守って、愛して、尽くして
「ひとつ、考えている計画があって。聖女で娼婦って普通有り得ないでしょう。だから、娼婦じゃなくて、聖女だったってみんなに思わせたら良いんじゃないかって」
「ま、確かに本物の聖女なら、娼婦やってるってのは、普通ありえねぇな。ユリアが特殊すぎるだけで、ユリア以外の聖女がそんなことする可能性なんて微塵も考えられねぇし。その噂の、聖女ってのは、恐らく娼婦の心根の清らかさだとかそんなもんを表した比喩表現だろ」
「…それって、なんでそんな表現をしたんだろ」
考えてみればわかるが、今まで思考を停止して、考えることを避けて来てたから気づかなかった。確かに、噂の中には、まるでその娼婦を褒め称えるかのような内容が含まれていた。
何故、ラシュエルはこんな噂を流したのだろう。私のことを辱めたいとか蔑めたいんだと思ってたけれど、それだけにしては内容がおかしい。何のために、何がしたくて、結局はそこに行き着くのだけれど…。
「確かにな。聖女のようなって、比喩は基本的に悪い意味じゃ使わねぇか。そういや、俺も気になることがあったんだが、そもそも噂ってのは尾鰭背鰭がついて原形を留めなくなるものが多いだろうに、俺が一昨日街中で聞いて回った中ではこの噂はそれ以上でもそれ以下でもないってくらいに、変わって無さすぎだった。気持ち悪いくらいに全員の認識が合致してた」
「ジュード、…この噂ね、広がり始めたの結構前らしいの。でも、何でか今も人の口に登り続けてるんだって…これって、何か、繋がる?」
「つまり、何者かが情報を統制してるって事か」
「何のために…」
「お前を蔑めるためってだけじゃねぇような気もするが、だったら何でそんなデマを流す必要があるかだが、正直情報が無さすぎる。今は想像するだけ無駄だろ。まずは誰がその噂を流してるかだけでも掴まねぇと、推測すら立てられねぇ」
誰が元凶か、なんて…。ラシュエルだとは思うけど、でも、それだって確かだとは言えない。けれど、それをジュードには言えない。自意識過剰かもしれないけど、たぶんジュードはその噂を流したのが誰かって知ったら、国すら巻き込んで燃やしてしまう気がした。
「別に、いいの。みんなの誤解が解けたらそれで。犯人探しがしたいわけじゃないから」
本音は少し違うけど。今はそう言うしかない。
「なんでだよ…。まぁ、いい。誤解を解く方法が、お前が聖女だって思わせるってことなんだよな?てか、そんな回りくどい真似しなくても」
「じゃあっ、どうしたらいいの?もう、私には分かんないよ…」
呆れたようなジュードの物言いに腹が立った。私は勇者みたいに何でも出来る訳じゃない。ユリアさんみたいに強くない。ジュードみたいな武力なんて持ってない。無い物ねだりばかりしてるわけにはいかないのに。
「…俺の国、来るか?」
「?」
「俺の国に来いよ。俺が御零を守ってやる。お前を悪く言うような奴、誰一人として出させねぇ。ほとぼりが冷めたらこっちに戻ってきたらいいんじゃねぇの?」
「…ジュードは、優しすぎる」
「はぁ!?んなわけねぇだろ」
「でも、たぶん、今逃げたら、私はここに戻って来ようなんて思えない。一生ジュードの厄介になるわけにいかないでしょ」
「…それでも良いって言ってもか?」
「ふふっ、一生お世話してくれるの?」
「バカ。世話じゃねぇよ。一生かけて守って、愛して、尽くしてやる」
軽口にしたくて笑った私を磔にするようなジュードの真剣な瞳にヒクリと喉が震えた。真紅の瞳の奥に嘘なんてこれっぽっちもなくて、私は視線を逸らすことも出来ずに、ただ浅い呼吸をするだけで精一杯だった。
「まぁ、お前がそんなこと望むわけねぇよな。それで、お前、聖女じゃないんだろ?どうやって聖女だって思い込ませんだよ」
ようやく視線から逃れられて私は緊張をとりたくて深く息を吐いた。
「そ、れで、ジュードにお願いしたいことがあって」
「あぁ」
「ユリアさんに話を聞きたくて。ジュード、今ユリアさんがどこにいるか知ってる?」
「おま、それを、俺に頼むのかよ」
「だって、頼れる人、ジュードしかいないし…」
「っ!!わかったよ。連絡取ってやる」
「ありがとう!」
「グッ!お前、本当、そう言っときゃ、許されると思ってんだろ」
ジュードがぼそぼそと何事か呟いているけれど、なんと言ってるかは聞こえてこなかった。




