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カチャカチャと食器の音だけが、部屋に響く。
ロゼッタが朝食を食べていると、珍しくフェルナンドが起きてきて目前に腰を下ろした。彼とは余り一緒に食事を摂ることはない。朝は起きるのが遅く、日中は仕事でいないし、夜は夜で帰宅が遅い。
騎士団副長という肩書きに、あぐらをかいているのかは知らないが、毎日城へ出掛けて行くのは昼前くらいだ。他の騎士団員達は、朝早くから鍛錬しているというのに……しょうもない人だ。
チラリとロゼッタはフェルナンドを盗み見た。涼しい顔をして食事をしているその姿に、ふと昨夜の事を思い出して、また苛々感が蘇る。
昨夜の女性はどうしたのだろうか……彼が此処にいるという事は、既に帰ったのだろうが……今はまだ朝の6時過ぎ。一体いつ帰ったのだろう……。
別に、興味ないけどね!ふん。
「……僕の顔に何かついてる?」
「⁉︎」
見ていた事がバレて、思わずロゼッタは身体をビクリとさせた。
「べ、別に……何でもありません」
素っ気なくそう返し、素知らぬふりをして食事を続ける。彼はというとニヤニヤしながら頬杖をついてこちらを見ていた。
本当、嫌な男だ。
この男が女性から人気がありモテモテなどと、ロゼッタには信じられない。一体何処がいいのか……まあ、顔だけは良いのだが……。
ロゼッタは苛々しながら、勢いよくグラスに注がれていた木苺の水を呷り飲み干した。
フェルナンドが仕事へと出掛けた後、ロゼッタも屋敷を出た。今日はある人と会う約束をしている。
馬車に揺られ、暫くすると城の正門前でゆっくりと止まった。するとロゼッタを待っていた人影が、扉が開くと同じに手を差し出して来た。
「ロゼッタ、久しぶり」
爽やかな笑顔を向けて来る彼は、この国の第三王子であり、ロゼッタの元同級生だ。実はロゼッタはフェルナンドと結婚する直前まで貴族や王族が通う学院に通っていた。
本当は辞めたくなかったのだが、結婚しなくてはならない故、致し方なしに辞めざるを得なかったのだ。
「お久しぶりです、ダーヴィット様」
彼は愉しそうにロゼッタの手を引くと、そのまま歩き出す。その姿に思わず笑った。ロゼッタとダーヴィットは同い年なのだが、彼は昔から無邪気で明るく16歳になったというのにも関わらず、未だ幼さが抜けきらない。
ロゼッタが学院に入学したのは12歳の時だ。そして1番初めに出来た友人がダーヴィットだった。
彼に手を引かれ連れて行かれたのは、中庭だった。
2人がガゼボに到着すると、既に席には数人の人影があった。