混乱
あの後、セイラン・アルフォードさんには早々にお引き取り頂いた。というか、私の顔色が明らかに悪くなったのを見て、アルフォードさんが心配して気をつかってくれた。変質者染みた人だったけど、きっといい人なのだと思う。その時はそんなことを考える余裕すらなかったのだけれど…。
私はあの噂の真相が気になって仕方がなかった。私は本当に娼婦だと思われているのだろうか?そういえば、ミレイが急に私に性的なことを迫ろうとする相手は入れないようにする魔法をかける、と言い出したのはいつだっただろうか。それはつまり、ミレイも知っていた?なんで、教えてくれなかったのだろう。
聖女ではないかと聞かれたということは、ストワルさんも魔王もあの噂を知っていて、私を娼婦かもと思っていたということ。
けれど、その様な態度を取られたりはしていない。つまり、ストワルさんも魔王も私が娼婦だろうと関係がないということだろうか。それは、ありがたいが…。
ハルベラさん達からもそう思われている可能性がある。あぁ、だからあんなにも転職することを薦められたのか。ハルベラさん達は知っていてそれでもとても親切にしてくれていたのだ。
噂を消したいけれど、思ったところで噂は消えない。私は泣きそうだった。
なんでこんなことに。そもそもなぜこんな根も葉もない噂が王都中に広まってるの?ラシュエルの態度と広まった噂の内容から、きっと彼の仕業なのだと思う。でも、なんで?
訳がわからなくて、悲しくて、私は、どうしたらいいのか、何でそんな噂を流したのか、そればかり考えていた。
それなりに順調だと思ってた。
こちらの世界に来て新しい居場所を手に入れてみんな優しい人ばかりで。
それなのに、まるで足元から世界が崩れていくような気がした。
「誤解を解かなきゃ…」
けれど、直接、娼婦なのかと問われたわけでもないのに、わざわざその話題を出すのは、おかしい気がするし、少しどころではなく恥ずかしい。
どうしたら、いいのか。噂をなかったことにしたいが、それこそ無理な話だろう。
「とにかく、とにかく…」
どうしたら良い?
ラシュエルにどうしてあんな噂を流したのか聞く?まず連絡手段がない。ラシュエルとは一度会ったきりであれから一度もこの家を訪れてはいない。
王城に行ったところで、本当にいるのかもわからないし、例えいたとしても本当に王子様なのだとしたら、会わせてもらえるとは思えない。
来るって言ったくせに。
やはり嫌がらせだったのだろうか。口説かれたのだってやっぱり嘘だったんだ。
そんなの初めからわかってたけど、でも、ラシュエルの目は優しかったから。悪意を持たれてるとまでは思わなかった。
私のこと、そんなにも、嫌いだったの?
混乱していた。頭が強く痛んだ。こんな感情のままラシュエルと顔を合わせるなんて出来そうもなかった。
もと居た世界でなら、誰に嫌われたって、何を言われたって、大して気にしたことなんてなかったのに。他人に何を思われようが、私には守ってくれる家族がいて、信頼できる友人がいた。でも、ここでは、そうじゃない。今、自分を守れるのは、自分しかいない。
そうだった。私は私を信じよう。もう、悩むのはやめにして。自分が出来ることは決まっている。自分なりの答えも出た。ならば、あとは、動くだけだろう。
「王子様といい友人になれると思ったのになぁ」
呟いた声は微かに震えた。




