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友人

「そういえば、御零、顔色が悪いが、飯は食ってるのか?」


話が一段落付いてお茶でも飲もうかとなった時、ストワルさんに言われた言葉に目を瞬かせた。


「え?顔色、悪いです?」

「あぁ」


頬に手を当ててみるが、それで己の顔色が分かるはずもない。アレ、そういえば、一昨日からもしかしてバナナみたいなあの果物しか食べてない…?空腹感も特に感じてはいなかったが、そういえば、さすがにこれは体に良くないな。


「その様子じゃ食べてなかったんだろ。何か作ってやる。台所を借りてもいいか」

「えぇっ!そんな!ストワルさんに作ってもらうなんて」

「御零は休んでろ。俺にも何かさせてくれ。台所、借りていいか?」

「は、い」


座っていろと手でソファを指し示され、ストワルさんはそのままキッチンへと消えてしまう。食材は確か数日前に買ったものがまだ残っている筈だ。この世界の冷蔵庫に似た入れ物の中に入れておけば、食材はかなり長持ちするので恐らく腐ってはいないだろう。

手持ち無沙汰になってしまった私はソファに座ってぼんやりと天井を見上げる。


きっと、この噂の元凶にはラシュエルがいるのだろう。けれど、どういう意図でこの噂を広めたのか、それは分からない。その理由を聞きたい、けれど、きっとそれは叶わないのだろう。

彼はもうここには来ない。

私を貶めたかったのなら、本当の王子様だというのなら、こんな回りくどい真似なんてしないで、私をこの国から追い出そうとするなりなんなりすれば良いのに。

怒りよりも悲しみが溢れて止まらない。

たぶん、ストワルさんの優しさに触れてしまったから。世界が優しい人ばかりであるはずもないなんて、わかり切っているのに。それでも、やっぱり、信じていたかった。ラシュエルのことも。

意図せず流れた涙に、自分が嫌になる。こんなにも執着する必要なんて無い筈なのに。何もかも諦めて仕舞えば楽なのに、それでも、今はまだそうしたくはない。

私にはまだ、信じて助けようとしてくれる人がいて、信じてほしいと願っている人がいる。


カチャンと食器の擦れる音がしてテーブルの方に目を向けた。料理皿を並べているストワルさんが、手元に視線を落としていた。その視線がゆっくりと、けれど真っ直ぐに私を射抜く。


「御零、…食おう。空腹は、人を不幸にさせる。腹が満ちれば、多少は良い方向に考えられる、筈だ」

「はい。…ありがとうございます」

「っ!無理して笑おうとするな。…友、人の前でくらい偽らなくていい」


躊躇しながらもはっきりとストワルさんはそう言った。目を見開く。

友と、ストワルさんが言ってくれたのは、初めてかもしれない。そう、思ってくれていたらと願ってはいた。けれど、それが過ぎた願いであるとも思っていた。なのに…。

ストワルさんが言葉にしてくれた嬉しさで私は泣いていたのも忘れて笑ってしまった。


「御零、だから…」

「これは、嬉しいから笑ってるんですよ。ストワルさんとお友達になれて本当に良かった。もし、ストワルさんが困ったら、その時は私も絶対助けるので、絶対絶対教えてくださいね」

「…考えとく」

「えぇ!なんでですか?私じゃ頼りになりません?」


ストワルさんの口元がわずかに緩む。フッと吐息だけで笑ったストワルさんを見て、私は更に嬉しくなってしまう。


「今でも充分すぎるほど助けられてるよ。あんたには」

「へ?」

「だから、今度は俺が御零を助ける番なんだ。さぁ、もう出来るから、少しだけ待っててくれ」


そう言って、再びキッチンへと歩き出したストワルさんの背を、今度は私も追いかけることにした。

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