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気持ち悪い。


フェルナンドは自室へは戻らず、閑所へ行き胃の中の物を吐き出す。


あれは、何。あれは……何だったのか。


あの女は誰……。


あんな女、母なんかじゃない。


穢い、穢い、穢い、穢い、穢い…………。


頭の中で幾度もそう繰り返した。


「ゔっ……うぇっ」


もう胃の中は空っぽだと思うのに、吐気は止まらず胃液だけを口から出した。口の中が胃酸で酸っぱくて…………気持ち悪い。




ー ねぇ、あの子貴方に似て来たと思わない? ー



ー やっぱり、貴方の子供ね。ちょっとした仕草とか良く似てるわ ー



「僕は……父さんの子供じゃ、ない…………」


ー 大丈夫よ。フェルナンドが自分の子じゃないなんて、あの人は疑いもしないわ ー


あの言葉を聞いた瞬間、まるで後頭部を鈍器で殴られた様な衝撃を受けた。自分は父の子供ではなく、叔父の子供………………。


ー 知らないって幸せね。まさか、自分が不能だなんて想像もしないでしょうね ー


仲が良い両親だと、ずっと思っていた。だがそれは偽物だった。


フェルナンドは母と叔父の事を父に言ってやろうと、そう思ったが……いざ父を前にすると口は開かなかった。優しい父の笑顔を見ると……言える筈がない。


母が赦せなかった。


女は狡くて、醜くて、穢い。


そんな思いが、その時からフェルナンドの中に生まれ心を支配した。


そして、誰にも母の事を言えないまま時間だけ過ぎた。

その後、フェルナンドは十二歳になり貴族や王族が通う学院に入学すると同時に、騎士団にも所属する事となりその宿舎で暮らす為屋敷を出た。





それから数年の間……ロゼッタと会う機会は無かった。次に姿を見るのは五年遅れて学院に彼女が入学した時となる。





五年振りに見かけた彼女は学院の中庭で友人達に囲まれて、幸せそうに過ごしていた。数年振りに見た彼女は大分成長はしていたが、変わらずあの笑顔を浮かべていた。酷く……懐かしかった。


十八歳で学院を卒業するまでの残りの一年、度々彼女を見かけたが話したのはほんの数回だけ。しかも自分の隣には必ず女の姿があった。彼女の目にはどう映っていたのだろうか……。


学院に入ってからというもの、フェルナンドは容姿端麗故に兎に角女達からモテた。


女など狡くて、醜くて、穢い。


そう思いながらも、若い自分の身体は正直で……自分に群がる女達に見境なく手を付けた。だが一度抱いたら、次は抱かない。執着されても困るし……正直言えば飽きて興味がなくなる。


どんなに女を抱いても何故か満たされ無い。身体は多少満足するが、直ぐにまた欲求不満になる。心は常に乾いていて、行為の後は常に虚しさだけが残った。


そして必ず脳裏に浮かぶのは、ロゼッタの顔。その内行為中にも気付けば頭の中を支配していたのは、彼女の事ばかりだった。


ダメだ、ダメだ、ダメだ。



幾度も頭の中で繰り返しては、思い浮かべ果てる……他の女を抱きながら頭の中で彼女を穢し続けた。


ロゼッタは、自分と半分血の繋がった妹だ。

分かっているのに、やめる事がどうしても出来なかった……。


この頃になるとフェルナンドは、ロゼッタが欲しくて

おかしくなりそうだった……。

だが、彼女は妹だ。手に入れる事は出来ない。倫理に反する。


彼女を手に入れる事の出来ない絶望感から、更に女達に手を付ける様になっていく。


そしてフェルナンドは学院を卒業し、更に数年が経ち二十一歳になろうとした頃。


騎士団業務でたまたま学院を訪れた時、彼女を見かけた。


久しぶりの彼女の笑顔に心臓が高鳴るも、一瞬の事だった。その理由は彼女に馴れ馴れしく触れる男達の姿があったからだ。


歳を重ねる毎に美しくなっていく彼女に群がる虫螻共。


心が冷えていくのを止められない……どす黒い感情が渦巻く、我慢ならなかった。



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