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夜も更け、ロゼッタはそろそろ眠ろうかと読んでいた本を閉じた。そしてベッドに入ろうとした時……。
「フェルナンド様ったら~イヤですわ」
廊下から見知らぬ女性の声が聞こえてきた。甘ったる声色で如何にも男に媚びているのだと分かる。
また、か……。
ロゼッタは、苛っとしながらも聞こえなかった事にしてベッドへと入り横になった。だが、廊下からはフェルナンドと女性が愉しんでいる声が引っ切り無しに聞こえて来る。
あの男……盛るのもいい加減にしろ!と言いたい。廊下で情事を始めるなんてあり得ない。しかも、人の部屋の前で。
本邸に女性を連れ込むだけでも気分が悪いのに、一応妻であるロゼッタの部屋の前でするなんて頭が沸いているとしか思えない。
そもそも、フェルナンドの部屋はもっと離れた場所にある。同じ2階でも端から端だ。結婚して屋敷に来た当初互いの希望で決めた。
折角離れた場所に部屋を設けたのに、まるで意味がない。真逆なのにも関わらず、わざわざロゼッタの部屋の前までくるのは彼の嫌がらせに他ならない。
本当、性根が悪い。
以前聞くに堪えなくなり、扉を開けて文句を言った事がある。だがフェルナンドは悪びれる所か「お子様な君には、刺激が強かったかな」と嘲笑した。
ロゼッタは恥ずかしくなり何も言わずに扉を閉めるしか出来なかった……情けないが。
フェルナンドとは歳が5歳離れており、彼から見たらロゼッタは子供にしか見えないのだろう。
「……私だって、学習するのよ」
ロゼッタは鼻を鳴らし身体を起こすと、引き出しから耳栓を取り出し装着する。これであの聞くに堪えない声は聞こえない。聞こえないが、気にはなる……今正に部屋の前で……。
「……」
苛々して眠れない。
本当、だらし無い男っ……恥ずかしい男っ!
シーツを頭から被り、無理矢理目を瞑るとロゼッタは眠りに就いた。