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「意気込んでる所悪いけど、僕は素人の相手はしない主義なんだ」
フェルナンドはそう言って、クラウス達に背を向けると歩いて行ってしまう。
素人、確かにクラウスは素人ではある。だが学院の中では剣術は常に上位の腕前だった。故に本人も自信がある。
だがそれをフェルナンドから素人だと言われて、適当にあしらわれてしまった……。
その事にこれまで冷静だったクラウスは、側から見ても分かるくらいに怒りに震える。
次の瞬間だった。クラウスは怒りに任せて剣を鞘から抜くとフェルナンドへと振りかざした。
キーンッ‼︎
剣を剣で受け止める音が稽古場に響く。
背を向けていたにも関わらずフェルナンドはまるでクラウスの動きを見ていたように、振り返ると自身の剣でそれを受け止めた。
「っ……」
ブンッと一振りされたクラウスは後ろに蹌踉めく。
「おい、クラウス⁉︎何してるんだ」
まさか斬りかかるなどと思わなかったとジョエルが、慌てて声を上げた。ミラベルもダーヴィットも驚いた表情を浮かべている。
「その程度で僕と遣り合おうとか、身の程知らずだね。先日の事で、懲りてないようだ」
フェルナンドはその場で尻餅を付いているクラウスの元までゆっくりと歩いて行くと、彼を見下ろすと足で踏みつけた。
「ゔっ‼︎」
「弱い癖に、粋がってさ……苛々、するんだよねっ」
グリグリと足で踏みつけられクラウスは苦しそうに呻き声を上げている。このままでは口から内臓でも吐き出すのではないかと思える程だ。まるで容赦がない。
その光景にロゼッタは息を呑んだ。ふらりとその場で蹌踉めきながらも、前へと足を踏み出す。
そして唖然としていたジョエル達は我に返り、急いで止めに入ろうとした時だった。
「フェルナンド、その辺にしておけ」
その声に一気に稽古場は静まり返った。
「兄上……」
ダーヴィットがそう声を洩らす。そう彼はこの騎士団の団長であり第二王子であり無論ダーヴィットの兄でもある。
「全く、お前は本当に容赦ないな。相手は子供だぞ。少しは加減をしろ。殺す気か」
彼の言葉にフェルナンドはワザとらしいため息を吐くと、クラウスから身を離した。
「人の背に斬りつけてくるような卑怯な人間に、容赦する必要などないと思うけど。例え子供だとしてもね……まあ、言う程子供でもないし」
「……兎に角だ。此処は戦さ場じゃないんだ。人殺しなど勘弁してくれ。……ダーヴィット、お前も一応王子なら傍観しているだけじゃなく、責務を果たせ。」
彼はダーヴィットに向き直り、厳しく言い放つ。
「此処はお前達が来るような場所じゃない。遊び場じゃないんだ。さっさとその転がっている友人とやらを連れて去れ」
ダーヴィットは何も返事をせず、無言でクラウスに駆け寄ると抱き起こした。ジョエルもミラベルも手を貸す。
そんな中、稽古場にコツコツと足音が響いた。