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感傷

水色の石のついた耳飾りと黄金の腕輪の力、転移と全属性攻撃魔法、についてはある程度把握できた。それ以外の装飾品の効果については後日機会がある際に試すことにした。森の中は月の光しかなく暗いためあまり長時間居たくはなかったからだ。転移のスキルを使い家に帰りついてから、私はほっと安心して息を吐いた。

今日、わかったのは、私には基本的に攻撃手段はないってこと。こんな強すぎる威力の魔法を人に向けて打つなんて考えられない。私はまかりまちがっても人殺しになるつもりはない。それこそ目指す位置と真逆だろう。

身を守るための力が宿る装飾品は豊富なので大きな問題はないだろうが、これは明らかに私の中では想定していなかった事態だ。もしかしたら、他の装飾品の能力に関しても私の想定を遥かに越えた、もしくは異質な能力の可能性も出てきたということだ。


やっぱり、早めにストワルさんに魔法を習わなきゃ。


私はそっと決意を固めて、明日に向けて眠った。

翌朝、私はストワルさんにもらった紙片にメッセージを書いた。そして、ストワルさんのもとへ届くように願う。すると、小さな紙片はふわりと浮かんで、一瞬のうちに消えてしまった。以前と全くおんなじ消え方だ。

オレンジ色の石のついた首飾りの力、通信のスキルを試してみようかとも思ったが、ストワルさんは私が魔法を使えないことを知っている。装飾品の能力を誰かに伝えても良いものか迷って、私はまだ隠しておくことにした。それに、ストワルさんはお友達だけど、私がこんな力を持っていることを知れば不審に思うだろう。それは、少し、嫌だった。


私がストワルさんに伝えた内容は、出来るだけ早く魔法を教えてほしいということ、そして、いつならば都合が良いか、という二点だ。ストワルさんからの返信はすぐにやって来た。


『御零』


あまりに唐突に低く艶のある声で名前が呼ばれた。その声にドキリとして、けれどすぐにストワルさんの声だと気付く。姿はないが間違いないだろう。


「ストワルさん?」

『あぁ。突然通信を繋げてすまない。今、時間はあるか?』

「大丈夫です」

『ありがとう。メッセージ受け取ったんだが…』

「はい…」


ストワルさんのわずかな沈黙に不安がよぎる。もしかして、魔法を教えてもらえないのだろうか。以前言ってくれた言葉はもしや社交辞令?だとしたらそれを真に受けて催促するような手紙を出したりして、ストワルさんに迷惑がられているかもしれない。


「あ、あの」

『御零の願いだ。今すぐに駆け付けたいのは山々なのだが、仕事でどうしても今日は御零のもとに向かえそうにない。すまないが、明日の午前中には御零の家に行くようにするから、少し待っていてくれないか?』


本当にすまなそうな声。鼻がつんと痛んで思わず瞳が潤む。

良かった…。私の勘違いじゃなかった。

ストワルさんは、私なんかと比べようもないほど忙しいのに、私の願いに応えてくれようとしてくれている。そう思うと胸が熱くなった。


「ありがとうございます。でも、そんなに急がないでください。ストワルさんの体が心配です

『御零…、どうした。泣いているのか?』

「ストワルさんがあんまり優しいから。安心しただけです」

『本当か?』


疑うような声も、ただ私を心配して気遣ってくれているのがありありと伝わってくる。私は嬉しくなって笑った。


「ふふ。本当です」

『わかった。明日、必ず行くから、待ってろ』

「はい」


別れの言葉を告げ通信が終わった。私は自らの腕から黄金の腕輪を外した。もうこれを使うことはないだろうから。それ以外の装飾品も家の中にいる今、本当は着けておく必要はないのだけれど、今はまだ着けておかなくては不安だった。


ストワルさんの声って本当に良い声だよなぁ。顔もよくて声もよくて売れっ子の冒険者で分かりにくいけど親切で…。きっと、私の噂だって知っているだろうに、それでも、彼は私の友人であろうとしてくれている。私にはもったいない、決して無くしたくない友人だ。

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