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自責―ジュード視点―

一部修正

あの女の家から飛ばされた場所は何処とは知れぬが、転移魔法が使える俺にとってはさほど問題ではない。飛ばされた際に感じた魔力は創造神そのものだった。おそらくあれはあの女を守るために創造神が仕掛けた特殊な魔法だろう。

だだっ広い広野の片隅で、自分がしようとしたことを思い出して、俺は頭を抱えた。俺は、あの時、何を…。


御零と名乗った女は大して見目が良いわけでも、とびきり愛想が良いわけでもなく、しとやかで上品な訳でもない。普段は慈愛に満ちた聖女そのものでありながら、他者を助けるためならば何者にも毅然と立ち向かえるような強さがあるわけでもない。ゾクゾク来るような強く気高い視線で俺を見るわけでもない。


ユリアとは違う。


至って、平凡な、人間の女。

そうだった筈だ。


少しばかり人当たりが良く、物怖じしない。感情を表してコロコロと変わる表情。創造神の寵愛を受けながら、自らには何の力も無さそうで。賛辞の言葉に打算的な意図は感じられず。ただ、その瞳はとても真っ直ぐに俺を見た。理解に苦しむほどの信頼だけを乗せて。


俺をあんな目で見る女が、平凡?


「そんな筈ねぇだろ…クッソ」


だからと、何故俺はあの時あの女に触れた?

まろみを帯びた頬の曲線も、細く頼りない首も、触れるつもりなどなかった。触れれば傷つける可能性すらあったというのに。そんなことをする意味がない。なのに、触れていた。

しっとりとした肌の質感、脳裏に焼き付く怯えた表情、軽く引っかかれた手。

俺はあの瞬間、御零を、どうしたいと思った?

俺にすがりつかせて、甘やかせて、犯そうとした。


俺は自らの顔面を思いっきり殴り付けた。その後も2発、3発と俺の頭が何も考えられなくなるまで、自らを殴り続けた。


俺は、抗う術のない女子どもを傷つけることはしないと決めている。それは、俺をまともでいさせるための枷。この強大な魔力で全てを破壊する狂者にはならない。

それなのに、まるで下衆な野蛮者の様な行為を、俺はあの女に強要しようとした。

欲を満たすため女を抱くことはあれど、そこに両者の同意なしになど、あり得ない。ユリアに抱く欲望すら、俺は律し続けてきたというのに。

俺は、狂ってしまったのか?

愛してもいない女を犯そうとするだなんて。

愛して、などいない筈だ。俺は、ユリアが好きなのだから。初めて恋をした彼女にはもう告げることはないが、今もまだ俺の心の中には……。


『魔王様、魔王様、私をどうぞお許しにならなくて構いません。だからどうか幸せになってくださいませ。貴方は心優しきお方。貴方の真心を見てくださる方が現れること、私は創造神様にお祈りしております』


思い出したのは、最後のユリアの言葉。俺は理解しかけていた。自らの心が誰に傾いているのか。何故、あの女の名を知りたいと思ったのか。何故、あの女に触れたのか。何故、あの様な思考が働いたのか。


俺は、御零に、もう一度…。感情を律することにかけては、自信がある。大丈夫だ。もう過ちは、起こさない…。


そこで俺の思考は途切れた。

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