30石 20万人記念配信前と由亞の友達
小説が人気になる夢を見ました……誰の夢だろうか。
30石 20万人記念配信前と由亞の友達
20万人記念配信の当日の昼。
何時ものようにダイニングに3人で集まる。
「とりあえず今日の配信の流れを決めよう」
「はい」
「そうだねぇ……今日の配信は公式生放送出演と新メンバーの発表プラス雑談をメインでやっていけばいいんじゃないかなぁ」
「うむ。問題は順番か」
「ウルオメア様の公式生放送出演と私の発表、どちらを先に発表するかですか?」
「そうだ。理想としては配信の前半と後半に発表を分けたいところだな」
「うんうん。公式生放送出演を先に発表するならそれについての雑談をウーちゃんひとりでして、その後に師匠の発表をしてふたりで雑談ねぇ」
「逆ならばレイラが登場してから余とふたりで公式生放送出演の件を話していく」
「なるほど」
「余としてはレイラの発表を後半に持ってくる方が良い気がする。ふたりはどうだ?」
「わたしも師匠の発表は後半が良いかなぁ」
「私はどちらでも良いのですが、後半の方が良い理由はなんですか?」
「やっぱり視聴者はサムネのシルエットと重大発表だと聞いて、ウーちゃん以外の誰かが出てくるんじゃないかって気になっていると思うから、後半に持ってくれば配信を最後の方まで見てくれる人が多くなると思うんだぁ」
「重大発表でシルエットが出ていれば、もしかして新メンバーが発表されるのか外部ゲストでも来るのかって視聴者が気になるだろうしな」
余とエルミナの話を聞いてレイラは頷いた。
納得したようだ。
「それなら私の発表は後半に持ってきた方が良いですね」
「うむ。では、発表の順番は余の公式生放送出演が前半、レイラのことが後半で決定で良いな」
「うん」
「はい」
これで今日の配信の流れは決まった。
「しかし、雑談はなにを話せばいいのだろうか」
「RD社に行った時のことを話せば良いのではないでしょうか?」
「そうだねぇ。公式生放送出演を発表して、どうしてそうなったのかの経緯としてRD社に行った時の話をすれば良い感じかなぁ」
なるほど。
確かにそれは良いかもしれないな。
「ただ、師匠の発表はまだだからそこは秘書と一緒に行ったとだけ言えばいいと思うよぉ」
「うむ」
「そうですね」
「あとは……あっ」
そこでエルミナがなにかに気が付く。
「RD社の話をするなら一応RD社の代表の門谷に許可を取った方が良いかもねぇ。あと美馬のことも話すなら聞いておいた方がいいよぉ。一応美馬は名前だけで表に出てきてない人物だしねぇ」
「そうだな。連絡先も交換しておいたし、すぐに連絡しておこう」
早速余はスマホを取り出して、門谷と文香に昨日のことについて配信で話していいか? とメッセージを送る。
「よし、これで……む?」
メッセージを送って数秒でスマホが震えた。
スマホの画面には文香からのメッセージが表示されている。
「どうしたのぉ?」
「文香から返信がきた」
「もうですか」
「アイツ何時も速いのだ」
「ウーちゃんの熱心なファンだし、そんなものじゃない?」
「そんなものか」
「それで内容はなんと返ってきたのですか?」
「……夢の話や容姿の話は避けて、名前を出すだけなら良いらしいぞ」
「流石に夢の話は配信では出来ないよねぇ」
「そうですね。あの話は私たちにとっても重要ですから」
「うむ。とりあえず配信では謎の人物である文香に会って話したとだけ言えば良いだろう」
「うん」
そこで再びスマホが震えた。
スマホの画面を見ると門谷からメッセージがきている。
「門谷からも返信がきたぞ」
「速いねぇ」
アイツはRD社の代表なのだから忙しいと思うのだが、結構返信速いな。
「……どうやら門谷の方は詳しい契約の内容や出演料のこと以外は自由に話して良いようだ」
「なら、今日の配信で昨日のことを話せるねぇ」
「そうだな。前半の雑談はこれでいいか」
「後半は私が配信に出て、ウルオメア様の時のように配信に出た理由やこの世界での設定を話せばよろしいのではないでしょうか」
「あー設定か。そういえば決めなくてはな」
「ウーちゃんの時は謎の穴に吸い込まれてこの世界に来たっていう設定だったけどぉ」
「そうだったな……また謎の穴に吸い込まれてというのもあれだし、今回は余の力でこの世界に召喚したとかでいいのではないか?」
「悪くないですね。実際にウルオメア様にはとてつもない力がある訳ですから」
「うーん。それじゃあなんですぐに召喚しなかったんだってなるから、ウーちゃんの力が一定まで溜まると帝国の誰かをランダムで召喚出来るようになったとかが良いんじゃないかなぁ」
「それは良いな。なら今後は新メンバー追加の度にそれで行くか」
「うんうん」
「かしこまりました」
「まぁレイラとエルミナ以外の新メンバーはまだ決まっていないのだがな」
「次、誰を召喚出来るかも分からないしねぇ」
確かに。
余のスマホの召喚システムはまだまだ謎だらけだからな。
誰が出て誰が出ないのか分からない。
「……流石に死人は召喚出来ないよな」
誰が出るかなんて考えていたからだろう。
つい口からそんな言葉が出てしまった。
「ウルオメア様……」
「ウーちゃん……」
そこでふたりが悲しげな表情で余を見ていることに気が付く。
自分の言葉の意味が己の中で響き渡る。
「あ、悪い。別に引きずっている訳でも期待している訳でもない。ただ、そう思ってしまっただけだ」
そう、引きずったり期待などしていない。
しかし……思い出してしまった。
それだけで……思い出すだけで心が重くなる。
「うん……分かってるよ」
「すまん……少しだけ外の空気を吸ってくる」
そう言い残して、余はダイニングを出て家から外に出た。
☆
「……今までは上手く避けられてたんだけどねぇ」
エルミナは暗い気持ちでそう呟いた。
「ウルオメア様は確かに後悔などはしていないのでしょう。ですが、忘れた訳ではありません」
「うん。ウーちゃんは今もあの子たちの想いを背負って生きているんだぁ」
「それはもちろん私たちも同じです」
「そうだねぇ。あの子たちの決意もウーちゃんの決断も痛いほどに理解出来る。だから……」
そこでエルミナが椅子から立ち上がって、両手で自分の頬を叩く。
「何時までもこんな気持ちじゃ駄目だよぉ!」
そう言ってエルミナは何時ものように笑った。
それを見たレイラが微笑み。
「そうですね」
「じゃあ、わたしは作業の続きをしてくるねぇ!」
「はい、頑張って」
「うん!」
エルミナはダイニングから出ていくと、レイラも椅子から立ち上がる。
「さて、私も続きをしなくては」
そこでウルオメアが座っていた椅子をレイラが見る。
「……いくら後悔していないとはいえ、親よりも先に死んだことについては何時か必ず文句を言わせてもらいますよ……ヴァルキュア、タイタス、バスター」
☆
家から出て青空を見ながら30分ほど外を歩いて、やっと気持ちが落ち着いてきた。
余も馬鹿だな。
今さら思い出して気持ちを沈めるなんて。
「後悔などしていないのだがな」
「あ! お姉ちゃん!」
「む?」
そこで道の先から声を掛けられた。
前を見ると由亞が笑顔で大きく手を振っている。
その姿が可愛らしくて、つい笑ってしまう。
「あー! 今、お姉ちゃんあたしを見て笑ったでしょー!?」
そう言って、あたし怒ってますよっていう顔で走り寄ってくる。
「すまん。由亞の姿が可愛かったのだ」
由亞の頭を撫でながらそう言うとすぐに由亞は笑顔に戻った。
「本当? あたし可愛い?」
「ああ。可愛いぞ」
「えへへ」
「それで由亞はこんなところでなにをしているんだ?」
「こんなところって、ここあたしのウチの近くだよ?」
「む?」
由亞にそう言われて周囲を見渡すと、本当に以前通った由亞の家の近くだった。
どうやら何時の間にか駅の向こう側に来てしまったようだ。
「気付かなかった」
「変なのー!」
「ふふっそうだな」
「じゃあ、お姉ちゃんはなにしてたの?」
「……暇だから散歩でもしてたんだ」
「そっかー。じゃあウチ来る?」
「ん?」
「だって、お姉ちゃん暇なんでしょ?」
「そうだな……ならお邪魔させていただこうか」
「やったー! あ、今ウチにあたしの友達が3人来てるけど良いよね?」
「家で友達と遊んでいたのか?」
「うん!」
「流石に余は邪魔にならないか?」
「そんなことないよ! みんなきっと喜ぶよ! 昨日だって、あのお姉ちゃんはどんな人なのって興味津々だったし!」
「それなら良いが……もしかして一昨日一緒に帰っていた子たちか?」
「そうだよ!」
やはりそうか。
しかし、余は小学生の女の子にも人気があるのだな。
罪づくりな女だな!
「お姉ちゃんなんでドヤ顔してるの?」
「ついな」
「ふーん? とりあえずウチにいこー!」
そう言って由亞が余の手を握って引っ張る。
「うむ」
ふたりで由亞の家に向かって歩き出す。
「そういえば友達は家に居るのだろう?」
「うん! みんなあたしの部屋に居るよ!」
「では、何故由亞は外に居るのだ?」
「お母さんがジュースを切らしちゃったの! だからみんなで飲むジュースを買ってきたんだー!」
由亞はそう言って余と手を繋いでいる反対の手を上げる。
その手にはビニール袋が握られていた。
「なるほど」
「友達と遊んでいるのにお母さん酷いよね!」
そう言って由亞はプンスカ怒る。
といっても本気ではなさそうだが。
「それにしてもこの短期間でよく由亞と会うな」
「もしかして、あたしたち運命の赤い糸で結ばれているのかも!」
「ふふっなんだそれは」
「この前、テレビでやってたの! 1ヶ月に偶然同じ人と5回あったらそれが運命の人なんだって!」
それが事実だとして、由亞と偶然会ったのは今回で4回目だから。
「では、あと1回だな」
「うん!」
そんなことを話していると由亞の家に着いた。
「どうぞー!」
「お邪魔する」
由亞の家に上がると、すぐに由亞がリビングに入っていった。
「お母さーん。お姉ちゃんも来たよー!」
由亞が大きな声でそう言うと、リビングから『ガタガタッ』という音が聞こえてきた。
大丈夫か? と思っていると額に汗をかいた透子と笑顔の由亞が出てくる。
「こ、これはウルオメアさん。一昨日振りですね」
「うむ。今日は由亞と遊びにきたぞ。あ、手土産を忘れてしまった……悪いな」
「は、はぁ?」
「お姉ちゃん早くー!」
「ああ。ではお邪魔する」
階段を上っていく由亞を追い掛けて余も階段を上がった。
上ってすぐの扉の前で由亞が待っている。
「ここがあたしの部屋だよ! 今みんなに説明するから合図したら入ってきてね!」
「分かった」
由亞が扉を少しだけ開けて中に入って、少しすると「入っていいよ!」と声が聞こえてきた。
その声に従って扉を開けて部屋の中に入る。
「ほんとだー」
「すごーい」
「きれー」
そう言って由亞と同じくらいの身長の女の子たち、つまり幼女が瞳を輝かせて近寄ってくる。
とりあえず3人の頭を順番に撫でながら、前だったら犯罪的な光景だなと思った。
「それで、みんなでなにして遊んでたんだ?」
「これー」
女の子たちがそれぞれカラフルな携帯ゲーム機を指差す。
今時の女の子の遊びはゲームか。
「ほぅ。余もゲームには少々自信があるのだ」
「じゃあお姉ちゃんもやってみる?」
「ああ」
「あたしの貸してあげる!」
そう言って由亞が赤の携帯ゲーム機を貸してくれる。
「ソフトは【ハムハムレース8】か」
懐かしいな。
余も昔、1と2をやってた。
ゲーム内容は人気キャラクターのハムハムくんが主人公の人気レースゲームだ。
今ではこのゲームにハマっている大人も多く、配信者もよくプレイしている。
「じゃあ、みんなで対戦しよー」
「うむ」
カーペットの上に座る。
簡単な操作方法を由亞に教えてもらいながら余はキャラクター選択で、課金くんという札束とスマホがポケットから覗いていて目の下に隈がある少年を選ぶ。
特に理由はないが、なんとなくコイツが良い気がした。
「課金くんかー」
「課金くんって人気投票毎回最下位なんだよー」
「そうなのか」
それは可哀想だな。
ならばレースで勝たせてやろう。
「1番難しいコースやろー」
チャレンジャーが居るな。
よし、いいだろう。
そしてゲームがスタートする。
最初にコース各所の映像が流れてから自分の視点に切り替わった。
スタートシグナルが音とともに点滅し変化する。
「負けない」
「いくよー」
「かっとばす」
スタートシグナルが緑になりレースがスタートすると、当然のように全員がロケットスタートを成功させた。
良かった、ロケットスタートのタイミングは昔と変わっていないようだ。
余はそのままトップに躍り出る。
「むー」
「ふふふ」
普通は狙われやすいトップは避けて後ろで駆け引きをするのだろうが、余はしない。
「このまま最後までトップで独走してやろう!」
「させない!」
余の後ろに付いていた女の子が加速してきてぶつかりそうになるが、それを避けて逆に体当たりをしてコース外に押し出す。
「悪いな」
「つよい!」
そしてコース前方に半透明な箱がいくつか浮いている。
あれはアイテムボックスだ。
取ればランダムでアイテムを1個手に入れられる。
余は当然それを取得。
アイテムは……。
「ハムスターのフンか」
左上の枠の中にモザイクの掛かった茶色い物体が表示された。
ハムスターのフンは自分の前か後ろに設置できるアイテムで、踏むとスリップするというアイテムだ。
「いっけー!」
そこで変な音が聞こえてくる。
まさかと思って視点を背後に変えると、余の背後に赤い前歯が迫ってきていた。
あれは赤前歯というアイテム。
自分の前か後ろに発射することが出来るアイテムで、発射すると1番近いキャラクターを追尾してぶつかってくる。
なので、このままだとヤバイ。
しかし、甘いな。
余にはまだ余裕があるぞ。
ハムスターのフンを後ろに出現させて保持する。
すると、そのハムスターのフンに赤前歯がぶつかって相殺した。
「あー」
「お姉ちゃん上手い!」
「このままいくぞ!」
その後も女の子たちの妨害に負けず、結果1位でゴールした。
「お姉ちゃん、すごい上手いね!」
「自信があるというだけある」
「全然追いつけなかったよー」
「つよい!」
「はっはっはっ!」
由亞とその友達から賞賛される。
まぁ女子小学生にゲームでドヤってもしょうがないのだが。
「お姉ちゃん試しにタイムアタックでもやってみる?」
「いいぞ」
「じゃあさっきのコースね!」
由亞はそう言って余の横から携帯ゲーム機を操作する。
「タイムアタックはコースを3周したタイムを競うんだー。使えるアイテムはひまわりの種3個だけ。速いタイムだとランキングに載るんだよー」
「ほぅ」
昔もタイムアタックというモードはあったが今とは変わっているな。
使えるアイテムに制限があってネットランキングもあるのか。
「面白そうだ」
「お姉ちゃん頑張って!」
「任せておけ」
そしてレースがスタートしコースを3周してゴール。
タイムは……。
「うわっ88位だって!」
「すごーい!」
「世界の中の88番目だよ!」
女の子たちが自分のことのように喜んでくれているが、余は満足出来ない。
「まだまだいける」
「え?」
「もう1回やってもいいか?」
「うん」
そして再びレーススタート。
今度は13位。
「ええっ!?」
次は7位。
「うそっ!?」
そうして2位まできた。
「お姉ちゃん何者?」
「これ、ワールドレコードいけるんじゃ……」
今までのレースを活かし、集中してレーススタート。
「いくぞ!」
その日、ハムハムレース界に激震が走った。
今までランキングで一度も見たことのない【ゆあ】という如何にも若い女の子っぽいアカウントが最難関コースのタイムランキングトップになったのだ。
ネットですぐに話題となり数時間ほどツブヤイターのトレンドにもなる。
しかし、ゆあの正体はハムハムレースのランカーたちには分からず、記録もしばらくは抜かれることはなかったのだった。