あいにうえ―ジュード視点―
回復したみたいだな。
スッキリとした視界とある程度まとまった結論に俺は体を起こした。
俺はあの女が気になっているらしい。
「御零」
少しばかり混乱してしまったが、実際に俺が御零を傷つけたという訳ではない。そうと分かれば、気後れしている暇はない。アイツのような男に奪われる前に、御零も俺を好きになれば良い。
転移の魔法で俺は御零の家の前まで戻ってきた。緊張から固く握っていた拳でそのまま戸を叩いて、御零が出てくるのを待った。
「はーい。うわっきゃっ!」
扉は開き、そこから顔を覗かせた御零は俺の顔を見て酷く間抜けな悲鳴を上げた。瞬間的に閉じられた扉に俺は愕然とした。
なんだと…。やっぱり、さっきので、嫌われたのか…!?だからと、ここで、諦めるわけにいくかよ。
「おいっ!御零!」
「え、その声…」
「俺が怖いなら扉は開けなくて良い…。だから、聞いてくれ。さっきは悪かった。怯えさせちまって。だけど、俺はもうあんなことは二度としない。お前の創造神に誓っても良い」
「やっぱり、ジュード?」
扉がゆっくりと開く。もう二度と会えないかと思った。御零は強ばった表情を俺に向け、そして僅かに目を見開いた。
「なんで顔そんなに血だらけで腫れてるの?」
「なんでもない」
「えぇ?だ、大丈夫なの」
「お前に心配してもらうようなことじゃないんだ」
御零は怒っては、いないようだった。あまつさえ、俺の心配まで…。なんだよコイツ、良いヤツ過ぎんだろ。
心臓が爆発しそうだ。
「御零、俺、お前のことが好きだ」
「あ、ありがとう?でも、急に、なんで…」
「たぶん俺はこれからもっとお前を好きになると思う。そして、愛するだろう」
「どうしたの?…おかしいって。ジュードは聖女が好きなのに」
「そうだ。けど、お前のことも、好きになりかけてる」
「なにそれ…。そんなの、ジュードらしくないよ」
驚きと困惑に満ちた眼差しはまるで非難するように俺を見た。
「俺らしいってなんだよ。俺だってこの気持ちをまた感じるなんて、思ってなかったよ。だけど、お前に決めつけられる謂れはない」
「そう、だけど…」
「別に怒ってる訳じゃない」
「わかってる」
「お前に、言いたかった。俺の何もかもはもうお前のものだ。この身を裂けと言うなら、その通りにする」
「馬鹿じゃないの。好きって、はっきり言えもしないくせにそんなこと言わないでよ。じゃあ、聖女のことは?もう忘れたの?」
「お前が忘れろと言うなら忘れる」
「なに言ってるの!」
「お前が好きなんだ!言葉が足りなかったなら謝る。俺はお前が好きで、これからもっと好きになる。そして、愛するだろう。けど、お前が望まないなら、この気持ちはここで捨てる」
醜い見た目の魔族に、好かれて喜ぶ人間など、いるだろうか。だから、俺はお前が嫌がるなら、もうこれ以上、お前のことを好きにはならない。
「わかんない。なんでそんなこと言うの?聖女を想うジュードの気持ちがどれほどか少しは知ってるつもりだよ。それを忘れるなんて言わないで」
一呼吸の間を置いて、御零は困ったように眉根を寄せた。
「私は、ジュードの気持ちには応えられないかもしれないけど、好きって言ってくれたの嬉しかった。聖女を忘れるとまで言うあなたの言葉を疑う訳じゃないけど。でも、私を好きなんて信じられない。私は聖女みたいな人間じゃないもの。だから…、私から望まないなんて言わないよ。私だって"あの時"からずっとあなたと話してみたいって思ってたから」
無茶苦茶で自らを守るための予防線を張りまくった御零の返答は、それでも、俺に想いを捨てるなと言う。緊張に張った肩が緩んだ。
俺が傷付くことくらい、どうということはない。お前のそばにいられるなら、叶わぬ恋にどれほど傷付いたって構わない。
「俺からももう言わない」




