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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愛憎鏡合わせ

作者: 陽田城寺

あんまりゆるくない感じの作品だと思うので注意と覚悟してください。

 もう秋音を殺すしかない。

 昔から同じ顔をした姉が嫌いで嫌いで仕方がなかった。

 私に妙に懐いて付きまとうみたいに一緒にいる大嫌いな姉は、同じ家の中で散々に私に薄っぺらい言葉を言ってくる。

 幼稚園から高校まで同じで、住む家も、あいつは服や髪型や化粧まで似せてくる。

 何が一体楽しいのか、あれが姉という立場に甘んじて姉貴面しているのも気に食わない。同じ年で同じ顔で生まれた日も同じなのに上も下もないだろ。

 なんであんなに平気でいられるのかわからない。やっと部屋が別々になったのに、しょっちゅう乗り込んでくるし、学校ではクラスが別になったのにしょっちゅう会いに来る。

 鏡を見ているだけで十分だ、こんな顔。

 ――もう鏡を見ることすら耐え難い。

 だから秋音を殺すしかない。


 誰も彼もが私と秋音を比べて姉を褒める。

 私より運動も勉強もできる。笑顔が多けりゃ口数も多い。いつも能天気に幸せそうな顔をしているってのがそんなにいいことなのか、文句の一つでも言ってやりたいが、あいつはどこ吹く風だった。

 確かに、全く私には誇れるもの何かない。何ができるも、何かしたいも、あの行動力の姉に比べてしまうと霞んでしまう。

 このままじゃ絶対にダメだと思った。周りの奴らが比べる以上に、私が自分と姉を比べてしまっていた。

 何一つ似たところのない、外見以外は何もかも違う私と姉が、どうして同じ家に、同じ日に、姉妹として生まれてしまったのか。

 美醜も、味も、娯楽も、価値観もほとんど一緒だったのに、あいつが好きなものをどうしても好きになれなくて貧乏クジばかり引かされていた。


 殺してしまっても、きっと今ならずっと刑務所にいるってことはないはずだ。

 家族を殺すことがどれだけ罪か知らないが、私は未成年だし他の人間を襲うとかそういう凶暴性がないことも示せばきっと、身勝手な殺人だとしても終身刑にはならないと思う。

 普通に生きるよりずっとハンデの大きい人生になるだろう。今までとは違う別の苦しみに苛まれるだろう。

 だが、今の私にとってこの決断はそれほど血塗られたものとは思わなかった。

 今まで姉を嫌っていただけの人生だった私にとって、初めての一大決心。

 人生を左右する決定、親にも社会にも反発する行動。

 私は、それで大人になる。

 『一人』の大人になる。

 


 包丁を持って、秋音の部屋に入ろうとした瞬間。

 部屋の扉が開かれて、秋音が出てきた。


「あ、春音! こんな夜にどうしたの? もしかして、私と同じ考え!?」


 私と同じ声のはずなのに2オクターブは高い。

 私と同じ顔のはずなのに口角は高く目は輝いている。


「同じ、考えって……」


 包丁を構えていた手が震える。秋音も、こんな時間に部屋を出てくるなんて私を殺そうとしていたのだろうか。こんな、笑顔で

 でも、それなら先手は私だ。なにせ私が包丁を持っていて――

 ――それは、瞬く間に奪われた。


「あっ! か、返し……」

「やっぱり……嬉しいな、春音。でも包丁って春音らしい」


 秋音は、何のためらいもなく私に刃を突き立てた。

 痛みの加減なんてわからないけど、刺された位置から一目で致命傷だとわかった。血が噴き出るのと同時に涙で目の前が見えなくなりながら、私は倒れた。

 なんで、なんでなんで私はいつもいつもこいつに邪魔されてばかりで何もできないんだろう。

 挙句の果てにこいつに殺されるなんて、絶対に嫌な死に方だ。これ以上嫌な死に方があるだろうか。痛みの涙が悔し涙に変わっても、私はただ血を流して死ぬことしかできない。

 

「一緒に死ぬのが一番、愛だよね」


 冷たくなっていく体が、その血飛沫の音と生暖かい血液を感じ取った。

 シャワーのように流れてくる血の後に、どんと小さな体が落ちてきた。

 私の目には、力が抜けて包丁を落とす腕だけが見えたが、背中の辺りに流れる血液で理解できた。

 秋音は自分の心臓を貫いたんだ。

 殺人じゃない、心中。

 愛?なんてわけのわからないことを言っていたが、どのみちこいつは私を殺すつもりだったのだろうか。

 動かない体は力を失っていくが、妙に頭は冴えていた。

 こいつはきっと、最初から殺すつもりはなかった。私に愛を伝えようとしていたのだろう。最近絡みが増えてきたのは、そういうわけで。

 それをこいつは何を勘違いしてか、私が心中という愛の告白をしにきたと勘違いして、それを実行した。

 どんな超推理だよ、と思うが、もはや何の裏付けもない勘に過ぎない。

 けれど確信はあった。それは、やはり双子だから。


「ど……け……」


 嫌だ。

 秋音が死んでくれたことに嬉しいと思う余裕もない。

 私の体にかぶさった秋音が重くて動けない。力も入らない。

 血が流れてくる。同じ血が、秋音の体から、私の胸へと流れてくる。

 秋音に殺されるより嫌な死に方ががあったなんて、一緒に死ぬなんて、心中するなんて!

 つながり続けて死ぬなんて!


「い……や……ぁ……」


 混ざり合っていく。

 こいつはなんで、私の気持ちは何もわからないくせに、私のしようとしたことはわかるんだろうわかってしまったんだろう。

 よりによって……あぁでも……決断の日も一緒だったな……なんでこう……間が悪いというか……双子だから……なんて……。

 もう……どうでもいい……。

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