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どちら?

驚きが落ち着いて、ぼんやりと魔王とのやり取りを思い出す。私の首にかけられた手の意味も近付いてきた顔の意味も、私にはわからなかった。そして、何故チートハウスの魔法が魔王に発動したのかも。

軽く、本当に軽く、引っ掻いた魔王の手。痕なんて残りようもない。引っ掻かれたのが気に食わなかったのだろうか?女である私を害そうと考えるほどに…。魔王の信条に反することを、考えたのだろうか。きっと実行に移そうとするかどうか判断するまで、チートハウスは待たないだろうから、考えた時点ですぐに飛ばされたのだろう。魔王に実行に移すつもりはなかったと、そう思いたかった。

せっかく、仲良くなれそうだったのに。

少しだけ悲しくて、不安で、私はしばらく動けそうになかった。


キラキラと黄金の粒子がまた舞い出す。それが集まって、人の形をとった。


「御零!!」

「ミ、レイ…?」

「大丈夫!?」

「どうして?」


慌てた様子のミレイは私を見ると少しだけ安心したように表情を緩めた。


「チートハウスの中から魔力の発動を感じたから、御零に何かあったのかと思って。何もされてない?」

「あぁ、そうか。うん。大丈夫だよ」

「大丈夫って顔してないよ」


そうだろうか?そんな酷い顔をしているつもりはなかった。まだ魔王とは出会ったばかりで、友達になったわけでもない。裏切られた、だなんて、それはかなり自分勝手な考えだろう。魔王にとっての自分はただの他人だ。

ミレイの顔が辛そうに歪む。そして私に向かって手を広げた。


「私の側においで。癒してあげるから」


気付けば私の体は勝手にその大きな腕に飛び込んだ。穏やかで暖かい。心が落ち着く波動に包まれる。それはまるで母親のお腹の中に居たときのよう。もちろん覚えてはいないけど、きっとそう表現するのが一番ぴったりだと思う。何もかもから守られているような安心感。


「ミレイ」

「うん。大丈夫だよ。御零には私が付いているから」


私の向こうの世界での居場所は家族の側で、この世界での居場所はきっとミレイの側なのだろう。そうあるようミレイは振る舞う。私を連れてきた負い目があるから。私はそれにすがる。未だに不安で不安で仕方がない。チートハウスに守られていても、どれだけハルベラさん達と仲良くなっても、新しいお友だちが増えても、出来ることが増えても。私はこの世界のモノではないから。いつそっぽを向かれてしまうか、私にはわからない。想像も、つかない。

ミレイのおかげで今までは、私にとって、優しい人としか出会わなかったけれど、そんな人達ばかりでないことを私は知っている。この世界が、穏やかではなくて、物騒なことくらい、知っているのだ。


「ねぇ、ミレイ。魔王は私を傷つけようと思ったの?」

「え、魔王が来てたの?それは、…わからないけれど。…いや、ううん。きっとそれは違うよ。魔王は考えてしまったんだ」


ミレイはほんの一瞬迷うように形のよい唇を開いて、そして最後には口をつぐんでしまった。


「あなたを…」

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