解凍
窓の外では雨が降っていた。弱まったり強まったりを繰り返してはいるが、もうずっとやむ気配がない。ずっと降り続いていた。窓も玄関も締め切って、ずっと雨を拒んでいるのに、少し前から雨漏りの音がしている。電気を消して薄暗い部屋の中、それはどこか洞窟を思わせる。静けさと同時に、焦りも感じていた。どこから漏れているのだろう。どこから滲みているのだろう。部屋の隅に座っていると、もうその天井から雨が垂れてくるのではないかと不安になる。真上を見上げると、薄暗がりに沈んだ天井の角に、水の滲みた跡が見える気がする。それでも彼は動かなかった。雨漏りの場所を見つけたら、雨が漏れていることを認めることになる。仮にも部屋は、雨を拒むよう締め切っている。締め切った以上は、雨漏りを認めたくなかった。
彼は自分から動くことをしなかったし、雨の気配を感じて部屋を閉め切ったほかは、じっと座り込んで外の音を聞いていた。電気も消した。電気を付けなければ、外は明るかった。湿度を増していく部屋の中、自分の体温と生ぬるい雨漏りとでここは決して快適な場所ではない。しかし、不思議と包み込まれるような居心地の良さがあった。
静かな部屋に、メールが届いた音がする。画面を見ると、いつもの人からの圧縮ファイルだった。タイトルはついていない。メールを開いた画面に、無題の圧縮ファイル。そのデータがいつものように大きいことを知って、彼はそっと苦い気持ちになった。彼のパソコンにはもう容量がない。毎度毎度これほど大きなデータを送られても、少し困る。これも拒んでいるのに送られてくるものの一つだ。雨漏りと同じ。拒んでいても、勝手に滲みてくる。困るが、不思議と嫌な気はしない。画面はそのままに真上を見上げると、やはり天井には水の滲みた跡が見える気がする。
と、眉間に突然指で押されたような感覚がした。体が跳ねて指先がぶつかる。額を触ってみると、生ぬるい水だった。やはり雨はあそこから漏れていたらしい。とうとう見つけてしまったと億劫な気持ちで首を戻す。目の前のパソコン画面には、保存済みの表示が出ている。先ほど送られてきた圧縮データだ。しまったと思いながらも、惰性でファイルを開く。少しの間があって、画面いっぱいに絵が表示された。芸術に明るくない彼には、何が描いてあるのかいつもわからない。しかし、不思議と穏やかな気持ちになる絵だった。
一つため息をついて、立ち上がる。雨漏りの場所を見つけてしまったから、雨を受けるバケツが必要になってしまった。座り続けて痺れた爪先をほぐしながら、彼はパソコンを閉じた。