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2話 踊り明かした先

吸血鬼との戦い、そして……

「ふざっけんなッッ!」


視界を埋め尽くすほどの魔術の波が、眼前に迫る。

それら全てが一発でも喰らえば肉が抉り取られてしまうであろう致命の一撃。


「ははは、踊れ踊れ、そして死ね!」


その発生源は無論、先ほど突然現れた吸血鬼によるもの。

吸血鬼、ドラキュラ、ヴァンパイア。古くはヨーロッパにルーツを持つ魔性の存在。高い知性と人間を遥かに凌ぐ圧倒的な力を持ち、人を襲う。


「ふむ、貴様魔術師なのだろう? 現代の魔術師とはここまで弱いものなのか」


ふと怒涛のような猛攻が止み、吸血鬼が依然として宙に浮かんだままニタニタと見下している。

紙一重で猛攻を避け続けていたからか、いつも仕事で使う対魔物用スーツはあちこちが破れていた。


「……そうだな、魔術師として生きるか、今ここでお前みたいな蝙蝠のなり損ないみたいなクソ野郎に殺されるかだったら、魔術師として生きた方が数億倍マシだわな!」


日向は鼻白んだように口角を上げ、眼前の吸血鬼に中指を立てた。

刹那、黒ずんだ紅のプラズマを纏った力の奔流が周囲を飲み込み、それはは工場内のあらゆる物に干渉して不気味な金属の不協和音を奏で始めた。

それはまさしく眼前の吸血鬼の怒りそのものを空間に表している。


「貴様、よもや我に対してこ、こここ蝙蝠だと……?」


「おや? ああそうか、吸血鬼に蝙蝠は禁句だったっけか? はっ! じゃあそんな恰好するなよな、ゲ〇リーオールドマンも腹抱えて笑ってくれてるぜ!」


青白い額に血筋が浮かび、ワナワナと肩を震わせる吸血鬼に対して更に挑発を繰り返しながら、冷や汗が頬を伝うのを感じた。


(まだ、まだだ。もう少し……)


「現代の魔術師を我が眷属の末端に加えるのも面白かろうと手加減していれば、図に乗りよって……この下等生物めっ!」


(短期か! はえーよ! もっと尊大にフハハハ! みたいな感じで笑ってろ!)


堪忍袋の緒が切れたのか、先ほどまでとは明らかに違う密度の攻撃が視界の全てを埋め尽くした。

それは純粋な魔力の塊。なんの術式も付与されていない、圧倒的な力の顕現。

種族としての格の違いを見せつけるかの如く、眼前の吸血鬼は休む暇もなく魔力をただひたすらに発露する。


「おいおいおい、逃げるだけか? 先ほどまでの威勢はどうした!」


高笑いを織り交ぜる吸血鬼に対して軽口を叩く暇も無く、工場を支えるための巨大な柱を陰に蛇行するようにして全速力で走り回る。

すぐ後ろで連続して起こる爆発は徐々に近づいてきており、チリチリとした熱さが背中を焼き続けた。


ふと、これまで準備していたものが完了したことを、日向自身の身体が告げる。


(ここしかない!)


右脚に全神経を集中させ、筋肉が膨張するのを感じながら迫りくる魔力の塊をギリギリ躱し、吸血鬼に向けて爆発的な加速をもって疾走する。


「む?」


流石に向かってくるとは思っていなかったのか、それとも人間離れしたその速度に唸ったのかは知らないが、その一瞬視界を埋め尽くしていた攻撃の中で針に糸を通すような隙が生まれたのを日向は見逃さない。


「人間、舐めんなあああッ!」


吸血鬼までの距離が数メートルまで近づいたところで全力の跳躍。

傍から見れば完全な悪手、視界を埋め尽くすほどの攻撃の手数を持つ相手に対して回避不能の空中に自ら飛び込むその行為は、文字通り飛んで火にいる夏の虫だろう。


「馬鹿が!」


やはり、跳躍した日向に向かって濁流のような攻撃が迫りくるが、日向は覚悟を決めた表情でその身に受ける。


「――ッ!」


声にならない呻きが漏れ、肌が焼かれたような灼熱の痛みがその身を激しく打つ、額に当たった魔力の塊によって顔が大きく弾かれるが気にしていられない。


「喰らえ! クソ蝙蝠!」


「グッ!?」


即座に腰のポーチから抜いたナイフを吸血鬼の左腕の付け根に深々と突き刺し、ナイフの柄に着いたボタンを押す。その瞬間、ナイフの刃に空いた小さな穴から霧状の液体が噴出され、内部から膨張した吸血鬼の左肩が弾け飛んだ。

空中に飛んだ吸血鬼の左腕と共に、周囲にどす黒い血肉が撒き散らされ、吸血鬼は苦悶の表情で傷口に手を伸ばすと背中から生える羽を使って後方へ跳ねる。


「は! ざまぁみろ」


満身創痍、身体のあちこちから血が滴る中、先ほど攻撃が当たって出血している右側の額の血を拭いながら、憎悪と怒りに歪んだ表情の吸血鬼に中指を立てた。


「傷が塞がらない……聖水か!」


「おうさ、魔術儀礼済みの上位聖水だ、流石に良く効くみたいで安心したぜ」


そう言って手に持っていたナイフを投げ捨てる。

マジックワスプナイフ、本来であれば刃に空いた小さな穴からCO2のガスを噴出し、内部から破裂させる対猛獣の護身用ナイフだ。

今回日向が持ってきたのはその化け物用、CO2と共に魔物に対して高い効果を持つ聖水を噴出し、更に魔術によってその威力を底上げしたものだった。魔物に対して聖水は銀と同様に回復能力の阻害など、高い威力を発揮する。

吸血鬼が姿を現すまで屍食鬼グール相手に相当数を使用しており、ナイフと替えのカートリッジ含めて次の一本がラストの代物だ。


「だがな、腕の一本無くした程度で貴様如き木っ端魔術師と我の彼我の差が埋まると思わぬことだ」


唸るような声の中には怨嗟がありありと含まれていた。

しかしそれを柳に風と受け流し、日向は追撃を放とうとしない、代わりに全身を脱力させ、その場に立ち尽くす。


「万策尽きたか? はっ、最後の抵抗という訳か! よかろう、貴様の血肉をもって我が左腕を癒し今宵のつまらぬ戦いを終わらせよう!」


「最後の抵抗……? はは、おめでたい奴だなお前も、なにを()()()()()()()()()


「は……?」


「ここからはずっと俺のターンだ」


日向がそう呟いた刹那、先ほどまで吸血鬼が放っていた魔力の奔流とは比べ物にならないほどの、津波のような衝撃が周囲の空間を一瞬にして支配した。


「――魔力炉心、再点火」


その一言と共に、頑強なコンクリートの壁や床に大小様々なヒビが走る。

白蒼のプラズマが地を伝い、空気を振動させ、周囲を不気味に照らす、まるで大気が、地面が、神崎日向という存在に畏れているような神々しいとまで思えるその光景に、吸血鬼はあんぐりと口を開いて絶句していた。


「さあ、鏖殺だ」


そう言って体の周囲に白蒼の稲妻を纏いながら、ニヤリと笑う日向の言葉と共に第二ラウンドが幕を開けた。


◇◆◇


吸血鬼はその場から一歩も動けずにいた。

おかしい、明らかにおかしい。

自分は吸血鬼の中でも上位に位置する伯爵の位を授かる存在。ただそこに在るだけで周囲の生命体は畏怖し、自ら死を懇願してくる死の具現。

そも、そんな存在に立ち向かってくる時点で頭のネジが外れた異常者か、戦力差も理解できない哀れな頭しか持たぬ雑種、もしくは――。


(恐れる必要のない強者……だとでも言うのか!? 有り得ぬ、断じて有り得ぬ、あってはならぬ! 矮小な人の身で、あんなふざけた者が!)


ふと自身の指先が震えているのに気付いた、馬鹿げた魔力の高鳴りによって震える大気のせいかとも思ったが、本能がそれを否定する。

自分は、まるで災害のような威風を放つ下等種族の人間に恐れているのだと。心の奥底でどうしようもなく理解してしまう。


「くっ……ふざけ」


刹那、ほんの一瞬だった。震えていた指先に意識が奪われたその一瞬で、眼前に居たはずの男は白蒼の雷をその場に残ししたまま、姿を霞のように消し去っていた。それを認識した瞬間、右脚に激痛が走る。


「虎の子だ!」


鼓膜を叩くその叫びと共に激痛の先に視線を配れば、先ほどのナイフが太ももに深々と刺さっていた。


「まずっ……!」


即座に距離を取ろうとしたが時既に遅し、先ほどの左腕同様、灼けるような痛みが全身に走ったかと思うと右脚の肉が内側から花を咲かせたように破裂していた。

それを認識すると同時、片脚をほぼ失ったも同義なこの身体はバランスを崩して地に伏せようとする。


「舐めるな!」


人間と吸血鬼の圧倒的な差、それは驚異的な膂力や回復力など、素のステータスで種族としての格が違うのは勿論だが――。


「ここは我の独壇場よ!」


翼の有無。人間には存在しない器官による三次元の戦い、空中は翼をもたない人間にとってはいくら手を伸ばそうが届かない領域……のはずだった。


「あっそ」


「ぐあっ!?」


呆れたような、憐れむような声音と共に地を這いつくばるはずの人間が眼前に現れ、そのまま上から振り下ろされる稲妻を纏った拳によって飛んだばかりの吸血鬼は哀れな蠅のように地面に叩きつけられた。

土煙と共に衝撃が空中を駆け抜ける。


気が付けば息が上がり、打撃のショックのせいか視界の焦点が定まらない。

優に数百年を生きた吸血鬼は、生まれて初めて死というものを知覚していた。


(こっ、殺される!? 我が!? 人間に!?)


身体のあちこちから響く鈍痛と、死を知覚したことによる焦燥。

そして、漆黒の装衣を身に纏った死神の足音が、段々と近づいてくる恐怖。


「なあ、お前らみたいな害悪がいなけりゃよ、俺は酒飲んで煙草吸って、女と遊んでマスかいて安心して寝れる訳なんだよ。ここらで転がってる死体になった人も死なずに済んだ訳だ、なぁ、なんでだ? なんでお前ら存在してるんだよ」


どこまでも冷たい声音だった。

まるで蟻にでも語り掛けているかのような、慈悲の片鱗すらも感じられない、およそ生命に向けて発せられるとは思えぬその声音には、溢れんばかりの憎悪が漲っている。


「……まぁいい、答えろ」


「ぐあっ!」


髪を掴まれ、俯いていた顔を強制的に上げられる。


「何故、この工場を襲った?」


「ひっ!」


自身をのぞき込む男の双眸は、全てを飲み干す漆黒だった。光はなく、いや、光すらも飲み込んだ故の漆黒。

およそ若い人間がもてる瞳ではない。

人間如きに喋るものか。一瞬芽生えた誇り高き哀れな吸血鬼のプライドは、その瞳によっていともたやすく砕け散る。


「し……神祖の復活だ」


「神祖……?」


男はこれまでの無表情を崩し、困惑の表情を浮かべた。


◇◆◇


ふと気になっていた疑問が零れた。

そもそもが妙な話なのだ、人生で一度出会うかどうかという伝説上の存在と呼んでも差支えの無い吸血鬼が何故人工島の、しかもエネルギー工場をわざわざ()()()のか。なにか裏があると思わざるを得ない。


「何故、この工場を襲った?」


「し……神祖の復活だ」


そう零した吸血鬼の言葉に対して、脳内にクエスチョンマークが溢れてくる。


「神祖……?」


「そ、そうだ……ここ」


日向の問いかけに対して言葉を紡ごうとしたその刹那、吸血鬼の額にクナイのような形状のナイフが突き刺さり、その瞬間吸血鬼は青白い炎に焼かれ、耳をつんざくような断末魔と共に数瞬の間に灰となった。


「誰だっ!」


即座に警戒態勢を取り、辛うじてその姿を保っている柱の陰に身を隠す。


「……」


「返事無し、ね」


(吸血鬼を狙ったという事は同業者……? 依頼のダブルブッキングか? 一誠め)


心の内でまだ犯人でもない一誠への恨み言を呟きながら暗闇の向こう側にいるであろう謎の人物の力量を見定めようと意識を集中させる。


「おいおい、なんだ本当に人間か?」


意図せず言葉が漏れた、それは相手の魔力が異常に高いとかそういうことではなく、()()()()()()()()

通常、生物であれば魔力を完全に隠すことなど不可能、どう足掻いてもどういった存在なのか、おぼろげでもその輪郭が溢れ、見えてくるものなのだが……

しかし、それが見えてこない。まるで無機物を相手にしているかのような感覚。


(不気味だ)


刹那、隠れていた柱が奇麗に切断されてずり落ちていく。


「はぁっ!?」


人影が見えていた距離から柱まで約十数メートルはあった筈だが、身を翻して振り替えてみれば謎の人影は真後ろにまで接近していた。

その手には日向の身長程ある大太刀が握られており、その刀身が差し込む光を美しく反射している。


その輝きに目を奪われていれば、スラリとその輝きが闇に消えていった。


(納刀した……?)


「――流抜刀術、大祓おおはらい


「抜刀術かよ!? 大太刀だろそれ!?」


淡々とそう告げる謎の人物の言葉をよそに、図らずも驚愕の声を上げてしまう。

しかしそんな驚愕をよそに、神速の横薙ぎとして放たれた抜刀術は顎の下ギリギリを掠めていく。


「ははは……ガチかよ」


「ほぅ、避けられましたか」


先ほどとは違い、明確に聞こえたその声は静謐な響きをもった女性のものだった。

さてここで皆さまお待ちかねの女性登場です。

思えば1話の段階でおっさんと蝙蝠擬きしか出て来てない……!?

ラノベ的に良いのか?


いやまて、この話でも影が見えたくらいで登場した女性が可愛いのかどうかも分からない!!

もしかしたらイルカの顔面をボコボコにしたみたいなキャラだったらどうしよう!?

ちゃんと次で登場しますのでご安心をば

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