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天下統一、ゾンビアイランド!  作者: 冬月之雪猫@雪化粧
第一章『死屍累々、ゾンビアイランド!』
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第八話『天下人となるに相応しき器を拙者は大輝殿の内に見たでござる!』

「政治と法律が機能を停止して二ヶ月あまり、日本は七つに分断されたでござるよ」


 七つと言われて、真っ先に思い浮かんだのは日本に降り注いだ隕石の数だ。


「隕石も七つだったわね。それが理由?」

「御明察でござる。隕石の落下地点、それはゾンビが最初に発生した地点でもある。御存知の通り、ゾンビは不死身。それ故、日本政府はゾンビを抑え込む為に落下地点を柵で取り囲む事で隔離する事を決めた。そして、そこにはまだ生きている人間が何人も取り残されていたのでござる」

「そいつらが決起したって事?」

然様(さよう)。彼らは自衛の為に団結を余儀なくされ、自分達を見捨てた政府を恨んだ。政府への復讐を目論んだ勢力も居たようでござる。ただ、一大勢力となった時には政府が陥落しており、彼らはそのまま自分達の縄張りの自治に務めるようになったのでござるよ」

「なるほど、そのまま陣取り合戦が始まっちゃったわけね」

「その通り。それぞれの勢力の長はそれぞれが類稀なるカリスマ性と意思の持ち主。それ故に思惑はどうあれ、彼らは天下取りに動き始めているのです」

「要するに、どいつもこいつも野心の塊だったってわけね」


 まさに乱世の戦国時代だ。


「彼らによって、日本列島は七つに色分けされたでござる。ただ、そのおかげで各地の治安はそれなりに回復している様子も伝え聞いております故、悪しようにばかりは言えないでござるが……」

「アンタ、関東を唯一の空白地帯とか言ってたわよね?」

「覚えておられましたか! その通りでござる。関東地方はトップが不在の状況なのでござるよ。本来、その役割を果たすべき政治家達が例の国会議事堂崩壊事件で死に絶えてしまいましたからな。自衛隊の生き残りなどが音頭を取ろうとしているのでござるが、他地方の状況が関東では悪い方向に影響を齎してしまった……」

「……自分が頂点に立ちたいって人間が次々に旗揚げしていったってとこ?」

「その通りでござる。おかげで関東地方は未だバラバラ。おまけに中部地方を支配している『阿覇煉暴』と東北地方を支配している『女帝』が互いに関東を掌中に収めようと衝突を繰り返しておりまして、まさしく混沌の坩堝(るつぼ)となっている状況でござる」

「阿覇煉暴だと? 蘭堂の奴か?」


 それまで黙っていた大輝が反応した。


「それは先代の総長の名でござるな。今の総長は石田松陽なる人物でござる」

「……そうか」

「知り合いなの?」

「蘭堂とはやり合った事がある」


 何をとは問わない。どうせ喧嘩の事に決まっているからだ。


「……やはり」

「どうしたの?」

「大輝殿。貴殿はかの有名なボッチ暴走族殿でござるな!?」


 わたしは吹き出してハンドル操作をミスってしまった。危うく、道端の事故車に突っ込む所だった。


「ちょっと! いきなり変な事を言わないでよ!」

「いや、間違いないでござる! 嘗て、関東最大の愚連隊であった阿覇煉暴をたった一人で壊滅においやった伝説の男! 詳細は一切分からず、ネットではボッチ暴走族の名で呼ばれている存在でござるよ!」

「……そ、その呼び方、浸透してんのか?」


 さすがに嫌だったみたいだ。大輝の声は若干震えている。


「ええ、ネットでは一時期トレンド入りを果たしておりました! あの蘭堂を下した男として!」

「そんなに凄い奴だったの? その蘭堂って」

「ええ、それはもう! 阿覇煉暴の蘭堂と言えば、ヤクザの幹部を血祭りにあげて、暴走族でありながらヤクザと事を構え、そのまま潰してしまったという伝説があるんだよ。警察が何度か逮捕に動いたようなんだけど、警察側に死人が出た為に一時期は緊張状態が続いていたんだ。その状況を一変させたのがボッチ暴走族!」


 進ノ介は口調が素に戻るほど興奮している。そして、進ノ介の興奮とは反比例して、ボッチ暴走族は落ち込んでいる。


「たった一人で阿覇煉暴を壊滅させ、関東から追い出した事はまさに偉業としか言いようがなく! 正体不明という部分からも人気を博しました。イラストサイトでは想像で描かれたボッチ暴走族のイラストなどもありましたな」

「え? 見たい!」

「見るな!」

「あ、あいにく、ネットにはもう繋げられなくなっているでござるからなぁ……」

「……ったく」


 大輝はあからさまに安心したような声色で毒づいた。


「おい、進ノ介。俺は孤高の狼王、竜河大輝だ! ネットの連中にもきちっと分からせとけよ」

「いや、ですからネット自体がもう無いんですって……」


 そんな風に話していると、徐々に六本木が近付いて来た。そして、わたしはとある一点を見つめて、すごく嫌な予感がした。


「……すっごい煙上がってるんだけど」

「火事でしょうか……」

「行ってみりゃ、分かんだろ」


 ただの火事にしては煙が多過ぎる気がする。だけど、ここで止まっていても仕方がない。

 大輝の言う通り、行ってみれば分かる筈だ。わたしは再びアクセルを踏んだ。

 そして、しばらく走った先に破壊されたバリケードの痕跡を見つけた。


「……これ、ゾンビがやったと思う?」

「あり得ませんな。ゾンビは人間を襲う時以外は声を上げながら徘徊するばかりでござる。それに、いくら熊並のパワーを持っているからと言って、これほど立派なバリケードを突破出来る知性はないでござるよ」

 

 進ノ介は原型を残している部分のバリケードの頑強さを見ながら言った。


「じゃあ、人間ね。さっき言ってた、阿覇煉暴の石田とか言うやつが乗り込んできたとか? 東北の女帝とやらも関東を狙ってるって言ってたわよね?」

「可能性が無いこともありませんが、決めつけるには早いかと。関東には我こそが天下を取らんと旗揚げした者達が数多くおります故」

「まあ、サンプラザの連中もその手の輩の一つだったわけだしね」


 さて、どうしたものか。安全地帯だと思って来たわけだけど、あまり安全ではなくなっていそうだ。


「別の場所を目指す?」

「いや、状況を確認しておくべきでござるよ。遠巻きに見ているだけでは天下は取れませんからな」

「……アンタも同じ穴の狢か」

「え? いや、そうではなく! 拙者ではなく、天下を取るのは大輝殿でござるよ!」

「あ?」


 進ノ介は胸を張りながら言った。


「この乱世を収めるには天下統一を果たし、強権を用いて、日本全土を一致団結させた上で対処に乗り出す他、手立てはござらん! そして、天下人となるに相応しき器を拙者は大輝殿の内に見たでござる!」

「……くだらねぇ」


 進ノ介の演説に対して、大輝は欠伸をした。


「今はそれで構いませぬ。時が来たならば、必ずや貴殿は天下人となられる」

「……アンタ、キモいわよ」

「ふっふっふっふ」


 どうやら、いつの間にか進ノ介は侍から狂信者にジョブチェンジしていたようだ。

 そこそこ役に立ちそうだけど、妙な事を企むようなら始末してしまおう。

 大輝は天下人になんてならなくていい。わたしの隣こそが彼の唯一立つべき場所だ。

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