5石 エルミナ召喚
5石 エルミナ召喚
床に光の円が出現して、その円の中を線が走り出す。
そして円は魔法陣のようなものになった。
その魔法陣から光の柱が立ち上る。
「来るか!」
やがて、光の柱が消えると小柄な赤いセミロングくらいのフワフワした髪の少女が目を閉じて立っていた。
間違いない。
エルミナだ!
「エルミナ……」
どう声を掛ければいいのだろう。
ここまできて躊躇してしまう。
そして、魔法陣が完全に消えるとエルミナがゆっくりと目を開けた。
彼女の赤い瞳が余を見た瞬間――
「ウーちゃん!!」
そう言って余に向かって飛び込んできた。
「ウーちゃんウーちゃんウーちゃんウーちゃんウーちゃん」
そのまま余に抱きついて名前を連呼していた。
自身に起きたことよりも、なによりも先に余に逢えたことを喜んでくれる。
そんな彼女を見ていると、先ほどの躊躇など消え去り胸に暖かい気持ちが溢れ出す。
「エルミナ……また逢えて良かった」
余よりも20センチも身長が低い彼女の身体を抱き締めた。
「うぅ……わたしも……逢いたかったよぉ」
余の胸に顔を埋めたまま、涙声で答えてくれる。
しばらく、そのままでいるとエルミナが落ち着いたようだ。
「大丈夫か?」
「うん……」
彼女は余の胸から顔を離す。
「間違いなくウーちゃんだぁ。でも、どうしてぇ?」
不思議そうな表情で聞いてくる。
「さっきまでなにをしていたか覚えているか?」
「えっとぉ……確か帝都の作業場で魔導兵器の調整をしていたはずなんだけど、急に光に飲み込まれて……」
「それで気が付いたらここに立っていたと」
なるほど。
それでエルミナは帝国の作業着姿なのか。
「ここはどこぉ? どうしてウーちゃんが居るのぉ?」
周囲をキョロキョロと見ながらそう聞いてくる。
気が重いがちゃんと説明しないとな。
「よく聞いてくれ。ここは余やエルミナが居た世界とは別の世界なのだ」
「別の世界」
「余がエルミナにどうしても逢いたくて強引にこの世界に呼んでしまった……すまなかった」
そう謝ったが、エルミナはにへらと笑う。
「嬉しい。ウーちゃんがそこまでわたしに逢いたかったなんて」
「今の話を信じて、許してくれるのか?」
「うん、信じるよぉ。それにわたしはウーちゃんが居るならどんな世界だっていいんだぁ」
「ありがとう……でも、説明しなければいけないことがまだ多くある。聞いてくれるか?」
「うん」
「ありがとう。まず余たちの世界についてだ。この世界では余たちの世界は作られた物語として広まっている。なので、もしかしたら……」
「大丈夫だよぉ。わたしはウーちゃんが居ればそれで良いのぉ。だから気にしないでぇ」
「エルミナ……」
彼女はおっとりしているがバカではない。それどころか頭はかなり良いし、魔導に関しては天才といって良いだろう。
だから余が言いたいことも理解しているはずだ。
それでもエルミナは受け入れてくれる。
「ありがとう」
「良いんだよぉ。それに、わたしたちの世界が本物である可能性だってあるよねぇ?」
「ああ」
そう、タオスの冒険の世界がただの作り物ではない可能性もある。
どうやってかは知らないがこの世界から異世界を観測して、それを基にタオスの冒険を作った可能性はゼロではない。
「……そういえば、エルミナは日本語が分かるのか?」
あっちとこっちでは言語は違うんだが。
「日本語ってなにぃ?」
「今話している言語のことだ」
「あぁ、これ日本語っていうんだねぇ。なんか召喚されたあとに頭の中に入ってたんだぁ」
召喚されると日本語が頭の中に入るのか。
「他になにか新しく入ったものはあるか?」
「ううん。なにもないよぉ」
「そうか」
やはり、他にこの世界の知識はないか。
「それよりも気になるんだけどぉ」
「なんだ?」
「ウーちゃんがわたしをこの世界に召喚したんだよねぇ? じゃあウーちゃんは誰に召喚されたのぉ?」
来たか。
「余はエルミナと同じように召喚された訳ではない」
「え?」
「元々この世界の住人である諏訪葵という男と同化したのだ」
「同化って……大丈夫なのぉ?」
エルミナが心配そうな顔をしているのを見て胸が痛くなる。
「大丈夫だ。それによって余は封印から解放された上、この世界の知識も手に入れられた」
「悪い影響はないんだねぇ?」
「問題ない。ただ、男と同化した結果少しだけ男らしくなったかもしれん」
「良かったぁ。じゃあなんの問題もないねぇ」
エルミナが安心した様子でそう言う。
「ウーちゃんは元から男らしかったし」
「おい」
確かにそうだが。
「あはは!」
「まったく……」
このやり取り、懐かしい気持ちになる。
昔からエルミナは余を男らしいと言っていた。
その度に今のようなことをしていたな。
まぁ余は気にしていなかったが。
「じゃあウーちゃんが人間の姿なのは同化した影響じゃないんだぁ」
「ああ。今は神の力を抑えて人間の姿になっているだけだ。解放しようと思えば何時でも出来る。だが、昔よりも遥かに余の力が強くなっているから驚くぞ?」
「どういうことぉ?」
「これを使ったんだ」
そう言って余はエルミナにスマホを見せる。
「これは……魔導具?」
「いや、これはスマホっていう電化製品だ」
「スマホ? 電化製品?」
「この世界には魔力と魔導は存在しないんだ」
「えぇ!?」
エルミナがとても驚いた表情を浮かべる。
「でも、魔力はわたしの中にあるよぉ?」
「だが、この世界の人間は魔力を持っていない。大気にも魔力が無いだろう?」
「本当だぁ」
「ただ、この世界では魔力の代わりに電力というものが存在する。その電力を使って色々な機械を動かすのだ」
「へぇ!」
エルミナは興味深そうにスマホを見ている。
元々彼女は魔導技師だから魔導具に似ているものに興味があるのだろうな。
「このスマホというのは本来、遠く離れた人間と会話する為だったり色々調べたりする機械なのだが、これは他のスマホとは違う」
「どう違うのぉ?」
「このスマホには余たちの世界の者を召喚する力がある」
「えぇ!? じゃあ、そのスマホってやつでわたしを召喚したんだぁ!」
「そういうことだ。しかも、このスマホには召喚した者を強化することが出来る」
「強化……」
「今のエルミナは力が落ちていないか?」
余の予想ではエルミナの力が落ちているはず。
余自身がそうだった。
「うん、結構落ちてるねぇ」
やはりな。
なら、余と同じようにレアリティを上げてレベルをマックスにすれば全盛期に戻るはずだ。
「このスマホを使えば前の力を取り戻すことが出来る」
「へぇ。それが強化なんだぁ」
「これを見ろ」
エルミナに自身のステータスを見せる。
名:エルミナ・スパー
Rare:SSR
Lv:1/90
HP:7500 MP:5000
属性:【火】
【筋力:A+】【敏捷:C+】【器用:A+】
【耐久:A+】【魔力:A】【幸運:B】
「わたしの名前が書いてあるねぇ……そういうことかぁ」
「分かったのか?」
「これが今のわたしの状態を数値化したものでしょぉ? 不思議ぃ」
「流石だな」
やはりエルミナは頭が良い。
見てすぐに理解するとは。
「スマホってすごいねぇ。興味深いよぉ」
「このスマホが特殊なんだ」
「分かってるよぉ」
装備も素材もまだ余っているし、エルミナを強化してしまおうか。
だが、レアリティが上げられないから完全には力が戻らないはずだ。
「今からエルミナを強化するぞ」
「分かったよぉ」
余はエルミナに残っているすべての装備と少しの素材を消費して一気にレベルを上げる。
「どうだ?」
「お? おぉ!」
エルミナはその場で少し身体を動かしてからこちらを見た。
「すごいよぉ! 前よりも力が強くなってるぅ!」
「なに?」
スマホでエルミナのステータスを見る。
名:エルミナ・スパー
Rare:SSR
Lv:90/90
HP:20850 MP:13900
属性:【火】
【筋力:A+】【敏捷:C+】【器用:A+】
【耐久:A+】【魔力:A】【幸運:B】
レベルはマックスまで上がっているが、レアリティは変わってないぞ。
なのに前より力が上がっている?
「なにかおかしいのぉ?」
そう言ってエルミナはスマホの画面を覗く。
「おぉ、上がってるねぇ。それでなにが気になるのぉ?」
「余の時はこれより更に強化しなければ全盛期にならなかったのだ」
エルミナは少し考えてにへらと笑う。
「それって多分、全盛期の力に伸びしろがあるかどうか人によって違うからなんじゃないかなぁ」
「どういうことだ?」
「えっとぉ……最大まで強化した状態が成長限界で、前のわたしにはまだ伸びしろがあったってこと。だからわたしの全盛期の力はこのレベルの90って数値よりも前の数値だったんだと思うよぉ。それでウーちゃんはその強化した状態が全盛期で成長限界だったんだよぉ」
「なるほど」
そういうことか。
全盛期のエルミナにはまだ伸びしろがあった。
だから限界の90レベルにした結果前より強くなった。
余の場合はレベルを100にしてレアリティをLRにした状態が全盛期だったということ。
「つまり元の世界での余は自分自身の力を最大まで成長させきってたということだな!」
「流石はウーちゃんだよぉ」
「ハーハッハッハッハッ!」
エルミナが持ち上げてくれるから、つい高笑いしてしまう。
「そういえば、そのスマホで他の人は召喚しないのぉ?」
「……それなんだが、実は誰でもこの世界に召喚出来る訳ではないのだ」
「どういうことぉ?」
エルミナは不思議そうな表情だ。
「ガチャという機能があるのだが、それを使わなければならない」
「ガチャ?」
「石というものを使ってするギャンブルみたいなものだ」
「ギャンブルかぁ」
「石を3個使うとガチャを一回回せる。ガチャを回すとランダムで余たちの世界のものを召喚する権利のようなものが手に入る」
召喚するまでは手元にないのだから、権利みたいなものだとエルミナに説明する。
「つまり、その権利の中に誰かを召喚する権利が入っている訳だねぇ?」
「そういうことだ。装備や素材なんかもガチャには入っていて、人間はあまり出ないのだ」
「ギャンブルだねぇ」
「ああ」
そこでエルミナが再びにへらと笑う。
「じゃあ、そのガチャで最初にわたしを当ててくれたんだぁ。嬉しい!」
「ま、まぁな」
「ありがとぉ!」
そう言ってまた抱きついてきた。
「おっとっと」
スマホを落としそうになるのを堪えて、片手でエルミナの頭を撫でる。
「危ないぞ?」
「えへへ、ごめん」
そう笑いながらエルミナは身体を離した。
「じゃあガチャをいっぱいやれば色々な人を召喚出来るねぇ」
「だが、石があまり無いんだ」
「どうやって石を手に入れるのぉ?」
「金で買うのだ」
「……もしかして、お金が無いのぉ?」
「いや、全然無い訳ではないのだが、ちょっとな……」
「ふーん」
エルミナが不思議そうな表情を浮かべていたが、すぐに笑顔になる。
「今、石は何個あるのぉ?」
「10個だ」
「じゃあ3回出来るねぇ。やろう!」
「なに?」
「だから、ガチャを回そうよぉ」
良い笑顔エルミナはそう言った。