第13話
「どうしたのかしら?」
うん、多分アレの件だ。だからミーシャは知らなくてもいい。
私は、ミーシャを急かして部屋へと戻った。この後は、昼食をしてミーシャは家庭教師の時間だからね。ふふっ。
そして、いつものように昼食を食べた私は、情報収集へと歩きまわる。
コソコソ。さっそく発見。調理室の影で噂話に花を咲かせているメイドと調理師がいた。ゆっくりと二人に近づいていく。
「そうそう、奥さまと王子さまの両方だって」
「何だってまた。姫さまが治ったと思ったら今度は奥さまと王子さまって。異端の黒魔術師に呪いでも掛けられてるんじゃないのか?」
へぇ。この世界にも藁人形的なものはあるのね。
魔法があるなんて聞いたこともないし、書庫にもそんな本はなかった。これで魔法のある世界なら私も――まぁ、ないわね。アニメでもあるまいし。
「そうよ。それそれ。それで城中大騒ぎって訳。そうでないと、姫さまの虚弱体質も説明が付かないもの」
「おぉ、こわっ。呪いだとして、城にいる全員が掛からないことを祈るだけだな」
うん。大丈夫。あなたたちに毒は盛らないから。
そっか。二人とも寝込んじゃったのか。このまま二週間寝込んでくれたらいいのに。でも、あまりやり過ぎて死んじゃったら困るわね。ほどほどにしとこうっと。
私は、ミーシャにされた事を仕返した。そう、二日に一度のペースで毒を混入させ続けた。
そして、一週間がたったある日。
元気になったミーシャと昼食を取り、一人で城の中を散策していた時だ。
「あなた裏切ったわね」
「いえ、奥さま。そんな事はしておりません」
「ならなぜ、わたくしたちが熱を出して、あの子はケロっとしているの! 毒はあなたにしか渡していないの。あなたに決まっているでしょ。あの毒はどこへやったの。早くお出しなさい」
私が書庫の前で見かけたのは、あのメイドと、王妃だった。まぁ、ミーシャが平気な顔してて、逆に自分が高熱を出してればそうなるわね。そこまで考えて私はハッ、とする。あれ、これであの水を王妃さまに返して中身を調べられたら――水だとバレるじゃないの。私は踵を返す。
メイドよりも早くメイドの部屋にいき、毒を入れ替える必要ができたからだ。
相手は王妃とメイドだ。行儀良くゆっくりと歩いている。その隙にわたしは掛けた。最近走ってないから、息がきれる。ただし、誰かとすれ違うときだけ速度を落とす。そして、メイドの部屋に到着。こっそり中に忍び込んで、あった。一つは空になっていた。私は空の瓶に毒の方を入れると、もう一つの方(水)を私の持ってる瓶に混ぜた。と、その時、ドアが開いてメイドが入ってきた。
間一髪って所ね。さて、これからどうなるのかしら。フフッ。
「奥さま、これでございます」
「随分、減っているわね」
うん。当然よ。あなたたちの食事に振りかけたんだもの。私は手元の瓶を見た。
「はい。お言いつけ通りに毎日――」
「毎日なんですって。では、なぜあの子はピンピンしているの。いいから来なさい」
「奥さま、い、いたっ。痛いです」
奥さまに腕を捕まれたメイドは、外へと通じる扉へ歩いて行った。
あらまぁ。まさか、処刑されたりとかしないわよね?
もう少し様子を見てみようかな。私は誰かを殺したくてやっている訳じゃない。 だた、ミーシャを守りたいだけだ。ミーシャに毒を盛っているメイドは許せないけど、死んでほしい訳ではない。それは王妃さまも同じだ。
王妃さまとメイドがやって来たのは、庭園の一角にある池だった。王妃はそこに毒を垂らす。その効果は程なく現れた。げっ。
毒を入れられた池の魚が、ひっくり返って浮いてきたのだ。
あの毒。すごい効き目なのね。魚でコレ――私は絶句した。こんな物をこれまでミーシャの食事に混ぜていたのかと。険しい表情で王妃さまを見ると。
「毒がすり替えられた訳ではなさそうね。と言うことは――」
王妃が殺意のこもった視線をメイドに向ける。
まさか、ここで殺したりしないわよね。
「あなた。もう城へ来なくていいわ。あなたの家への援助も打ち切ります」
「奥さまッ、それだけは――」
縋り付くメイドを振り払うと、王妃さまは城内へと戻っていった。後に残されたのは、死んだ魚の群れとメイドだけだった。あ、私もか。
むせび泣くメイドを横目に私も城へ戻る。少しだけ罪悪感はあるけど、仕方がないわよね。このメイドが加担していたのはミーシャの殺人未遂だもの。公になれば、王族殺人未遂の実行犯で、おそらくは打ち首だ。
そして、その日の夕方に、私はまた王妃さまと王子さまの食事に毒を入れた。
毒の量はちゃんと計算して使っている。後、一週間は持つはずだ。
水で薄まったのが幸いしたわね。二本目の強毒を薄めても、以前と、さほど変わりのない効果が出ていた。
原因であるメイドを追い出しても、熱が出続けた場合、王妃さまはどうするのかしら。今度は料理人でも疑うのかな。無実の人が疑われるのは嫌だけど、後一週間だもの。やり通すしかないわね。これも自業自得と言うことで。
翌日、王妃さまと王子さまは、また寝込んだ。
「なんだか最近調子が良いみたいなんですの。この数カ月がウソのようですわ」
ふふっ。原因は完全につぶしたからね。ミーシャはこれから始まるの。
「そうなんだ。良かったじゃない」
私はシラを切り通す。ミーシャの笑顔を守るために。
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