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3話 ダンスはやっぱり美少女と

3話でございます~~

「――魔力炉心、回転発火」


 その言の葉と共に数年ぶりに自身の魔力が高まっていくのを感じる。

 最後に魔力炉心を回転させたのは、二年前の戦い以来だったかと過去に思いを馳せながら、眼前に迫る白銀の一太刀を回避した。


 魔力炉心、それは魔術師を魔術師たらしめる器官であり、通常の人間には存在しない内臓のようなものであり、そこで生み出され、蓄えられた魔力は超常の現象を現世に顕現させるのだ。


 先ほどから日向の周囲に迸る白蒼の稲妻は、体内に抑えきれずに排出された魔力が物質化した超高純度のエネルギーの塊であり、先ほどの吸血鬼の攻撃以上のエネルギーを常に纏っているのと同義であった。


「水銀刀!」


 日向はそう叫ぶと腰のポーチからドロドロとした液体の入った小瓶を取り出し、コルクのような蓋を外してその液体をぶちまける。すると内から零れたその液体は重力に逆らうように空中に浮かび、その姿をまるで刀のような形状に変えていった。


 刹那、火花が散り、甲高い金属音と衝撃派が周囲を駆け巡る。


「――ッ!」


 まるでトラックが正面衝突してきたような衝撃と、次いで全身の筋肉が悲鳴を上げるほどの重さが襲ってきた。


「重すぎだろ……!」


 日向が持つのは魔術的な効果が含まれた水銀の刀。それはまるで日本刀のようで、対する謎の人物が持つのはその倍ほどは大きな大太刀であり、正面切っての鍔迫り合いでは分が悪い。

 故に受けるのでは無く、流すことに意識を集中させ、相手の大太刀を受け流しつつ即座に距離を取る。


火よ、燃えよ(イグニス)!」


 数メートル距離を稼いだ後、左手を広げて眼前の人影を視界に収めながら言葉を紡ぐ。それは神秘の顕現――魔術。

 霊長が万物の霊長となり得た文明の灯である『火』を起こす魔術だ。

 漫画やアニメのように火の玉を打ち出す訳ではなく、対象そのものを発火させる魔術であるため、相手はすぐに火だるまになるはずなのだが……


 神速一閃、流麗な動きで納刀したかと思えば、目にも留まらぬ速さで抜刀された大太刀は、どういう理屈か()()()()()


「なんでもありかよ!?」


 どうやって自身を燃やす火を切ったのか、全く理解が追い付かないが、そもそも世の理から外れたところに位置するのが魔術であり神秘である。

 そういう事もあって当然と言えば当然だ。


 とはいえ戦闘中に生まれた、一瞬の隙の代償は大きかった。

 一呼吸で間合いを詰められ、相手は再び納刀している、大太刀の剣先が届く間合いに入れてしまえばすぐにまた神速の一閃が飛んでくるだろう。


地よ、起これ!(テラ)!」


 刀で受けるか魔術で応戦するかを逡巡した後、日向は左手を床について魔術を行使する。

 左手から地面に魔力が流れていく感覚と共に、相手との間に数メートルはあろうかという巨大な円錐形の刺が無数に顔を出した。


「はっはぁ! 串刺しだぜ! 馬鹿正直に突っ込んでくるからだ! って、は?」


 間抜けな声が出る、それもそうだろう。

 今まさに眼前の敵を貫かんとして生まれてきた無数の刺、その(ことごと)くが一刀の元に切断されたのだから。

 まるで五人の人間が同時に切りかかったかのような、満開の桜の花の姿を連想させるその剣筋を見て日向は目を見張り、少し開いた口から言葉が零れる。


「皇流抜刀術、秘剣、桜花爛漫おうからんまん


「なっ!」


 技名を言い当てたからなのか、初めて相手の感情が日向に伝わる、そして薄皮一枚を隔てて、ピタリと喉元で剣先が止まった。

 それは焦りであり、困惑。


 ガラガラと音を立てて、切られた無数の刺が崩れていく、その衝撃か先ほどまでの激戦の余波を受け続けていた工場の壁や天井の一部が崩落し、光が差し込んできた。


 工場に入ってどの位の時間が経過したのかは分からないが、空の黄昏には夜闇が迫っている。しかし、ずっと暗闇だった屋内を照らすのには充分だった。

 そして、自らに刃を向ける相手の姿がはっきりと映し出されると、日向はやれやれといった感じで肩をすくめる。


「そりゃ強いわけだ、久し振りだな、かえでさん」


「日向殿!?」


 眼前で大太刀を振りかぶっていたのは、綺麗な黒髪をポニーテールにしている美女だった。

 大きな胸にくびれた腰回り、身体のラインが浮き出た黒いスーツには似合わない大太刀の鞘を腰に差している。

 黒く大きな瞳をパチクリとさせ、その表情は驚きに染まっていた。


「こ、これは大変な失礼を」


 ハッとしたのか、喉元に突き付けていた大太刀を鞘に納め、何度も腰を曲げて深々と頭を下げ始める。


「いや、いいさ。つかなんでこんな所に?」


 日向も先ほど刀にした水銀を液状に戻すと、どういう理屈か独りでに小瓶の中へと、まるで逆再生のように戻っていった。


「そ、それはこちらのセリフです! 私は九十九機関の仕事でこの工場で発生した魔物災害に対処しようと来てみれば、不審な人影があったので……」


「それで声もかけずに切りかかったと」


 はぁ、と溜息を吐いて呆れた声音を出せば、楓は頬を搔きながら視線を泳がせた。


「魔物災害に便乗したアウトキャストかと思いまして……ま、まさか日向殿がおられるとは思わず、あははは」


「一誠から聞いてないのか? そもそも九十九機関は今回の件、動かないって話だったから俺のところに回ってきた仕事だったんだが」


 そう言うと、楓は間の抜けた表情で首をかしげる。


「確かに一度は断りましたが、その後首長様の指示で私が事態の鎮圧に向かう事になりまして」


 なるほど、と呟きながら妙な違和感を覚えた。


「そういえば妙な話だ、楓さんは本土にいるはずだろ? おい、まさかとは思うが……」


 嫌な想像が脳裏をよぎる。


「はい、首長様、いらっしゃってますよ? あ、そうそう! 日向殿をお連れするように言いつかっておりますので、丁度良かったです!」


 うって変わって満面の笑みで手を叩きながらそう告げる楓とは正反対に、日向はその場に膝から崩れ落ちた。


「最悪だ、冗談だろ?」


「さ、行きましょう! いやぁ、僥倖僥倖!」


 日向の心情を知ってか知らずか、楓はニコニコとうれしそうに笑う。


「まぁ、いいか。聞きたいことも山ほどあるしな」


 そう言って立ち上がり、周囲を見渡せば中々の惨状が広がっていた。

 文字通りの屍の山。吸血鬼は灰になってしまったのでその痕跡は残っていないが、屍食鬼グールの死体はパッと見ただけでも三百はあるだろう。


(一誠め、後で報酬上乗せで請求してやる)


 心の中で悪態を吐き、外で待機していた柊重工の私兵に依頼完了の報告を済ませる。

 若い兵士は現場を見るやいなや驚愕で目を見開き、現場と日向を何度も見比べてはワナワナと震えており、対して初老の兵士はニヤニヤと笑っていた。


「さて、それではお送りします」


 楓はそう言うとジープのような車に乗り込み、運転席から手招きしている。


「このまま行くのか?」


 そう言って両腕を広げて見せれば、綺麗だったスーツは見る影もなく、屍食鬼グールの返り血や肉片が所々にこびりついており、吸血鬼との戦いで至る所から出血している状況だ。


「ああ~~、流石に不味いですね。というか手当も必要ですし……どうしましょう? 病院?」


 興奮していたのか、日向の惨状に本気で気付いていなかった楓が困ったように腕を組む。


「一旦俺の家に帰る、シャワーくらい浴びさせてくれ」


「分かりました、送ります」


 そのまま車の助手席に座ると、楓がアクセルを踏んで車を出す。


「それにしても、何年ぶりでしょうか、日向殿にお会いするのは」


「んー? ああ、まぁ三年? いや四年くらいか?」


 揺れる車内で、器用に両手と口を使って止血処置をしながら答える。


「もうそんなになりますか……二年前はお会いできませんでしたからね、あの頃が懐かしく感じます」


「ああ、そうだな。楓さんや豪、翠明さん、親父もいたし、それに鬱陶しいアイツもな」


 止血を終えた日向がどこか懐かしそうな表情で目を細めた。


「ふふっ、首長様をアイツ呼ばわり出来るのは世界広しと言えど日向殿くらいでしょう。それにしても、驚きました。最後に手合わせしたのはもっと前でしたから……お強くなられましたね」


「世辞はよしてくれ、魔力炉心を再点火させたのだって二年ぶり、あの戦い以来魔術は使っていないし、剣をまともに振れる相手もいなかった。大分鈍ってる自覚はあるさ」


「そのような事は……この世界に私と剣であそこまでやり合える魔術師はそうおりませんよ?」


「ま、それはそうだろうさ」


 日向はふと運転する楓に視線を向けた。

 楓。苗字は知らない。

 日本を拠点に活動する魔術組織、九十九機関における三柱の最高戦力『八咫烏やたがらす』の一柱であり、()()()人間だ。

 皇流抜刀術の使い手であり、魔術も扱えるらしいが使っているのをこれまでに見たことがない。

 その実力は日向が知る中でも上位であり、楓と純粋な剣の勝負をすれば敗北は必至だろう。


「ここで良かったでしょうか?」


 楓の声でふと我に返る。

 ナビの音声案内が目的地への到着を知らせており、車窓から見上げてみれば、見慣れたボロビルが目に入った。


「ああ、準備が出来るまで上がってお茶でも飲んでてくれ、車はここで大丈夫だ」


「それではお言葉に甘えて」


 そう言って楓と共に階段を上り、ドアを開く。


「ひ、日向殿……?」


 ドアの前で楓は口元に手を当てて絶句していた。


「あ、まぁちょっと汚いけど。あはは、まぁ、うん。そこのソファに座ってくれ」


 信じられないという表情で見つめてくる楓の目を逸らし、そそくさとキッチンでお茶を淹れる。

 楓はなにか諦めたような表情で脱ぎ捨てられた靴下を指先でつまんで移動させると、ちょこんとソファに腰かけていた。


「はぁ~~、つっかれたぁ。もう日も落ちちゃったなぁ、どうだ? 今夜はここに泊まって明日朝一でアイツのとこ行かないか?」


 ローテーブルにお茶を二つ置き、どっかりと身を投げ出すように楓の対面に座った日向は気だるげにそう告げる。


「私はあまり長く首長様のお傍を離れる訳には参らないのですが……首長様にお会いしては日向殿とゆっくり話せる保証も無いですし、そうですね、電話を一本入れさせてください。今首長様のお傍には豪がおりますので」


 楓はそう告げると、一口お茶を飲んで窓辺歩いていき電話をかけ始めた。


「んじゃま、俺はシャワー浴びてくるわ」


 日向は楓が自身に背を向けて電話を始めたのを視界に収めると、一気にお茶を飲み干し、そそくさと別室へと向かう。

 そこは浴室ではなく、寝室。

 クローゼットの中から部屋着である半袖長ズボンのジャージを取り出し、枕元の棚から現代文明が誇る薄いゴムを取り出して枕の下に潜り込ませた。


(まぁ、準備はしとかないとな!)


 思わずニヤけた表情を浮かべる日向は、まだ電話をしている楓を確認するとさっさと浴室へ向かうのであった。


 ◇◆◇


「……はい、はい。いえ、分かりません。直ぐに吸血鬼は始末しましたが、日向殿は何かしらの情報を得た可能性は捨てきれません」


 シャワーに向かった日向に悟られぬよう、努めて小声で今日のことを報告する。


「あ、そういえば今日は日向殿の家に泊ま」


『泊まる!? ふざけるな! 我がシュヴァリエの家に泊まるだと!! ズルいぞ楓貴様! まーーーた、昔のようにシュヴァリエと乳繰り合うつもりであろうが!』


 泊まって情報を聞き出そうと思う。そう告げようとした瞬間、電話越しに聞こえてくる少女の絶叫とも呼べる声が鼓膜を思いっきり叩く。

 スピーカーモードでもないのに周囲に響いていた。


「ちょ、落ち着いてください! なんですかまたって! じょ、情報を聞くだけですから! ……多分」


『多分!? 貴様ぶち殺すぞ!』


 電話の向こうにいる自身の主が憤慨する姿を想像しつつ、少し赤面した楓は日向に聞かれていないか振り返って確認する。

 幸いにもまだシャワーの最中のようで、水音が微かに聞こえてきた。


「と、兎に角。日向殿が何をどこまで知ってしまったのか、最優先で確認する必要があります。それでは明日戻りますので!」


『ちょ、ま』


 何か言いたそうな主をよそに楓は電話を切った。


(今日は()()()の方でしたか……助かりました、もう一つの方だと淡々と冷静に理詰めで帰ってこいって言われそうでしたし。もし仮に飛び出そうとしても豪が止めてくれるでしょう!)


 苦労するであろう同僚を思いながら虚空に向けて敬礼をすると、ふっと息を吐いた。そして今日の出来事を思い返す。

 楓へ下っていた命令は二つ、最優先任務である神崎日向の確保、次いで魔物災害の鎮圧であった。

 魔物災害に関しては吸血鬼の関与と、アウトキャストの介入が疑われた為、急遽任務の優先順位を入れ替えて日向への接触の前に鎮圧することになったのだ。


 しかし、そこで目にしたのは吸血鬼を圧倒していた何者かの存在。

 暗闇故、それが人間か、それとも吸血鬼よりも上位の何かかは直ぐに判断が付かなかった。


「ふふ、まさか日向殿だったとは思いもよりませんでしたが」


 携帯で口元を隠し、そう呟く。

 図らずも上がっていた両端の口角だったが、直ぐにきゅっと口を噤んだ。


(きっと、日向殿は聞いてしまった、神祖の存在を知ってしまった。問題はどこまで知ってしまったのか)


 神祖、楓自身もそれが何たるかは知らないが、九十九機関が総力を挙げて隠匿すべき存在であることは認識している。そしてそれがサングリアルと関係していることも。


(恐らく知られても日向殿であれば命を奪われる可能性は低い……いや、無い。しかし軟禁程度は充分にあり得る)


 自らが仕える九十九機関の首長は日向と懇意にしているが、組織が隠匿している存在を知ってしまえば、どうなるか楓には判断が付かない。


「確かめなくては」


 楓は神妙な面持ちでそう呟いた。

やっと美少女が!楓さんですね~~

ムフフな展開は来るのでしょうか?

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