第085号室 1st Wave ゲリラ☆ライブ☆スタート!!
陽炎揺らめくアスファルトの水面の真っ只中で涼しげな笑みをたたえ、生ける住民達の築いたゾンビを阻むバリケードを見詰める封前の吸血姫のソヒィーリヤにとって、真夏の日差しはすでに克服されたものである。
「異形はあらかた我々に推し変させたが〜………やはり、統率の取れた動きをする分、人間の推し変には時間がかかるな」
「面倒な割りに個々は矮小で亡者としても、使い道は肉壁程度。かと言って放っておけば脅威となり得る奇策を弄してきます」
お手打ちお手伝いのシンソヒアがソヒィーリヤに同調する。吸血姫達にとって人間排除の重要性は、飲食店におけるG(名を伏せられし者)駆除と等しくて、煩わしくとも油断ならず気の抜けない課題であった。
「………雑魚狩りは得意よ?他の団地の地主クラスを相手するより、よっぽどマシだわ」
幽世霊嬢のプラズムソヒィの言葉に、紫に透ける呼吸器マスク越しに苦々し気な表情をした、継ぎ接ぎ友達のフランソヒィンが小さく頷く。
「こっちに来てるらしい、神宮の化け狐と工場の戦闘機は、ガラシャと亡姫が何とかしてくれるでしょうよ?」
「そうだな、我々は我々で力を蓄えなければ………」
ソヒィーリヤの言葉を最後に暫しの沈黙の後、吸血姫達は四手に分かれると、ソヒィーリヤはバリケードの正面に残り、シンソヒアは隣に建つマンションの屋上に、プラズムソヒィは地下道を伝い、フランソヒィンは裏手から、生者を血祭りに上げるべく殺戮の宴をスタートした。
―――
ゾンビに対してバリケードの守りは完璧であった。軍人ボブの指導の下、積み上げられた障害物はガッチリと噛み合い、たとえトラックが突っ込んでもビクともしない強度を持っていた。が、しかし所詮は家財道具の寄せ集めである。
ソヒィーリヤの愛嬌たっぷりの吐息は、蒼炎となって可燃性のバリケードを焼き尽くし、あとに続く走る死屍は自らをも焼き焦がしながらマンション内部へ雪崩れ込んで行った。
「う~~わ、何してんだよコイツ〜ぅ、ヤ〜バいでしょ………」
バリケードを死角なく監視していた防犯カメラを食い入るように見つめ、アルビノのゴブリン、パナキュルが肩を竦める。
「そんな!燃やされるだなんて想定していませんわ?どうしたらいいんですの!?」
「とにかく食い止めなくては。ええと、バリケードはなくなってしまったので、防衛プランAは飛ばしていきなりプランBです」
慌てふためくエルフのエクセレラの肩に、教授が手を置いて落ち着かせ防衛プランBの発動を告げる。
「防衛プランB!Bってなんでしたかしら!?も~覚えていませんわ~~~!!!」
パニック状態のエクセレラはパニック状態なので役に立たない。どさくさに教授の腕に抱き付き飛び跳ね、教授は自由を奪われ役に立てなくなる。
「プランBは階段を崩して、ゾンビが上に来れないようにするんでしょう?ほら、早く、行くよ!」
役に立てるパナキュルは人目憚らず服を脱ぐと、デニム生地のツナギ服の裾をブーツに仕舞い、竹籠を虚無僧のように被り、バイクレース用のロンググローブを嵌めてモニタールームから階段へ向かった。




