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天下統一、ゾンビアイランド!  作者: 冬月之雪猫@雪化粧
第一章『死屍累々、ゾンビアイランド!』
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第三話『拙者の風雲中野城に何用でござるか!?』

 隕石落下から二ヶ月。わたしは今も生き延びている。

 竜河大輝はまさしく最強だ。襲い掛かってくるゾンビをバッタバッタとなぎ倒していく。時々、わたし目当てに襲い掛かってくる人間も鎧袖一触(がいしゅういっしょく)だ。だけど、彼には問題がある。それは人間を殺そうとしない事だ。

 この倫理観ゼロが当たり前の新世界に生きる上で、不殺を貫くなど現実的ではない。けれど、彼はぶっ飛ばした人間にトドメを刺さない。だから、わたしがこっそり首を掻き切っている。この作業の為に一瞬とは言え、大輝から離れなければいけなくなるのは頂けない。

 わたし自身の安全の為にも、彼には生きていてもらわなければならない。その為には甘さを捨てさせる必要がある。彼の情けはわたしにだけ向けられていればいいのだ。

 恋愛的な意味だけではなく、殺人的な意味でも童貞である彼にはさっさと初体験を済ませてもらおう。

 その為にもっとも効率的かつ効果的なのはわたしがピンチに陥る事だ。彼と行動を共にし始めてから一ヶ月、彼はしっかりとわたしを守ってくれている。わたしを助ける為に必要なら、きっと人を殺してくれる筈だ。

 その為に、生贄を慎重に選ばなければいけない。殺しても罪悪感を抱かない相手が理想だ。彼に苦悩を背負わせたいわけではないのだ。


「……お?」


 嘗ては中野と呼ばれていた地区に入ると、いい感じの男を発見した。

 脂ギッシュな肥満ボディを謎のロゴが入ったシャツで包み込み、サイズの合わないボトムスを履いている。

 手ぬぐいを頭に巻く意味不明なファッションセンスが実に良い。

 中野名物のオタクだ。適度に女に飢えていそうだし、簡単に操れそうだ。アレなら殺しても心など痛まないし、素晴らしい逸材だと思う。問題はかなり弱そうな点だ。殺さなくても、少し脅すだけで震えて何も出来なくなってしまいそうだ。それでは困る。彼には死んでもらわないといけないのだから。

 うっかり殺してしまった風になるようトラップを仕掛けてみるのもいいかもしれない。殴り飛ばした先に鋭く尖った物が偶然あるとか、蹴り倒した先に丁度良く大きな石が落ちているとか、そういう偶然は往々にしてあるものだ。もしくは、予め毒を飲ませておくのも悪くない。要は大輝に自分で彼を殺してしまったと思い込ませる事が出来れば良いのだから、本当に彼の手で殺させる必要はない。

 殺人は一回経験すれば、二回目以降のハードルがグッと下がる。これは彼の為なのだ。


「ねぇ、ダーリン! 幸音、疲れちゃったの。ちょっと、休憩していかない?」

「あぁ? マジかよ……」


 大輝はやれやれと肩を竦めながら休憩場所を探し始めた。


「あそこ、商店街っぽくない?」

「んー? ああ、みてぇだな」

「よーし、いこいこー!」

「だ、だから、俺に来やすく触れんじゃねぇ!」


 この一ヶ月、それなりの頻度でスキンシップを取って来たけど、この男の初心っぷりは全然変わっていない。

 やれやれと思うけれど、それよりもオタクが入って行った商店街に向かう事が重要だ。

 嘗ては中野サンモールと呼ばれていた廃墟。その奥には中野ブロードウェイというオタクの聖地がある。

 きっと、ターゲットはそこに向かったのだ。


 ◆


 中野サンモール内は思ったよりも綺麗だった。廃墟ではあるけれど、原型をかなり留めている。


「ついでだし、着替えていこうかな!」

「好きにしやがれ」


 わたしは手近な服飾店で可愛い服を見繕った。旧世界では見ている事しか出来なかった高級な服に身を包んで、心機一転だ。


「じゃじゃーん! どう? 可愛いでしょ!?」

「……知るかよ」


 そう言いながらも彼は赤くなりながらわたしをチラチラ見ている。言葉はツンケンしていても、体は素直だ。わたしは上機嫌で彼の手を握った。


「おい!」

「さあ、奥に進もう! あんまり荒らされてないし、食料が手に入るかも!」

「……ったく」


 手を振り払われた。ちょっとムッとなるけど我慢して奥へ進んでいく。

 途中にはラーメン屋だとか、ケーキ屋だとかが並んでいたけれど、目ぼしいものは何も無かった。

 残念だけど仕方がない。コンビニやスーパーからも段々と食料品が尽き始めている。新しく生産する余裕などないけれど、人は食べなければ生きていけない。遅かれ早かれ、こうなる事は目に見えていた。

 幸い、民家にはストックが残っている事が多い。お店の物を盗もうとすると争奪戦が始まったり、略奪目的で襲い掛かってくる人間が現れたりと大変だけど、民家で盗む分には原住民さえいなければ争い事も発生しない。まさに穴場だ。どうやら、大抵の人間は民家よりも店で盗む方が抵抗が薄いらしい。

 それにしても、まさに根こそぎだ。冷蔵庫には長ネギの一本さえ残っていない。


「ゾンビ共はいねぇな」

「だねー」


 大輝はつまらなそうだ。どうやら、ゾンビが恋しくて仕方ない様子。まったくもって理解が出来ない。


「大輝はどうしてゾンビと戦いたいの?」


 初対面の時に言っていた『お楽しみ』もゾンビとの戦いの事だった。彼が戦っている最中にわたしが犬笛を吹いてしまって、お楽しみタイムが中断してしまったらしい。

 

「どうして? 楽しいからに決まってんだろ! 殴っても蹴っても、連中は向かって来やがる! 人間にはねぇ、タフネス! それが良いんだ」

「そうなんだ」


 そうこう話している内に中野ブロードウェイの前までやって来た。そこにはバリケードが築かれている。


「やっぱり、こうなってたかぁ……」

「なんだこりゃ? 中に入れねぇじゃねぇか」

「ゾンビが入ってこないようにしているんだと思う」


 恐らく、サンモールの食料は軒並みブロードウェイ内に運び込まれているのだろう。

 

「多分、何処かに出入り口があると思うんだけど……」


 わたしは左右を見た。


「あっちの脇道に行ってみよう!」

「おう」


 元々は自転車置き場だったようだ。その一角に扉があった。他とは違って、封鎖されていない。


「……よし! もしもーし!」


 扉を叩いてみる。だけど、応答はない。恐る恐るノブを回してみると、呆気なく開いた。


「あれ?」


 表には立派なバリケードを築いていて、窓にはすべて板が打ち付けられているのに、ここだけ妙に不用心だ。わたしは不安に駆られたけれど、いざとなれば大輝がいる。わたしは意を決して中に入った。


「……ゲームセンター?」


 そこはゲームセンターだった。ゲームの筐体が並んでいたり、UFOキャッチャーのマシンが置いてある。

 

「そこで止まるでござる!」

「ござる……?」


 聞き間違いかと思った。


「拙者の風雲中野城に何用でござるか!?」

「風雲中野城!?」

「そこかぁ!」

「ひぃっ!?」


 風雲中野城のネーミングにわたしが目を白黒させていると、大輝が声のする方向にあるゲームの筐体を蹴り飛ばした。すると、大柄な男が悲鳴を上げながら逃げていった。

 どうやら、わたしが生贄に選んだオタクのようだ。


「んだコラァ!」


 大輝は男を追い掛けて走り始めた。

 まずい。このままでは普通にのされて終わってしまう。

 逃げて、オタクくん! あなたには大輝の(殺人の)童貞を卒業させる使命があるのだから!

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