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伏魔団地  作者: 真暗森
【第0号棟  悪泥啜る混沌の住民】

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第005号室 悪魔憑き



 マンションの廊下は薄汚く(すす)けたコンクリートに四方を囲まれ、(くま)なく影を落とす。片や質素な壁に不釣り合いな豪奢なドアが並び、片や劣化し粉を吹いたアルミサッシ窓が等間隔に並ぶ。


 タマゴから生まれたヒヨコはかわいいことにランドセルを背負った少女、小夜(さや)の後からピヨピヨついてくる。せわしなく走り回っては小夜を追い越し、何もない廊下の窪みをつついてはまた走り出す。


 途中、小夜が見つけた消火器を持ち上げようとして、予想以上の重さに取り落とし床を打った金属音に驚いてヒヨコがひっくり返る。


「おっと、失礼」


 両手で消火器を抱え直して持ち上げる。持ち歩くには重く感じたが、どうせ直ぐに使ってしまうので問題ない。


 早速、後ろから消魂(けたたま)しい悲鳴と共にスパイダーウォークして来た悪魔憑きへ噴射する。


 消火剤が悪魔祓いに有効であることは言うまでもなく常識的で、まともに食らい焼け爛れた顔面を両手で抑え絶叫するその土手っ腹にサッカーボールキック、自分の襟首に手を突っ込んで首飾り(ロザリオ)を引っ張り出す。指に掛けて振り回し、風切り音と共に悪魔憑きの腕へ、脚へと叩きつける。生涯禁欲(プラトニック)を貫いた鍛冶師の打った十字架をあしらえた退魔絶品のロザリオは、レーザー光線のようにその珠数でもって悪魔憑きの肢体を切り落とした。


 うつ伏せに転がり喚き散らす悪魔憑きに跨ると、素早く十字を切りながらロザリオを掌に巻き付け、十字架を握るように背中へ押し付ける。何か気の利いた聖書の一節でも唱えられれば良かったが、小夜には全く門外漢だったので、十字架が心臓を潰すまでただ押し付け続けるのみだった。


「………はい、アーメン」


 十字架が胸を貫通し悪魔憑きが沈黙したのを確認すると、意味も知らずに南無阿弥陀仏くらいの気持ちで南無阿弥陀仏の意味も知らないのだが一言唱えた。


 消火器の粉に塗れて真っ白になったヒヨコをピヨピヨ従え、階段から降りて来たゾンビに脚を引っ掛けると、バランスを崩したゾンビが窓に突っ込みガラスを破壊する。もがくゾンビの両足を掬い上げ窓の外へダイブさせてあげる。


 階段を中段まで登り上階の様子を伺う。微かにゾンビの唸り声が聞こえたかと思うと一体、階段を転がり落ちて来たのでひょいっと脇に避けて躱す。階段の手すりに登り、立ち上がろうとするゾンビの首筋めがけて、ダイビングヒールストンピン。腐れ落ちたゾンビの首程度なら小夜の軽い体重を乗せた一撃でも十分に破壊することができた。が、着地失敗、背中から転げランドセル受け身、事なきを得る。


 ゾンビがまだまだ、たくさん蠢いていそうなので上階は諦め下階へ進むことにした。


 人間にとっては何でもない階段でもヒヨコにとっては体長の倍以上ある絶壁で、ピーチクパーチク散々右往左往した後、意を決したように飛び()()()


「………フフン」


 ヒヨコを待ちながらゆっくりと降りて行く、一段下るごとに冷たく重い空気が足首に纏わりつく、階層を跨ぐと気温や湿度が変わることはよくあるのであまり気にしていなかったが、数段(くだ)ったところで眠るようにヒヨコが動かなくなり、眠るにしても脈絡がなさ過ぎるなと思い直す。


 ぐったりと動かなくなったヒヨコを拾い上げようと手を伸ばし、身体を屈めようとして直ぐにやめる。


「………ガスかしら?」


 この団地の中で生き残りたければ、平常時は疑り深く緊急時は殊更(ことさら)大胆で無ければならない。手を戻し指をこすり合わせ、微かに覚えた空気の冷たさを確かめる。手すりから身を乗り出し下段を覗き込むと、動かなくなったゾンビや生き物の死体が折り重なるように倒れていた。


「ガスかもしれないわね………」


 真っ赤なクレヨンを取り出し、他の生存者へ向けてメッセージを残しておこうと、階段横の案内板を見ると、くすんで色褪せてはいたがすでに赤色のドクロマークとその横に『謝謝茄子』と書かれていた。


「あら、前にも来たことあったかしら?」


 自分が残したメッセージなのに、見落とすなんて我ながらドジっ子よね、とランドセルからメモ用紙や付箋が切り貼りされて、分厚く膨らんだ地図帳を取り出す。芸術的なまでの細工が施された飛び出す絵本(ポップアップブック)式のアナログ3D地図(マップ)は、空間を捻じ曲げ歪に重なり合うマンションを無理やり図式化したもので、小夜お手製の一品だった。


「赤、ドクロ、階段、ガス、………ここね」


 ページを捲り仕掛けを伸ばしてルートを検索する。団地の中でしか放送されていない、謎の女児アニメの主人公のシールを張り付けたノートの一角を指で弾く。


「フフン、図書室行きのエレベーターがあるじゃない⤴︎⤴︎⤴︎」


 給食袋から簡易ガスマスクと水泳ゴーグルを、ランドセルのポケットからゴミ袋を取り出す。ゴミ袋いっぱいに空気を溜めて膨らまし、マスクのカートリッジに細工して繋げたビニールホースを突っ込んで口を縛る。


「ヒヨコ、不死身じゃなかったわねえ………」


 予備としてもう一枚、ゴミ袋を膨らませ、水泳ゴーグルと即席の供給式ガスマスクを装着すると、ヒヨコの死骸を飛び越えガス階層への階段を降りて行った。



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