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ロゼッタはダーヴィットに連れられ城の廊下を歩いている。中庭に差し掛かり、騎士団の稽古場が近くにある事が頭を過ぎった。
以前知らない内にフェルナンドに目撃されていた。もしかしたら、この辺りの廊下で出会す可能性も大いに考えられる。
先日のクラウスの事を思い出し、前を歩くダーヴィットを凝視した。流石に王子である彼に手を出す愚かな真似はしないとは思うが……。
ロゼッタが不安になる中、怒声の様な揉めてる声が遠くから聞こえてきた。
「ダーヴィット様……」
「稽古場の方だ」
ダーヴィットにも聞こたのだろう。彼からは、何時もの気の抜けるような笑顔は消え、代わりに怪訝そうな表情になる。
「僕ちょっと見てくるから、ロゼッタはあそこで待ってて」
中庭にあるガゼボを指差すと、ダーヴィットは足早に行ってしまった。
ロゼッタは置いていかれてしまい、暫しその場で立ち尽くす。
「……」
少し考える素振りをすると、ダーヴィットの後を追いかけた。
何となく、嫌な感じがした……。
廊下を何度か曲り、歩いて行くと声が段々と近くなってくる。そしてもう一度角を曲がった所でロゼッタは足を止めた。
着いた先は、何もない兎に角だだっ広い空間だ。そこに多くの騎士団員達の姿が見える。ここが騎士団の稽古場であるのだが、様子がおかしい。
誰一人として、稽古をしている気配はない。その代わり、稽古場の中心を囲むように人が集まっているのが見えた。
「何しに来たの?此処は子供の遊び場ではないんだけどね」
貼り付けたような笑みを浮かべたフェルナンドと対峙しているのは、クラウスとジョエル、ミラベルまでいる。更にその中に、ダーヴィットが加わる。
「貴方に話があります」
クラウスは一瞬顔を歪ませるがフェルナンドの挑発に乗る事はせずに、冷静にそう返した。
無事だった……ロゼッタはそんなクラウスの姿を見て安堵し息を吐く。
「僕には君と話す事なんて、何もないんだけど。……まあいいよ、一応話だけは聞いてあげるよ」
確かにフェルナンドは笑っているのに、鋭い視線がクラウス達に突き刺さる。思わず息を呑んでしまう。
「ロゼッタと、離縁して下さい」
「フッ、何を言うかと思えば……莫迦莫迦しくて聞くに堪えない」
クラウスの言葉に、フェルナンドは莫迦にしたように鼻で笑う。
「ロゼッタは貴方の非道な行いの所為で、深く傷付いています。貴方と一緒にいる限り彼女は、幸せにはなれない」
瞬間フェルナンドから笑みが消えた。だが、直ぐ笑顔に戻る。
「おかしな事を言うね。ロゼッタが君にそう言ったの?」
「……」
「違うよね?話にならない。本人はこの場にいない、尚且つ彼女はそんな事を言っていない。全て君らの妄想だ。……子供は大人しく、お家に帰りな」
最後は嘲笑しながらそう言った。すると周りにいた団員らからも、莫迦にするような笑いが洩れた。
「フェルナンド副団長殿」
不意にクラウスの凛とした声が響き、カチャりと音が鳴る。彼の手には剣が握られていた。それをフェルナンドへと向かって突き出す。
「僕と勝負して下さい」
ロゼッタは、目を見開き息を呑んだ。




