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伏魔団地  作者: 真暗森
【第2号棟  亡骸纏う墓穴の風琴】
71/101

第071号室 サマービーチ 住民水着調査 ①



   ―――団地ダムの崩壊より28日後………



 団地に巣食う支配階級が一画、ダゴンの壊滅は失われていた団地の正常性を(いささ)かにも取り戻し、ダムの跡地は細かな砂が溜る遠浅のビーチに変わると、割と生き残っていた豪華客船の乗客達にひと時の平穏とバカンスの延長をもたらしていた。


 シスター不在の中、水着エプロンのエイプリルが始めた海の家は競合のいない一人勝ちで大繁盛、削がれた皮膚も粗方再生され患部を包帯で隠し口元を黒マスクで覆い、営む飲食業と合わせて違和感なくナポリタンを作れば、鉄板で炒めたうえ味付けにケチャップを使った責で地中海出身の客にどやされる。


「うるせえ!もう、お前らには売ってやんね~」


 しかし、殿様商売も今は昔である。前触れ無く新装開店、新・海の家はエイプリルの掘っ立て小屋が霞んで消える木造テラス、エアコン完備の決戦仕様で何より店員が強過ぎた。ドワーフ最先端の工業工学は、もはや錬金術の域であり、フードプリンターがマグロの切り身を印刷し、鬼人のティヲが競泳水着に割烹着、背中に日輪背負い飛翔する白凰の和彫りを晒して寿司を握る。


「くいねぇくいねぇ、すし食いねぇ………はい、いっちょ………!」


 北欧カントリーなウェイトレス風の水着を着たオークの姫騎士グロウゼアが、バケツサイズのビールジョッキを片手に8つずつステップを踏む余裕を見せつつ配って回り、豊満な大胸筋に乗っけた寿司を僧帽筋経由、上腕二頭筋行きの筋肉回転寿司で終点、お客様のテーブルへ。コールを受けて猪目のウィンクを飛ばし別の席へ移動する。


「余計なワザを見せた………私も少々、浮かれているようだな」


 白ビキニ姿でデカ過ぎるナイフを演出的に振り回すアルビノのゴブリン、パナキュルが視覚効果抜群のケバブグリルマシーンから肉を削ぎ落しピタパンに挟んで、受け取った獣人のラナから奪い返して海男(ビーチガイ)に手渡し指先触れ合う小技を挟むと、上目遣いで自身の手の甲に跳ねたソースを扇情込めて舐め取りリピーターを生み出す。


「また来てね?私達お金に困ってるの………」


 店の隅では虚ろな表情を浮かべ瘦せこけたお客様とコールを受けたセーラー水着のエルフ、エクセレラが何やら密談。


「シュガーをくれ………」

「………?お砂糖ならテーブルに備え付けてありますわ」


「そうじゃない、オーガニックなヤツだ。持ってるんだろ………?」

「………あら、いったいナニのお話かしら?」


「しらっばくれるな、俺は鼻が利くんだ………」

「………………~ん………そ~お?」


 エクセレラがさり気なく辺りを見渡しポーチから口の捩じったシュガースティックを取り出すと、飲み干されたコーヒーカップに添えて代わりに純金の指輪を受け取った。



―――



 閑古鳥の無くエイプリルの今や、あばら家な海の家には暇を持て余す店員の小夜が、体型に似つかわしくない黒の紐ビキニ姿にランドセルを背負って補聴器の出力をいじっていた。


「あぁ~………すっごい、ずっと笑ってる。ずっと笑い声が聞こえる。この店を嗤う声が聞こえる」


 補聴器の力を借りて競合店に聞き耳を立てる小夜の言葉に、カウンターに両肘ついて顎を支えるエイプリルが虚ろに応えて、小夜が短く悲鳴を上げ補聴器を外す。


「あんなの反則だよ、スタイルおかしくない?人間のプロポーションじゃないでしょ………」

「実際、人間じゃないと思うわよ?エルフとかなんとか異世界人でしょう」


「そうか?やっぱり??だよな???あの派手な髪色と長耳はコスプレじゃないよなぁあ!?」

「ああ言う手合いは危険よ、仲良くなれたと思えても、何かの拍子で突然殺し合いになるの。なまじ言葉が通じる分、ヤバい奴らじゃないかしら?」


「そうか?出会って即、殺し合いになるようなのよりマシでしょう。それに、うちの店に入り浸ってるような奴らも大概じゃない?」

(………うん)


 半目になって頷く二人の見詰める先には真夏の海に似つかわしくない男が2人、伸び放題の髪の毛に髭、住所不定と思わしき服装をした背の高い優男ジャックと、同じく伸び放題の髪に髭、擦れたシャツにカーゴパンツの巨漢サモニャンはエイプリルと同じ団地攻略ガチ勢の構成員。失礼な会話に強面(こわもて)でエイプリルを睨むサモニャンが一言もうすと、その口髭からは想像もつかない鈴を転がすような高音が放たれる。


「………おぉ前のせいで⤴︎サモにゃは砂漠で生き埋めになったしん⤴︎⤴︎!!!」

「は~~ん?」「マジ哀れ………」


 肩を怒らせ頬を膨らませるサモニャンと頷くジャックを指差し小夜が見下してエイプリルも軽く噴く。


「それは悪かったって、一本奢るからあんた達、あっち偵察してきなさいよ」


 謝罪に奢ると言っておいて仕事を振るのは奢りなのだろうかと小夜が首を傾げながら一番安いを酒瓶を手渡すと、渋る二人の手を引いて外へ出る。


「あなた達、偵察の意味わかってるわね?」

「美味しいもの食べるにゃん!」「冷えたビール飲む」


「ち~がう!!営業妨害でしょおぉおおう??」

「にゃ!?」「お!?」


「「「得意分野/だにゃん/だぜ/よねぇ/!!!」」」



―――



 静まり返った新・海の家、警察よりもお医者さんが必要そうな二人の無頼漢(ぶらいかん)の登場に緊張が走り、一早く血の気を嗅ぐったパナキュルが厚めに削ったケバブ肉を口に含みながら奥へと消える。


「何てぬるいビールだ!俺の身形(みなり)がこんなだからって、手を抜いてんじゃねぇえのか??」


 脂ぎった前髪の隙間から瞳を覗かせジャックが飲み干したビールジョッキを叩き付け手始めにビールへいちゃもんを付けると、冷え切った空気をものともせずに降って湧いたダークエルフのマイマズマが、あられもない水着姿のままグイグイ来る。


「あらあら?あらあらあら!?その外套!もしや火鼠の皮衣では??それに………賢者の石をあしらった首飾り(アニュレット)!きゃああ!!身躱しの不倫の指輪(インビジブルリング)!!!とても値がつけられる代物じゃないですよ!?あなたが身に着けている物全てが国宝級、いえ人類の至宝!いいえ、魔導に掛けるその探究!あなたこそ至上の魔宝と言えるでしょう!!!」


 一見、見窄らしいが見る人が観れば分かる魔道具を見抜いた、身の丈2メートルを超える異界の美魔女に気圧され、ジャックが肩を竦め小さくなって指輪を起動、消えて無くなる。おかしな流れにテーブルを引っ繰り返して仕切り直すサモニャンを小夜が抑える。


「あんたは黙っとけ!」

「何にゃ!なんにゃ!!人の事勝手に値踏みして失礼にもほどがあるしん!!この店、店員にどうゆう教育してるのおん!!責任者ぁあ!「黙っとけやぁあ!!」出て来いにゃん!!!」


 髭面に似合わぬ超高音にその場の全員が呆気取られ完全に流れが変わる。ここからの逆転は無理かと眉間を押さえた小夜の補聴器に懐かしい声が聞こえて意表を突かれ、眼を見開いて口も開き切る。


「あなた達いったい何様ですか!?この異常極まる世界の中、貴重な憩いの場を土足で踏み躙り、施しを受ける身でありながら不平不満をいけしゃあしゃあと!!恥~~じを知りなさいぃい!!!」


「あぁ………そう、あなたは恥を知っているというのね?シスター………」


 1ヶ月音沙汰無しからのちゃっかり水着リバイバル、気合の入ったホルターネックビキニのシスターは小夜の声に全身を震い上がらせ、小夜は小首を傾げて口角つり上げ勝利を確信した。





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