チート主人公ならぬ…
「え、私になんの力も与えることができないってこと?」
ミレイは真っ青な顔のまま小さく頷いた。
「あなたと私の力が全く同じだからだと思う。力を付与することが出来ない。スキルすら与えられない…」
呆然と呟くミレイはとても迫力のある美丈夫なのに今はなんだか吹けば飛ぶんじゃないか、そんな気がした。
「てことは、私はこの貧弱な身のまま、ファンタジーな世界に放り出されるのかぁ。んーまぁ、着の身着のまま放り出されるとかさえなければなんとかなるとは思うけど。衣食住さえなんとかしてもらえれば、うん」
「私が不甲斐ないばかりに御零を守ることも出来ないなんて。私はこんなにもあなたに救われたとういうのに。どうして何も返すことが出来ないんだ。ああ、危険に溢れた地上に下ろすくらいならいっそこのまま私とここにいたらどうだろう?馬鹿げてる。御零がそんなこと望むわけがない。それこそ私の傲慢だ」
全く私の話を聞いていないミレイはブツブツと何かつぶやいている。なんだかおかしくなって吹き出すと、ミレイはパチリと目を瞬いて私を見下ろした。
「そんなに気にしなくていいのに。ミレイと私の力がおんなじだから仕方ないんでしょ?なら、物でいいから私にいろいろ頂戴?それなら大丈夫でしょ?」
そう、別に私が特別にならなくても、私が何か特別な物を所有していれば、それは私の力になる。チート主人公ならぬチート装備持ちになればいいのだ。
「御零はなんて頭がいいんだ」
本気で思っているらしいミレイに輝かんばかりの美貌を向けられて私は思わず声を上げて笑ってしまった。
ミレイはとんでもない美形だけれども、私と全く同じ波動の彼は私に緊張というものを抱かせることがない。波動とはなんなのか、それはよくわからないが、彼のそばの空気はひたすらに私を穏やかにさせる。そして、その内面がどこまでも優しいことを知っているから、私にはミレイに対する警戒心というものが全くなくなっていた。
「普通じゃない?」
クスクスと笑う私。ミレイはまるで天啓を得たとばかりに、次々チートスペックな品々を作り上げ始めた。
まずは、衣食住を整えるということで、ミレイは私のために家を作ってくれた。なんだかものすごい屋敷を作ろうとしていたけど、一人で管理できるはずもないので小さな一軒家に変更してもらう。
そして出来上がったチートハウスはなかなかに凶悪スペックたった。まず、この家には私に害意あるものは近づけないし入ることは出来ない。もしたとえ家に入る前は害意がなく中に入れたとしても、この家の中では私を傷つけることはおろか、家の壁に傷一つつけることは出来ないらしい。そして、私を傷つけようとしたらすぐにその人間は家から遠く離れた場所に飛ばされてしまうという鉄壁の構えである。
そして、私に渡された装飾品。リボンや指輪、腕輪などのアクセサリー類として身につける物をもらった。もちろん見た目も可愛くて、けれど華美ではなくどこにでも付けていけるシンプルな作りだ。小さなそれらにチートハウス並みのスペックは付けられないらしく、ミレイには何度も家の外では気をつけるようと言い募られた。指輪には防御力、魔法防御力、異常耐性の大幅アップ、腕輪には全ての属性の攻撃魔法の発動、リボンには姿と気配を消す魔法の発動、などなど他にもたくさん。私自らが戦闘を行うなんて想像できないので、攻撃手段は魔法だけにした。そしてこれらは全て私が身につけなければ発動しないようになっていて、なくしても必ずチートハウスに自動的に戻ってくる仕様になっている。
これは十分にチート主人公の香りがしたが、まあ必要な物を必要なときに使えばいいかと思ったので、ミレイが作ってくれたものは全て受け取っておいた。説明が長すぎて後半は眠気が襲ってきたため内容がかなり曖昧なのだが、まあなんとかなるはずだ。別に冒険者を目指すわけでも危険地帯に赴くわけでもないのだから。
「これだけあればたぶん大丈夫だと思うけど。どうかな御零?」
ようやく説明が終わったらしい。私は慌てて頷いた。
「ありがとう。ミレイ」
「いいや。あなたのために出来ることは何でもしたいんだ。あと、もう一つだけ。御零がもし望んでくれたら、私はいつでもあなたのそばに駆けつけるから。どうか気軽に私の名を呼んでほしい。」
「わかった。落ち着いたらお茶にでも誘うね」
「ありがとう…。御零」
そして私はミレイとの別れを惜しみながら地上に下りる。
新たに私の世界となったこの世界で生きるため、私はチート主人公ならぬチートハウスの主人になった。