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私が―ミレイ視点―

「ねぇ、ミレイ。魔王は私を傷つけようと思ったの?」 


不安に満ちた声。いつもより少しだけ沈んだ御零の声に私は罪悪感に襲われていた。私が守るべき対象、この世界のどの人間よりも優遇して、私が幸せにせねばならない少女。私は知っているつもりだ。彼女が物事を深く考えないのは、すぐに諦めてしまうのは、考えたところでその先に不安しかないからだと。


「え、魔王が来てたの?それは、…わからないけれど。…いや、ううん。きっとそれは違うよ。魔王は考えてしまったんだ」


魔王とどこで知り合ったのか。けれど、出会ったということは、そして、チートハウスに追い出されたということは、きっと、御零はあの醜い男にほんの少しの愛を与えてしまったのだろう。男に欲望を抱かせてしまう程度には。

この世界で醜いとされる見た目を持つ者ばかり、何故か御零の側に吸い寄せられるように集まっていた。御零には美醜の価値観がないのか、どの男にも御零はひどく平等に接する。だから、誰も彼も彼女ならば自分を愛してくれるのでは、と夢を見るのだろう。


「あなたを…」


己の手でかき抱き、その身に自らを刻み付けたいと。淡く色づく唇に深く口付けて、全身を余すところなく愛撫して、蕩けた漆黒の瞳に自らを映したいと。誰の欲にか、引きずられそうになる思考を律して、私は口をつぐんだ。そんなことを、御零に言うつもりはなかった。それこそ、御零を傷つける。彼女にとって、この家を訪ねて来れるものは、皆、決して彼女を傷つけることのない数少ない信頼できる相手なのだから。

ただ、事実として魔王は考えてしまったのだろう。そして、それを、御零に押し付けようと、ほんの一瞬でも考えてしまったのだろう。傷つけようと考えたならば、その瞬間にこの家からは追い出されるようにしているが、彼女を自らのものにしたいと考えただけでは、追い出されるには足りないのだ。自らの欲を彼女にぶつけようと考えた瞬間に、この家から追い出される。そうでなければ、もしかしたら、私はこの家にはいられないかもしれない。だから、そのように予防線を張ったのだ。


「私を、なに。魔王は私が引っ掻いたから怒ったんじゃないの?」

「どうかな。彼は、きっと、ほんの一瞬、怒りに思考が囚われただけだよ。あの魔王ならば絶対に、あなたを傷つけたりはしない」


そう。彼は例え、そう、考えたとしても、それを実行に移すような男ではなかった。その考えをきちんと自らの理性でもって裁ける。それが、今代の魔王だった。


「そう、だよね。ミレイにそう言ってもらえて安心した。ありがとう。何だか、最近、気持ちが不安定になる出来事があったから、ちょっと落ち込んでたけど、もう大丈夫」

「そう…。良かった。私は絶対にあなたの味方だから。どうか不安になったら私を呼んでね」


御零は私の腕の中でクスクスと意地悪げに笑った。異世界から来たまぶしいまぶしい少女は、もうこの世界の住人でしかないのに。


「そう言うミレイのこないだの行動も、私不安になったんだからね」

「そうだね。ごめんね。もう二度とあんなこと言わないよ」

「ううん。ミレイが優しいから甘えすぎなのわかってる。もう分別のないことはしないよ」

「ありがとう」


御零は、私の腕の中から抜け出すと、いつもとおんなじあっけらかんとした顔で笑った。性的なにおいなど欠片もしないのに、彼女はとても危うくてそれが男の欲を掻き立てるのだろうか。庇護欲も、それ以外も。

だからと言って、彼女が娼婦だなどと。いったい誰がそんなことを言い出したのか。私は怒りに沸く思考を無理矢理切り替えた。

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