第9話
あの小瓶何かしら。それにさっきの会話は、うーん、あの子ってまさか、ね。
メイドはため息をつくと、コッソリと書庫から出て行った。私は、メイドの後を追う。私の思い過ごしであればいい。でも、あの会話と、あの瓶はあまりにも怪しすぎる。
メイドは、自室に入っていった。
やっぱり使用人の部屋ってショボいのね。私の部屋が豪華に見えるわね。
実際は私の部屋ではない。それに客室だから当然か。
メイドは透明な液体の入った瓶を、ベッドの下に隠すと出て行った。
うーん、なんだかますます怪しいわね。
私は、思い切ってベッドの下の瓶を取り出した。で、フタを開けてみる。が、それは無臭だった。試しに、指ですくってみる。うん、焼けたりもしないわね。
別に何てことのない、液体。なら、なんであそこまでコソコソするのか……。
ええい! ままよ!
私は、手のひらに液体を垂らすと、それを舐めてみた。
あれ、味がしない。結論としては、水だと思った。
その後はミーシャの部屋に戻って看病をした。勿論、深夜まで。というか、なぜか体がだるいのよね。で、朝、ミーシャに起こされて初めて体調が悪いことに気づいた。
「うぅぅ、頭痛い。体が焼けそう。関節も痛い。だるい。とにかくだるい」
「大丈夫ですか? アカネさま」
ミーシャの方は完治していた。逆に、私が心配されることになるとは……不覚。
「今日はお部屋でお休みくださいな。料理長には何か用意させますので」
うわぁーん。ミーシャありがとう。でも、ミーシャが寝込んだときは、食事はないのに大丈夫なのかしら。あぁ。それにしてもツラい。こんなに熱だしたのいつぶりよ。私はミーシャに支えられて、自室に戻った。午前中は、ずっとミーシャは付き添ってくれた。そして、昼食にスープを持ってくると、家庭教師の時間とかで戻っていった。
いつも寝込んでばかりだから、授業はさぼれないものね。ミーシャはいつもこうなのね。そう思うと、泣きそうになった。病床の身は心細い。寂しい……。
私は夜になっても目覚めなかった。朝、起きたときにはサイドテーブルに冷めたスープが置いてあった。ありがとう、ミーシャ。
そして、一口でスープを飲み込むとミーシャの部屋へ。
今日は私が起こしにいくんだ。そう思って、ミーシャの部屋に入ったが、また、ミーシャは熱を出していた。
おかしい、絶対おかしいじゃないの。こんなに頻繁に熱を出すとか、しかもほぼ二日に一回の割合って。そう考えたとき、私の頭に恐ろし仮説が生まれた。
ミーシャが寝込んだ翌日は体調がいい。
でも、次の日は悪い。
いい日と、悪い日の差はなに?
そんなの、決まっている。寝込んだ日は、私の用意した食べ物しか食べない。だから翌日には良くなっているんだ。では、体調の良い日は?
私の背筋が寒くなった。ミーシャが食堂で食事を食べた時に悪くなる。
あぁ、悪寒がする。顔から一気に血の気がおりたわ。でも、そんな事あるかな。 仮にもミーシャは王女さま。そして、私は気づいた。私が舐めたあの無味無臭の液体の存在に。もしかして、あれに即効性はない。でも、半日で悪くなる?
私は街に出かけると、薬師の店にいった。良かった。今日は置いてある。
今後の事を考えて、数日分の薬を金貨と交換した。で、いつもの林檎屋さん。ここでも、服の中に入れられるだけの林檎を金貨で買った。
城へ戻り、余分なものを私のベッドの下に隠した。これで、数日は持つだろう。
ミーシャの所に林檎と薬を置いた私は、あのメイドの部屋に忍びこむ。ベッドの下にあの瓶はあった。見ると、中身は減っていた。試しに、また舐めてみた。
そして、その晩――また私は熱にうなされた。
「アカネさま、大丈夫ですか?」
心配そうにそう声をかけてくれるミーシャが愛おしかった。そして、かわいそうになった。あの液体を舐めた私が、また熱を出した。ということは、決まりだ。
また悪寒がした。悪寒がするのは熱のせいじゃないから。この先の展開に寒気がしただけだから! 勘違いしないでよねッ。
「ミーシャ。今日は食堂で食事は取らないで」
私がそう言うと、ミーシャはなぜといった顔をした。私の顔は強張った。それを私の口からは言えない。誰かがミーシャの命を狙っているなんて。言えない。言えるわけがない。だから私は決意した。何としても犯人を捕まえる。そして、ミーシャを助けると。
「じゃ、ミーシャ。私、おなかが空いているの。だから一緒に食堂に行きましょう」
これなら――そう思って駄々をこねた。
そして、震える体に鞭うって、私は食堂にきた。いつもと同じ順番で、食事は並べられていく。ミーシャの目の前にある料理のどれかに、アレが……。私は、こっそりミーシャの食事と、私の分を交換した。ミーシャは、アッ、て顔をしていた。 でも、私は笑ってごまかした。
そして、昼食、夕食時も同じ事をした。この時点でも体はツラかったが、夜中になってさらにキツくなった。胸が焼けるように痛い。立ち上がる事すらできない。熱は恐らく四十度をこえていたと思う。私はベッドで一人苦しみ藻掻いた。そして、ベッドの下から薬を取り出し、サイドテーブルに用意していた水で一気に流し込んだ。
翌日、私は起き上がれなかった。
お読み下さり、ありがとうございました。