表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある後宮にて  作者: おこたつ
1/2

女王side

初投稿です。温かい目で見守ってください……!

念のためR15を付けますが、2話程度で終わります……!





柔らかな月明かりが周囲を照らす、穏やかな夜。

夏も終わりに近づき、夜には少し冷えるようになってきた。


雪華国の女王として、即位してから早くも七年。今は治世も落ち着き、臣下の苦言から悩ませられるのは、主に王配と世継ぎのこと。



側室を置き、その中から王配を選ぶようにと毎日のように言われている。言われるがままに、候補の中から選んだ側室は既にいるものの、私は王配を置くつもりはなかった。



代々王家は短命であり、三十歳前後で亡くなっている。現在二十六歳になる私がもし子を無事に産めたとしても、我が子と過ごせる時間は長くない。私が知る全てを教え、成長を見守るには時間がなさすぎた。



ただ、数ある貴族の中から政治的側面から王配を選ぶのが面倒だった、というのもある。



何も、考え無しに結婚したくないと言っているわけではない。次期王については既に考えている。不思議なことに、王家の血から離れているほど長命になる、もうすぐ四十歳になろうという叔父である。


便宜上、叔父と呼んではいるが父の兄弟ではなく、父の再従兄弟にあたる。


父である前王と親交が深かった叔父は、前王の約束の元、私が王位を継ぐ前からずっと支えてくれている。治世が落ち着いているのも、ひとえに叔父の存在が大きい。


次期王には叔父が相応しいと思い、何度も叔父や臣下達にも伝えているのだが、なかなか納得してはくれない。


「直系に流れる血こそが至上」と考えられるこの国において、前王である父のさらに三代前の王の、第四王子の孫になる叔父は、所謂「王家の末端」であり、王位継承権はない。


その叔父が、一度だけ心中を吐露したことがある。




「陛下…?何をそのようにお考えなのです?大事なお話があるとお聞きしましたが、そのことに何か関係が?」



その言葉について考えている途中で、今自分がどこにいるのか、何をしなくてはいけないのかを思い出した。



目の前には、一際黒く美しい長い髪を緩く束ね、顔立ちの整った男が微笑んでいた。冷えてはいけないからと、私に自身の上着を着せ、さらには寝つきを良くする茶をいれているところだった。



今から話す内容に、この男がどのような反応を示すのか、知り合ってから十年、後宮に入って五年経つものの、私は分からなかった。いつも本心なのか、そうではないのか区別のつかない彼の態度を、私は好んではいなかった。



蘭家当主からの命で王配の座を狙っているのだろうが、彼自身どう思っているのか、今までそれとなく聞いてみたものの明確な答えを得られたことはなかった。



詰まるところ私は、この男のことを何も知らないのである。




「ああ、すまない。少し考え事をしていた。」



 

左様ですか。と柔らかく笑う彼との間に再び訪れる沈黙から逃れるように、私は言葉を続けた。




「………単刀直入に言う。私と、離縁してほしい。」



 

茶を注ぐ音がぴたりと止まり、微笑を湛えていた彼の頬が、ほんの一瞬、強張ったのが見えた。





「……ふふっ。陛下、こちらへ来る前にお酒を召されましたか?もしや、誰かとお間違いに?」




どんな事があろうとも、決して笑みを崩さず上品に笑う彼を、流石はこの国で王家の次に権力の高い蘭家の者だ。などと人事のように考えていた。





「…いいや、酒は呑んでいない。…其方と蘭家には申し訳ないが、以前から言っていたように、私は世継ぎを作るつもりがない。


故に、王配も選ぶつもりはない。だと言うのに、いつまでも多くの側室達をこの閉ざされた後宮に縛り、一生を終えさせるのは不憫だと、そうは思わないか?」




彼らにとって離縁はそれほど悪いことではない。こちらから謝礼金と共に離縁を申し出るが、後宮に居た期間が長いほど箔が着き、次の縁談もまとまりやすい。

後宮での在籍期間が短くとも、話を良く聞いて思い人が居れば、その者との仲を取り持つことなどもした。



そして何より、血を守るため私は王族である限り王宮から出られないが、彼らは離縁すればどこへとでもいけるのだ。話を聞くたびに憧れる、王宮外のあらゆる場所に。




「…いいえ。貴女様のお側に居られるなら、これほど幸福な事はありません。私の幸せは、いつも貴女様のお側にあるのです。その幸せを、どうか奪わないでいただきたいのです」




いつもそうだった。まるで模範的な甘言を、彼はいつも私に告げていた。

後宮に来てからしばらくの頃、帰りたいとは思わないのか、と言う問いかけに対しても、やはり似たような事を言っていた。

私はそれをどこか冷めた気持ちで聞いていた。




「それに…このような話は以前にも「私には、好いた者がいる」



はっと、大きく開かれた目からは動揺が見てとれた。



「これは私の我儘だということはわかっているが、私はその者と共にこの先も過ごしていきたいのだ。私が愛するのはただ1人。これからも、この先も、このような気持ちを抱くのはきっと彼だけだ。


……故に、離縁してほしい。もちろん、離縁するにあたって其方の望みは出来る限り叶えよう」




「………離縁……ですか。私と、陛下が……。黎家の、あの男のために…?」



今度は私の方が驚く番だった。



「知って、いたのか…」



すると目の前の男は自嘲気味に笑い出し、苦しげに言葉を吐き出した。



「……陛下を、お慕いしている者ならばすぐにわかります。あの者にのみ、陛下が特別な感情をお寄せしていることくらい…」



「私は、我慢、しておりました。陛下が、その御心を誰にもお渡しになられなかったから…だから、だからまだ我慢ができたのです。


…その御心を、いつか私に向けてくださるのなら。そんな日が来るなら…と。


そう思えばこそ……私は嫉妬に狂うことなく、いつまでもお待ちすることができました。いくら他の者達が、陛下からの寵を競おうとも、私が貴女様の一番お側に居られる権利を持っていたからです」



顔を歪めた彼の瞳から、涙が一筋溢れ、また一筋、また一筋と頬を伝っていく。

名門蘭家出身の王配最有力候補であるとされていた彼は、行事の際に共に行動をすることが多かった。



いつも冷静で穏やかに笑みを湛える彼の感情的な姿を、私は一度も見たことがなかった。

その豹変ぶりに、私はなんと言葉をかければいいのかわからなかった。



「なのに…どうして…あの男なのですか…?何故です…?

一番貴女様のお側に居たのは…私だったのに。数いる男の中で、貴女様のお側にいることを許されたのは、私だったのに…貴女様に一番、一番、近くに……!」



「…蘭殿、私は…」



「貴女様はいつもそうですね、そうやって家名で呼ぶばかり。私の名を呼んでくださったことなど一度もなかった…」



彼はすっと目を細め、寒さすら感じさせるその瞳を、静かに私に向けた。



「お断り申し上げます。あの男のために、どうして離縁などできましょうか。断じて認めることはできません。我が家門も決して頷きはしないでしょう。


あの男に何があるというのです?

特別外見が美しいわけでもなければ、品もなく、大した能も学もない。貴女様のお役に立つどころか、調べれば、奴隷上がりではありませんか。


醜聞でしかないあの男の、どこを気に入ったのです?


私は貴女様にお会いしたあの日から、ずっと、ずっと…貴女様のお側に居られるようになりたくて、貴女様の一番になりたくて、小さい頃から努力をしてまいりました。それを、あのような……あのような奴隷上がりの男のどこに……!」



あまりにも酷い彼への暴言に対し、口を開こうとした所で私が言うよりも速く私に近づき、離さないというように彼は力強く、私を抱きしめた。



「お慕いし、申し上げておりました。ずっと、陛下にお会いしてから、ずっと…


…二番目でも構いません。愛しているのです。どうか、どうか私をお側に…」



「…すまないが、私は…蘭殿の気持ちには応えられない。離してくれ」



突然の抱擁と熱烈な告白。その悲痛気な言葉に耳を傾け、私は心を揺らしてしまった。それがいけなかったのだ。この時からもっと、私は突き放すべきだった。



「……酷い、方…陛下は狡いです。すまない、なんて……望みを、と仰いましたね……?そのようなもの、貴女様のお側以外にないと言うのに…」



「…本当にすまないと思っている。が、離縁の撤回をするつもりはない。……離縁後の其方の……空燕の、幸せを祈っている」



「………酷い方……もう、本当に、決めてしまわれたのですね。一度決めれば絶対に譲らない所、昔から変わらない…


私自身も我が一族も、陛下と対立するのは本意ではありません。……わかりました。では、願いとして…私を哀れに想うのなら、今夜…朝まで共に過ごしていただけませんか?」




私は、受け入れてしまった。五年という短くない間、この後宮を取りまとめており、いつも穏やかに迎えてくれていた彼に、少なからず情があったらしい。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ