第10話
夜半過ぎに、私は目を覚ました。時計の日にちを確認すると――。
「丸一日経過してるじゃないの!」
と言うことは、既にミーシャは食事を済ませた後という事になる。
私は急いでミーシャの部屋へと向かった。案の定、ミーシャはうなされていた。
「ミーシャ、ミーシャ、起きてミーシャ」
私は急いでミーシャを起こす。彼女は、ツラそうにしながらも、私にほほ笑む。
「アカネさま、こんな時間にどう――」
「いいから! 急いでこれを飲んで」
私は、部屋から持ち出した薬をミーシャに飲ませる。怪訝そうな顔一つしないで飲み込んでくれた。私はホッと一息つく。で、何で、私がここに来たのかって説明ね。ミーシャは、私がしゃべり出すのを待っていた。
「ほらっ、ミーシャって、二日に一度熱を出すでしょ、だから早めに薬を飲ませないと。そう思ってね。来て正解だったでしょ」
苦しい言い訳だと分かっている。それでも、私にはそれしか言えない。まさか、この王城の中に、ミーシャを殺そうとしている人がいる。そんな話しは、本人に聞かせられない。本人に話しても、諦めの混ざった笑みを浮かべるに決まっている。
そう予想できてしまうのが、また悲しい。
「ふふっ、アカネさまこそ大丈夫なのですか?」
「うん、私はこの通り。ピンピンしてるわよ。だからミーシャは安心して休んでね」
その後、ミーシャの額に濡れタオルを掛けてあげた。ミーシャは熱が出たときに額を冷やすことを知らなかった。だから私が教えてあげたの。そして、タオルの置き場所も、その時に聞いた。濡らすだけならここから浴場までは近い。
それよりも、ミーシャは、未明から発熱したと言っていた。私の体感では、あの毒が効き始めるまで12時間。と言うことは、ミーシャが毒を食べたのはお昼くらいか。毎回、私がミーシャの身代わりにもなれない。やはり、犯人を白日の下に晒すしかない。でも、どうやって……。国王に直接言う?
ううん、それはできないわね。ミーシャの体調が悪いのに、ここまで放置するんだもの。そんな人に話しても……。それに王様もグルじゃないとは言い切れない。
ああぁん。もう! 誰か信用の置ける人を見つけないと。どこにいるのよ!
誰がいい人で、誰が悪い人か分からない以上、誰にも話せない。私はそう結論づけた。と、なると……。私はこの時に閃いた。フフッ、見てなさい。
早朝。ミーシャの容体は良くなっていない。でも、薬も林檎もあるから大丈夫。二時間おきにタオルも交換してる。で、今タオルを交換した。
私は二時間のあいだに、例の計画を実行する。
まずは、あのメイドの部屋を訪れる。うん、仕事中だから誰もいない。で、ベッドの下に例の物はあった。そして、ミーシャに飲ませた薬が入っていた瓶に毒を移す。代わりに毒の瓶には水を入れておいた。これでしばらくは安心ね。
その後、私は味方になってくれそうな人を探す。ウロウロ。ウロチョロ。
うーん、メイドじゃ立場が弱いからダメよね。そう思いながら、王さまが居そうな場所へ。さすがは王さまの居る場所ね。近衛兵の姿を良く見かける。
ミーシャの階には突っ立ってる兵はいないくせに。ここには、扉を警護する兵が二人もいた。ふーん、あそこが王さまの執務室ね。でも、王さまには用はない。
私は踵を返そうとした時に、ドアが開く。
「そういえば陛下、もうすぐ姫さまの十二歳の誕生日でしたな。これはめでたい。姫さまほど聡明なお方でしたら、この国も安泰でございましょう」
白髪のおじいさんが、王さまの部屋から出てくるときにそう聞こえてきた。
「うむ、だが、まだ王子がいるからな。何とも言えぬ」
「はっ、はっは。世継ぎに恵まれるというのも困りものですな」
そういうと、白髪のおじいさんは離れていった。
うぅん。どういうこと?
王さまの声色からは、王子がいるからまだ分からないって聞こえたし。
白髪のおじいさんの会話では、ミーシャにも可能性があるようにも取れる。
おじいさんに話した方がいいのかな?
私は、おじいさんの後を追った。ミーシャが生き残れるなら。そんな思いで追ったんだけど、その後、おじいさんが向かったのは、王妃の部屋だった。
うーん、ドアは閉められちゃったし。中で何を話しているのか分からない。
おじいさんに全部話すのは、考えた方がいいのか……。
そんな事を考えていると、またドアが開いた。
「おっほっほ。ザビールで決まりですよ。あの子は優秀ですからね」
「それはようございました。次代の王の器、私も、その日が待ち遠しく――」
――っつ。ダメだ。このおじいさん風見鶏だ。
私は途方に暮れる。これじゃ、ミーシャの体調が良くなったのがバレたら、また毒を盛られる。それは絶対ダメだ。とにかく、情報を集めなきゃ。
おっと、そろそろタオルが温くなっているわね。
私はミーシャの部屋に戻り、浴場でタオルを濯ぐ。私のポケットには毒の入った瓶がある。これ、どうしよう。王子の食事に混ぜるとか?
いやいや、それをミーシャが喜ぶとは思えない。それに王位継承だってミーシャなら、笑って弟に譲りそうだしね。はぁ。どう考えても不利だわ。
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