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かおなし  作者: 石の森は近所です。
第一章
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第4話

 翌日から、私の作戦ははじまる。

 名付けて、姫様に溢れるほどの笑顔を作戦だ。

 でも、「朝、朝食のお誘いにきますね」と言った彼女は、昼を過ぎてもこなかった。別に、ご飯が食べられない事を気にしている訳じゃないわよ。昨日の今日で、どうしたのかなって気になったの。本当よ。

 しばらく部屋の中をうろうろしながら、私は考える。

 具合が悪くなったんじゃないか、誘拐された。まぁ、それはないか。ここは彼女の家だもんね。でも、それだと来ない理由に心当たりがない。彼女は確かに昨日「明日も、朝きますね」って言ってたんだもの。ミーシャが約束を破るようには思えない。

 悩んだ末に、私はミーシャの部屋に行ってみることにした。

 コッソリとドアを開けて通路を見まわす。よし、誰もいない。見回りの兵士がくるまえに、通路に飛びだした。

 ミーシャの部屋は、私の階の一つ上。あまり目立たない奥まった場所にある。

 姫様なのに、なぜ、こんな場所なのかはわからない。

 正妃の子じゃないことが、影響しているのかも知れないが、詳しくは聞いていない。

 私からすれば、一番最初の子なら長女だ。弟よりも待遇が悪いなんてあってはいけないのだ。確かに、跡継ぎとして考えれば、弟が大事にされるのもわかる。でも、同じ国王陛下の子には違いはないはず。それに、ミーシャが大きくなって、隣国の王子さまと結婚しないとも限らない。政略結婚とか、私には考えられないけど、未来の妃さまは大事にされるべきだ。

 そんな事を考えている内に、ミーシャの部屋の前まできた。ここまで何人もの兵士とすれ違ったが、当然のごとく、気づかれなかった。

 控えめに、軽くドアをノックする。

 反応はない。あれ、もしかして居ないのかな?

 これで居なかったら、城中、探し回らないと。そんな風に思っていると、中でミーシャの声が聞こえた。しかし、ちょっと様子が変だ。咳をしてる?

 ゆっくりと扉をひらき、すかさず中へもぐりこむ。


「ゴホッ、ゴホッ」


 ミーシャはベッドで伏せっていた。


「大丈夫、ミーシャ」


 私が近づくと、つらそうな面持ちを浮かべて、首肯する。どう見ても大丈夫そうじゃないのに。顔を真っ赤にして。見たところ、風邪の症状に似ているから、きっと風邪ね。

 私はミーシャに近づくと、手のひらをおでこにあてた。うん、熱はあるね。


「ミーシャ、口を開けてみて。アーンって」


 ミーシャは力無く言うとおりに開口する。うーん、喉はあれてる感じはしないね。なら大丈夫かな。


「ミーシャ、朝ごはんは食べた?」


 私の問いに、かぶりを振るうミーシャ。


「ちゃんと食べないと、治るものも治らないわよ」


 もう。なんで、ここで笑うかな。つらいなら、つらいって言ってくれればいいのに。私は部屋の中を見回して、食べるものを探すが、何もなかった。

 なんでこの部屋は何もないのよ!

 私はいきどおる気持ちを抑えながら、「ミーシャ、ちょっと待っててね。今なにか持ってくるから」そう言って部屋を飛び出した。


 広い城内を、うろ覚えの知識で歩きまわる。

 だって仕方がないじゃない。昨日、一回通っただけなんだもの。こんな事が起きると知っていれば、ちゃんと覚えたわよ。食堂はどっちだっけ、確か一階だったような。そんな感じで、うろうろ、うろうろ。うろうろ。うるさいわ!

 苦労した甲斐あって、目当ての場所に到着する。でも、当然、テーブルに食事はない。

 次は、調理室か――。また、うろうろ、うろうろ。今度はすぐに見つかった。ひとけがないのを確認して中にはいる。えっと冷蔵庫は――ってあるわけないか。それじゃ、スープがあればスープを……。ない。ないじゃないの!

 私は焦っていた。王女が病床にあれば、即対応できるようにしてあると思ってた。でも――違った。

 日持ちしないからか、温め直しなんて礼節をかく料理を出せないからかわからないけど。少なくとも、作り置きはなかった。

 もう、どうなってんのよ。この城は。

 私は、売れそうな物を持ち出し、城をでた。

 まだ日が高い昼下がり。王城の門はひらいていた。これで閉まっていたら、手詰まりだったわね。こっそりと渡橋をあるき、おとといの夜に通った道をあるく。

 露天が並んでいる場所に着いてから、私は気づいた。


「質屋ってどこ?」


 私は忘れていた。何かを買うときに、お金と一緒に商品を、レジに出せば済んでた世界と、ここは違うということに。


「あぁぁぁぁー、どうしよ」


 レジだとレジスターの隣に商品をおけば、勝手にレジはしてくれる。スーパーに買い物にいって、レジにカゴを置いたまま、買い忘れた商品をとって戻れば、ある程度までは打ち込みが終わっているアレだ。普通はそのまま釣り銭入れにお金を置けば、ミッションコンプリートだった。私の姿が見えなくても、それで済んだ。店員さんは、不思議には思ってただろうけどね。

 でも、ここで商品を買う場合、商品を私が指定して、店員さんが入れ物に入れてくれる。

 姿が見えないということは――買い物もできない。

 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、詰んだ。詰んだわぁぁぁぁ。

 それに、物を売るにしても、店の棚に物を置けば「おっ、なんだこれ。客の忘れ物か? ラッキーもらっちゃお」ってなるに違いない。

 どうしよう。どうすれば――。

 私は諦めない。この際、ミーシャを助けるためだもん。犯罪にだって手を染めるわよ!

 適当に、数件、露天に立ち寄った。もらった(パクった)商品の代わりに、王城から持ってきた商品とすり替えた。

 ふふっ、私ってあったまいい! これ次も使えるわね。

 交換した物を、コートの内側に忍ばせ、意気揚々と王城へともどった。


お読み下さり、ありがとうございます。

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