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そういえばこいつこういうやつだった

怒りに染まり剣呑さを増すストワルさんの蒼い瞳を見て、私は危機感を抱いた。


これは、不用意にラシュエルの名前を出したら、本当に殺されちゃうんじゃ…。


いや、実際に殺したりはしないだろうけれど、容赦なくぶん殴るくらいはしそうだ。ストワルさんはとても優しいけれど、たぶん職業柄、敵対した相手に容赦したりはしない気がした。

まだ、本当にラシュエルが流した噂なのかわからない。たとえそうだったとてしても、何のためにそんな噂を流したのか、それがわからない。


「誰が、噂を流したのかそれはわかりません。それよりも、私はこの噂を消したい…。…でも、ストワルさんが、私の言葉を信じてくれて怒ってくれたのが嬉しかっ…。あ…りがとっぅっ」


そう、嬉しかったのだ。言葉にした瞬間にピンっとはりつめていた糸が切れてしまうくらい。独り虚勢を張っていた私は、ストワルさんが何も言わず信じてくれたのが嬉しくて。その気持ちは涙となって溢れ出していた。

涙を拭っても拭ってもそれは止まらない。ストワルさんを困らせているのはわかっていたから、もう泣き止みたいのに。


「悪かった…御零…」


頭に優しい重みが加わる。それはストワルさんの大きな手で、私を慰めるように何度も頭を撫でてくれた。なぜ謝られるのか理由はわからなかったけれど、その手が優しくて、私の心は暖かくなった。

ひとしきり泣いたあと、私はストワルさんに改めて私の考えを伝えた。協力してほしいと伝える。


「あの噂が間違いだったってみんなに知ってほしいんです」


ストワルさんはその端正な顔立ちをほんの少しだけ悩ましげに歪ませた。それでももちろんその美貌が霞むことはないのだが。


「それは、当然だ。しかし、…言いにくいが、噂は王都中に広まっている。それも、なぜか噂が広がり始めて時間が経っているにも関わらず、いまだに人々の話題に上っている」


だから、難しいのではないか、たぶんストワルさんはそう言いたいのだろう。それでも、まだ、何もせずに諦めたくはなかった。だって、この世界での初めての友人は、一も二もなく私の言葉を信じてくれたのだから。ほんの少し足掻いてみるのも悪くはないだろう。また少し未練が増えた気がした。


「たぶん私が否定しただけじゃ噂自体を完全に消すのは難しいってことですよね。だから、私、聖女になろうと思うんです」

「…どういうことだ?」


ストワルさんはひどく不思議そうだ。まぁ、もろもろ説明を省略してしまったので、要領を得ないのは当然かもしれない。


「私、どうやらその噂のなかで"聖女みたいな娼婦"って言われているらしいんです。だったら、本当の聖女ってことにしようかなと思いまして」

「何故そうなる?」

「ただ、私はもちろん聖女ではないので、そう見せかけたいんです。その為に治癒魔法をストワルさんに教えて頂きたいと思いまして」

「頼むから俺の話を聞いてくれ…」


ストワルさんは、とっても難しそうな顔で、腕を組んでいる。理解に苦しむとその表情は物語っていた。見切り発車だとは思う。けれどそんなにも見当違いな作戦だっただろうか。

私はユリアさんを見て知っているだけだが、ユリアさんが聖女と言われている理由は、創造神の忠実なる信徒にして、その高威力の治癒魔法を誰にも分け隔てなく施す無償の奉仕の心からだったはずだ。信仰心はなくとも、ミレイのことを信奉するのはやぶさかではないし、私には魔力があるそうだし、治癒魔法を使えるストワルさんという先生もいる。となれば、聖女(仮)になるというのも、私の才能次第にはなるが、それほど難しいことではないように思うのだが、もしかしてそれ以外にも聖女に見せかけるためには何か必要なのだろうか。

私の不安が顔に表れていたのだろう、ストワルさんははっとしたように渋面を和らげた。


「よくわからんが、わかった。御零に治癒魔法を教えよう。ただ、俺には聖女の使う治癒魔法を教えることはできない。一般的に、俺達が使う治癒魔法は、基本的に術者自身にしか効果がないんだ」


予想外なその言葉に私はコテンと首をかしげた。

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