は思わしくなく、夕食を部屋で取ることにして運んでもらったが手を付けずにいた。


「エメラルド様、お食事はお気に召しませんか?」


 サイラの声にハッとして慌てて首を振る。


「違うよ、ちょっと考えてて」

「ではお食事を済ませてからにしてくださいませ。その後、お風呂に入ってお体を十分に休ませたほうが良い考えが浮かびますよ」


 笑顔だけれど何故か怖いサイラの言葉に素直に従うことにした。




 

ちょっと毎日寒すぎです。

家から出るのがイヤになります。


読んで頂いてありがとうございます。

面白いと思って頂けましたら、ブクマ、評価、宜しくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ