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彼が学院を卒業するまでの期間、言葉を交わしたのは数える程だった。話したくないし、なんなら顔だって見たくなかった。


だが学院内では彼は一際目立つ存在で、否応無しに視界に入る。入学してからの二年間複雑な思いで過ごしていた。


ようやく彼は卒業し、もう顔を合わせる事はないだろうと安堵するも束の間……直ぐに合わせるはめになる。


年頃になったロゼッタは、頻繁に夜会や舞踏会に参加する事が増えたのだが無論それは彼も同じで、毎回の様にいるのだ。相変わらず女性を侍らす光景は、成長し大人の雰囲気を醸し出している彼にはぴったりと嵌っている様に見えた。


遠巻きにその様子をロゼッタは、ただ眺めた。


たまにすれ違いざまに彼から声を掛けられる事があったが、本当に嫌だった。何故なら侍らせている女性達からの視線が痛いくらいに突き刺さる。


ほっておいて欲しいのに……。


そんな月日が幾ばくか流れ、彼の女性関係の噂を嫌と言うほど耳にする中、急に決まったフェルナンドとの婚姻……そして今に至る。




ロゼッタは、気怠い身体を起こし立ち上がると窓際に移動する。窓の外に目を遣ると空の雲はどす黒く今にも雨が降り出しそうだ。まるで今の自分の様に不安定だった……。


「帰ろう……」


このままではダメだ。ここにいても、時間を消費するだけで意味がないし、何も変わらない。一度屋敷に戻らなくては……。


クラウスやダーヴィット達にもこれ以上迷惑を掛けたくはなかった。












ロゼッタは馬車を降りると、立ち止まった。とうとう戻って来てしまった……。


実は城から出る際に、クラウスにもダーヴィットにも猛反対された。それでも、ロゼッタの気持ちは変わらなかった。


そして城からここに来る前に、ある場所に立ち寄った。それはロゼッタの実家である伯爵家だった。


今回の事は既に両親の耳には入っている筈だが、一応直接報告しようと思ったのだが……まさかそこで意外過ぎる事実を知る事になってしまうとは思わなかった。


母からの父の話に、目眩がするようだった。何を言っているのか、始めは理解出来なかった。




ロゼッタは唇をキュッとキツく結ぶ。正直に言えば、フェルナンドに会うのが怖いし、事実を聞かされ戸惑ってしまう。彼はこの事を知っている筈だ。


だが、逃げてばかりでは始まらない。もう幼い子供ではないのだから……。


確りしなさい、ロゼッタ。


自分にそう言い聞かせて、ロゼッタは屋敷の中へと入った。


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