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天下統一、ゾンビアイランド!  作者: 冬月之雪猫@雪化粧
第一章『死屍累々、ゾンビアイランド!』
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第九話『彼らこそ、元関東最大の愚連隊、阿覇煉暴でござる!』

 六本木は案の定というべきか、ゾンビの巣窟になっていた。

 バリケードが築かれていたところを見ると、一度はゾンビをすべて追い出す事に成功していたのだろう。それなのに、この有り様だ。


「火の手があちこちで上がってる。今も戦闘中って事ね」

「ここには逃げ延びた一般人も多くいる筈でござる。出来れば、加勢したい所なのでござるが……」

「行っていいわよ。わたし達はどっかでゆっくり休んでるから」

「うむ。拙者一人に何が出来るか分からぬが、ここで動かざるは武士にあらず! 行って来るでござる!」

「え? マジで行く気なの?」

「ジッとしていると、ついつい動かない理由を考えてしまいそうになる。それで拙者、一度仲間を失っているでござるからな。いつ死ぬか分からぬ状況、せめて悔いは残したくないでござるよ」

「進ノ介……」

「幸音殿。申し訳ございませぬが、一度車を止めて頂きたく」

「待って、もうちょっと状況を見てからにする」

「え?」


 いずれは処分する事も検討しているけれど、進ノ介は割と役に立つ。みすみす無駄死にさせるわけにはいかない。


「助けるにしても、今がどういう状況なのか確かめないと迷惑を掛けるだけかもしれないわよ。ラジオの放送はまだ変わってない?」

「え、ええ、変わっておりません。相変わらず、避難の呼び掛けが続いております」

「という事はかなり切羽詰まってる感じね。避難を呼び掛けていたのはここが安全だったから。危険地帯に変わったのならすぐに放送を切らないと、わざわざ死にに来させる事になる。ラジオの放送を切るなんて、その気になればすぐに出来る事なのにやらないって事は相当ヤバい状態ってわけ。まず間違いなく、六本木ヒルズ自体が落ちてる。その後、散り散りになった連中が周辺の家屋や施設に逃げ込んで戦闘を継続、それがあちこちで火の手が上がっている理由だとすると……」


 運転しながらだと考えを纏めるのも大変だ。だけど、今ある情報から掴める部分はすべて掴んでおかないと、新たな情報を得た時に混乱してしまう。


「ゾンビは人間以外を襲わない。バリケードなども自慢のパワーで破壊しようとはしない。ただ、その先に行こうと歩き続けるだけ。知性がないと言うか、人間以外を感知出来てない可能性があるって、テレビが生きてた頃にコメンテーターが言ってたわね」

「いや、それは誤りでござるよ。それならば中野ブロードウェイで奴らが階段を降りて来た事の説明がつきませぬ。人間以外を感知出来ないとすれば、我々の頭上に集まっていた筈でござるから」

「たしかにね。だとすると、階段を使う程度の知性は残ってる感じか……」


 ゾンビの生態がイマイチ掴み切れていない。


「……もっとシンプルに考えた方がいいかもしれませんな」

「シンプルって?」

「ゾンビは階段を使う。けれど、バリケードを破壊しない。ゾンビのパワーならばバリケードの破壊など容易いですが、人間の力では難しい。その辺りの『人間としての常識』が彼らの中に残っているのかもしれませぬ」

「だったら、なんで人間を襲うのよ……」

「優先順位があるのでしょう。人間を襲うのは彼らにとって、最も優先すべき本能であり、その下に人としての常識があるとすれば、多少は彼らを理解出来る気がするでござる」

「常識っていうか、体に染み付いた経験則かもね」

「『潜在的記憶』と『顕在的記憶』でござるな」

「は? なにそれ」

「潜在的記憶は体が無意識的に覚えている記憶であり、顕在的記憶は脳が意識的に覚えている記憶の事でござる。潜在的記憶には条件反射などが含まれるでござるよ。恐らく、ゾンビは顕在的記憶を失っているが、潜在的記憶を残しているという事でござろう」

「……アンタ、変な事に詳しいわね。けど、そういう事でしょうね。だとすると、火の手が上がっている原因はゾンビではなく、人間の方である可能性が高いわね」

「ゾンビの数が尋常ではござらん。恐らく、二つの勢力の殺し合いによって、この地で生まれてしまったゾンビ達なのでござろう」


 進ノ介は窓の向こうで屯しているゾンビ達を見ながら言った。


「進ノ介。とりあえず、優先順位を決めるわ」

「優先順位ですか?」

「そうよ。まずは自衛隊の装備の入手よ。武器や無線を手に入れる」

「……それは人命よりも優先すべきものなのでござるか?」

「そうよ。人命を救いたいなら、救う手段が必要になる。あんた、その刀だけでどれだけの人間を救えるつもりなの?」


 わたしの言葉に進ノ介は押し黙った。ここで人命は何よりも優先されるとかほざくようなら捨てていくつもりだったけれど、冷静な判断力を残してくれていて良かった。


「わたしの拳銃も弾数が少なくなって来てる。遠距離攻撃の手段を確保しないと詰む可能性が高くなる。それに、無線が入手出来れば状況把握が楽になって、助けに行くべき場所も分かる。闇雲に動き回るよりずっと効率的よ」

「……承知したでござる。して、何処へ向かうでござるか?」

「六本木ヒルズよ。元々の拠点なら、装備が残っている筈。それに、ラジオも止めておかないとまずいわ。ただ、ここを襲った連中が占拠している可能性が高いから、その場合は別の手段を探す」

「別の手段なんざ要らねぇだろ」


 大輝が言った。


「ヒルズの連中は俺がぶっ飛ばしてやる」

「……まあ、そう言うと思ったわ。ただ、相手は自衛隊の銃器で応戦してくる可能性が高いわ。その場合は撤退よ。槍はどうにか出来ても、さすがに銃は無理でしょ?」

「その銃が欲しいってんだろ? まあ、任せろ」


 大輝は自信満々だ。だけど、やはり銃器相手に素手での特攻は無謀だ。

 とは言え、今回は火攻めが使えない。そんな事をしたら折角の自衛隊の装備が手に入らなくなってしまう。銃器も欲しいけれど、もっと欲しいのは手榴弾やスタングレネードなどだ。他にも保存食などがあれば欲しい。そろそろ、日本中で食料が尽き始める頃合いだ。賞味期限はともかく、消費期限が過ぎた食べ物を迂闊に食べたらお腹を壊してしまう。そうなると、この新世界では致命的だ。

 なにしろ、病院も機能を停止しているのだ。病気になっても治療が受けられない。一般家庭にも保存食の備蓄はそれなりにあると思うけれど、ある程度のまとまった数を確保して置きたい。


「見えて来たでござるな」


 そして、わたし達は六本木ヒルズに辿り着いた。バイクに乗った男達が睨みを利かせている。


「あれが?」

「ええ、間違いないでござる。彼らこそ、元関東最大の愚連隊、阿覇煉暴でござる!」

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