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ロゼッタは思わず脱力した。屋敷に入ると、彼は居らず使用人達に尋ねれば暫く屋敷には帰って来ていないとの事だった。


確か彼は今謹慎中だった筈と聞いている。仕事関係ではないだろう。ならば一体何処に?

直様頭に過るのは何処ぞの女達の姿だ。この期に及んでまだ女遊びをしているのか……。

情けないやら、呆れるやらで怒る気にもならない。


だがどの道、彼がいないのであれば意味がない。今日の所は一先ず身体を休めて、また明日どうするか考えようとロゼッタが自室へと向かおうとした時だった。


「ロゼッタ様、お帰りなさいませ」


声の方へと振り返るとそこには、いつもロゼッタの身の回りの世話をしてくれている侍女のエナがいた。ロゼッタは彼女と一言二言交わすと、一緒に部屋に行く。


「どうぞ」


程なくしてエナがお茶を淹れてくれた。ロゼッタがカップに口をつけると、実にいい香りがする。疲れた心が癒される様に感じた。



「ありがとう、エナ」


礼を述べると彼女は遠慮気味に笑みを浮かべる。つられてロゼッタも自然と笑みを浮かべた。暫くの間お茶を啜りながら寛いでいたのだが、エナの視線が気になった。


「どうかしたの?」


「……」


何かを言いた気にしているが、かなり悩んでいる様に見受けられ戸惑っている。


「何かあったなら、話して頂戴。気にしないから」


ロゼッタの言葉にエナは、おずおずと躊躇いながらも口を開いた。



「ロゼッタ様が不在の間……旦那様は数日は昼夜問わず浴びる様にお酒を煽られてました。そして必ず、その、言い難いのですが……ロゼッタ様の部屋に入られて、そちらのベッドで眠られてました……」


「あー…………そうなの」


ロゼッタは予想だにしないエナの話に、間抜けな返事を返す。そして瞬きを繰り返しながら、頭を整理しようとするも理解出来ない。エナを見遣ると頗る複雑そうな顔をしていた。振り返り自分のベッドを見てみる。


「……」


何故フェルナンドは、自分のベッドで眠っていたのだろうか……報告してくれたのはいいが、反応に困る。エナも複雑な心境の様だが、ロゼッタはもっと複雑だった。


「旦那様は、暫くすると今度はお屋敷に戻らなくなりまして……あ、ちゃんとシーツなどは全て新調しましたので、大丈夫です!汚くありませんよ!」


「汚い……」



そう付け加えるエナに、苦笑する。ロゼッタの事を気遣ってくれているのは伝わった。悪気がないとも思う。

ただ、一応彼女に取っては雇い主である彼に対して結構な言いようである。


「何も新調までしてくれなくても良かったのに……」


「いえ、私共使用人満場一致で新調する事を決めました!」


そんなに胸を張って言わなくてもと、笑顔が引き攣る。


余程嫌われているのかしらとロゼッタは、少しフェルナンドが哀れに思えた。使用人達に対して別段嫌われる様な言動はしていない様に見えたのだが……実はロゼッタが気付かなかっただけなのだろうか。


「あ、ありがとう」


取り敢えずお礼を述べておいた。


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