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あばたもえくぼ

「ユリアは本当に美人だよなぁ」


あばたもえくぼとはこのことだろうか。もちろん言うつもりもないが、私には聖女はお世辞にも容姿が整っているとは思えなかった。私だって人のこと言えた義理ではないが…。


家に帰り、魔王を家の中へと招き入れた。魔王はキョロキョロと家の中を見渡して……狭いなと一言漏らした。魔王はチートハウスから追い出されることもなくそこにいる。

紅茶を入れて魔王と向かい合って座った。


「魔王も美人じゃん」


魔王の言葉を否定するつもりもないのでそう答えた。それに対して、魔王は呆れたかのように私を見る。


「何言ってんだ?そんなわけないだろ」

「えー」

「美人っていうのは、ユリアみたいなやつのことを言うんだぞ。小さく奥ゆかしい一重の瞳、低く上向きの鼻、大きく腫れたように分厚い唇。微笑むとピンク色の歯茎とガタガタの歯が輝いて。それらが至高の芸術品のように左右非対称に配置されている。体型も素晴らしく太く凹凸のない柔らかな体」


うっとりとしたように魔王は語った。それらは完全に聖女の容姿を表しているけど、なんだか貶しているようにも聞こえるのだが…。あばたもえくぼじゃなかったの?

しかし、その熱っぽい口調には聖女を好ましく思っている事がうかがえたので、たぶん魔王は好きになった女性がタイプというやつなのだろう。


「魔王は聖女のこと本当に大好きなんだね」

「当たり前だろ」

「そういえば、魔王と聖女ってどうやって出会ったの?」


魔王の目がきらめく。キラキラと赤い瞳は眩しいほどだ。

魔王から語られる聖女の話はどこまでも優しくて、はちゃめちゃで、やっぱり私はそんな魔王と聖女と勇者の事が大好きになってしまった。


「そういえば、人間と魔族って何が違うの?」

「ああ?俺に聞くのかよ、ソレ」

「だって、見た目じゃわかんないから、どうして違うってわかるのかと思って」

「そんなことも知らずによく生きてこれたな、お前。見た目も差がない訳じゃないだろ。魔族の目の色は赤だ。その色合いや濃さで能力が決まる。元来、魔族は人間に比べ魔力が多く、力も強い。寿命も長いが繁殖能力が高くない。最大の違いは、魔獣や魔物と契約することが出来るってことだろ。あとは、細かいことはあまり気にしないとか、戦闘を好む者が多いとか、そのくらいじゃね」

「そう、なんだぁ。魔王も魔物と契約してるの?」

「あぁ。今は連れちゃいないがな」

「魔王って、聞いたら何でも教えてくれるよね。優しくてびっくりした」


聖女の前でだけ、彼は酷く優しく盲目的に彼女を愛していた。だが、それ以外の場所では彼は苛烈な印象が強かった。燃えるような真紅の瞳はいつもすがめられ、きつく脅すような口調で話していたのを思い出す。


「お前は、俺に構えないからな。こちらとしても気が楽だ。それに、お前はユリアも俺のことも否定しないからな」

「そうなのかな」

「お前は創造神で慣れてるんだろうが、普通の奴等は俺の魔力にビビって身構えるんだよ。もちろん、ユリアは魔力の泉みたいな奴だから、俺に対してビビることもなかったけどよ」

「創造神の波動ならわかるけど、それ以外の魔力とか、よくわかんない」

「そうか」

「魔王が強いのは知ってるけど」

「まあな。なぁ、お前、名前何て言うんだ」


どきりと胸が跳ねた。それが顔に出ていたのか、魔王はばつの悪そうな表情になる。


「何だよ。別にお前に興味ある訳じゃねえけど!名前呼べねぇの不便だろ」


この魔王は、意義を感じないならば他者の名を覚えたりは決してしない。彼が名を呼ぶと言うことは、それは魔王にとって、その相手が名を呼ぶに値する敬意を払う相手だと思っているということ、…らしい。覗き見た光景を思い出す。そして、嬉しくなった。

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