さて、まずは私に出来ること
ミレイから私に渡されたチート装飾品の数々。私は今それらを机の上に並べている。リボンや指輪、腕輪など9個の装飾品。はっきりいって効果を覚えているのは数点だけだったりする。眠気に負けてミレイの話を聞いていなかったからなのだが。
今まで外出に持って行っていたのは、自らの防御面を大幅にあげる淡い桃色の石をのせた指輪と全属性の攻撃魔法を発動させることのできる華奢な黄金の腕輪。あと効果を覚えているのはグレーのリボン。自身の姿と気配を消す、という少し不思議なワクワクする効果だけ。
今回の私の目的はその他の装飾品の効果をまずは確認すること。そして、実際に使ってみること。家の外に出た時の自らの切り札ともなり得るこれらの効果を知らないままでいるべきではないだろう。
はてさて、しかし、いくら思い出そうとしても思い出せないこれらの効果…。ミレイに話を聞いていなかったことを告白してもう一度説明してもらうしかないだろうかと考えていた私は、ふと思い付く。
装飾品を装着すれば、付与された魔法を自らのスキルとして見ることが出来るんじゃない?
私は早速、グレーのリボンを身に付けて、心の中でスキルオープンと呟いた。料理のスキルの後ろに新たなスキルが増えていることに気付く。(装)完全隠蔽と書かれた文字を見つけ私は喜んだ。これである程度、装飾品の使い道が把握できる。私は装飾品を次々と装着しスキルを確認した。
白い石のついた指輪の効果は、身辺障壁。華奢な白銀の腕輪の効果は、完全治癒。水色の石のついた耳飾りの効果は、転移。オレンジ色の石のついた首飾りの効果は、通信(範囲最大)。緑色の石のついた指輪の効果は、浄化。紫色の石のついた指輪の効果は、魔術契約。
最紫色の石のついた指輪を除いて、だいたい効果は推測できた。魔術契約の効果はよくわからないが、特に生活する上で必要そうな物ではない。気にならないと言えば嘘だが、次にミレイが来たときにでも尋ねれば良い。実際の効果を家の中で試す気にはならなかったので、私は全ての装飾品を身に付けて、夜の町にそっと歩き出した。お隣のハルベラさんやケイトさんの家に遊びに行く以外で、夜に家の外に出たのは初めてだ。家には鍵をかけて、休業中の張り紙を料金表に張り付ける。
夜風は柔らかく仄かに暖かい。長袖の丈の長いワンピースだけでも充分な気候だ。私は周囲に人目がないのを確認した。
ミレイには装飾品の効果を発揮させるためには、それに右手で触れて自らの望みを念じれば良いと言われた。なので、腕輪は左手に、指輪は基本的に右手にはめるようにとも。それを忠実に守っている。
目的地は、地図の上でだけ知っている王都に隣接した森。私は耳飾りに触れてその森に行きたいと念じた。次の瞬間、私の体は家の近くの歩道から、周囲を木々に囲まれた土の上に移動していた。周囲は暗闇に包まれ、温度は明らかに街中よりも低い。思わず身震いしながらも、私は魔法が確かに発動したことに浮かれていた。
「すっごーい!」
私は思わず小さく歓声をあげた。そして、いそいそと次のスキルを確認するため左腕にはめた黄金の腕輪に触れる。そして、どの属性の攻撃魔法を使用すべきか悩む。スキルには(装)魔法攻撃 属性:火、水、土、雷、氷、闇と書かれている。火はダメだ。火事になる可能性がある。雷も同様だろう。闇もよくわからない。水か氷か土の中から特に分かりやすそうな水を選んだ。近くにあった人の頭ほどの大きさの岩に向かって水魔法の発動を念じた。次の瞬間、岩は鋭い槍のようになって放たれた水魔法によって完全に破壊されていた。
「え………うそ」
驚きに目を見張る。それは明らかに私が想像した威力とはかけ離れていた。私は岩に水鉄砲のように水が命中することを想像しただけ。岩が壊れるほどの威力とは一体どれ程の物だろう。これをもし人に当てでもしたら…。私は顔が真っ青になっているのを自覚していた。だってこんなのどう考えてもやりすぎだ。これ、もし威力をコントロール、出来ないのだとしたら…。今まで一度もこの指輪の力を使う場面に遭遇しなくて良かったと心底安堵する。
とりあえずもう1回試してみよう。
今度は先ほどよりもかなり遠くにある大きな岩に向かって、最小限の威力で土を被せる程度の土魔法の発動を念じた。しかし、岩は盛り上がった土に飲み込まれその桁外れの威力により再び完全に破壊されてしまった。対象は指定出来るが威力は一定水準のみ、といったところだろうか。これ、人に向けて使っちゃダメなやつだ。




