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耳を疑う

そもそもあの台詞もラシュエルにからかわれて口説かれたのを退けるために言った言葉だ。だからと言って、もちろん浮気するような人と付き合いたいとは思わないが。


「それって誰に聞いたんですか?」

「?街中でそういう話を聞いたのですが、僕も知らない相手だったので誰とは…」

「その人は綺麗な顔の男の人でしたか?」

「いえ、特別そうは思いませんでしたが」


では、ラシュエル本人ではないのだろう。それにしてもなんでそんな話が広まっているのだろうか?


「それで、貴方は貴方ただ1人を愛するものしか愛さないというのは本当ですか?」

「そう、ですね」


まぁ嘘ではないだろう。うん。


「…本当ですか?」


まるで疑っているような響きの声。彼の肉付きのよい大きな手が私の手を取った。そのまま、私の手の甲に唇を押し当てそうなほど顔を近づけて、私の目をアイスブルーの瞳で見つめる。驚きに手を引き抜こうとしたが、思いの外強い力で阻まれた。正直、怖い。


「や、やめてください」

「僕は、貴方を愛することはできませんが、貴方を一晩抱いてもいいですか?」

「は、はぁ…?良い訳ないじゃないですか。ほんと、放してください」


初対面で何を言い出すんだこの男。絶対変質者だ。私はもう相手がお客さんであろうと関係ないとばかりに、乱暴に男の手を振り払った。すると、彼は何故かとても嬉しそうに笑った。


「……ふふっ。本当に僕のことも平等に扱うんですね?」

「はい?どういうことですか?」


平等って、どういう意味?何で笑ってるの。


「普通の女の人の多くは、僕の目を見ただけで抱いてくれとせがんでくるんですが、貴方はどうやら本当に、違うらしい」


私が幻聴を聞いているのか、彼が普段から幻覚を見ているのか、私は混乱したままとりあえず家の中に退散しようと決めた。ダメだわ、この人。関わっちゃダメな人だ。

逃げようとしたのがバレたのか、彼はほんのすこし焦ったように謝ってきた。


「ちょっと待って。先ほどは失礼しました。本当にすみません。謀るつもりではなかったのですが、どうしても確かめたいことがあって」

「な、何ですか?やめてください」


私は家の中に入り、扉を閉めようとするが、彼が隙間に手を入れてきて閉じさせないようにしてくる。私が扉を閉めようと力を入れれば挟まれた手がギチギチと嫌な音を立てた。


「ああ、願いが聞き届けられないことってあるんですね!」


断っているというのに何故か嬉しそうな声をあげる彼に私は更にゾッとする。こ、怖い。本気でなんなのこの人。


「ちょっと、ホントに、ムリだから!」

「すみません。さっき貴方を抱きたいと言ったのは嘘なんです。ほんとは別のお願いがあって」


彼は扉を閉じさせないようにはしているが、決して力を込めてこじ開けようとはしてこなかった。このまま無理に扉を閉めることも出来ず、私は諦めるしかなかった。


「わかりましたから、もう二度と私には触らないでください」


私は扉を開けてため息をついた。傷だらけの真っ赤に変色している彼の手を私は視界に入れないよう努める。申し訳ないだなんて思いたくない。


「貴方は本当に平等で優しい方なんですね」

「それ絶対私のことじゃないですよ」

「いえいえ、そんなことありませんよ」

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