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未練―魔王視点―


『魔王様、魔王様、私をどうぞお許しにならなくて構いません。だからどうか幸せになってくださいませ。貴方は心優しきお方。貴方の真心を見てくださる方が現れること、私は創造神様にお祈りしております』


そんなこと、ユリアが願わずとも良いんだ。俺はお前に出会えて、言葉を交わせて、ただそれだけで幸せだった。お前が選んだアイツと共に幸せになってくれれば、俺は…………。






…………………………………………………………………………


聖女と呼ばれる女が、娼婦をやっているという噂の報告を受けた。聖女の話は極力集めるように広めていた為だ。もしや、ユリアが?まさかとは思ったが、居てもたってもいられず、俺は城を飛び出した。魔王の城から遠く離れた人間の大国へ足を踏み入れ、噂を詳しく聞いて回った。多くの魔族がそうであるように、人と関わるなど御免だが今はそうも言ってはいられない。

果たして、噂の人物はユリアではなかった。人の名など忘れたが、ユリアでないことは幾人にも聞いたため確かだろう。俺は安堵のため息を吐く。

アイツが付いていながらユリアが娼婦になど、とは思ったが、ユリアは恐ろしい美人だからな。まさかとは思ったが、もし事実なら助けないわけにはいかない。俺はユリアに手出ししたものを皆殺しにするつもりだった。


「あ!」


人間共の雑踏のなか、間抜けな声と視線を感じてそちらに目を向けた。はっきりと視線がかち合う。


「…お前、」


誰だ?

知らぬ人間だ。黒髪黒目の若い女。特筆すべき点のない…いや、ちょっと待て。この波動は。

そう思い至った瞬間、その女は俺に背を向けて逃げるように走り出した。咄嗟にその背を追う。


「お、おい、ちょっと待て」


女の足は呆れるほど遅く、俺はすぐにその腕を掴んだ。

そして、感じた波動の正体を問うた。


「お前、創造神か?」


女は諦めたのか特に抵抗はない。

身近で感じた波動は、創造神のものと全く同じだが、比べようもないほどに弱々しい。


「いや、違うか。力が弱すぎる」


だが、創造神でないならば何故俺のことを認識できた?人間と魔族の外観的な特徴に差異はほとんどないが、俺の見た目は美醜への頓着の薄い魔族のなかでも嫌悪される部類だ。だからこそ、美醜に強くこだわりを持つらしい人間には俺の見た目は特別奇異に映る。その為、人間の国に来る際には自らに魔法をかけていた。そうせねば、人間共は見た途端泣きわめいたり、昏倒したりするのだから、全く鬱陶しい。

そういえば、この女は何故俺を認識しながら、こうも表情すら変えないんだ?俺を恐れて逃げ出したにしては、明らかに落ち着きすぎている。


「お前のことは知らないな。なぜ、お前は俺を認識できた。俺を知らぬものは俺を認識できぬようにしていた筈だが」

「私、あなたのこと知ってるもの。あなた、魔王でしょう?」

「はぁ?何でお前俺のこと知ってんだよ!?」


魔王だとバレている。別にだからどうという訳ではないが、俺はこんな女知らないぞ。


「見てたもの。あなた、聖女に恋をして、振り向いてもらおうといろいろしたけど、聖女は勇者のことが好きで振り向いてもらえなかった。二人の仲を引き裂こうと無茶苦茶したけど、どう頑張っても二人のなかは引き裂けなかった。その無茶苦茶に怒った創造神に『勇者と聖女は相思相愛だ。だから、聖女のことを思うなら身を引いてやれ』って言われて、素直に改心しちゃう意外と素直な人だってことも知ってる」


なん、だと…。全て知られている。俺の他人には知られたくないこと堂々一位の一連の出来事を、全て、知られている、だと…。

羞恥と驚きに体が震えた。


「な、何故それを知っている!?」

「だから、見てたんだって。私、創造神の身内?だから」


やはり創造神との関わりはあるらしい。いや、今はそんなことはどうでも良い!


「わ、忘れろ!今すぐにだ。さもなくば、殺す」


もちろん、脅しだ。女子供を傷付けるなど、俺の信条に反することはしない。だが、この話題を誰それとなく広められれば、俺の沽券に関わる。今ここで脅してでも口止めしなければ。


「それ、無理じゃん」


俺の言葉に対して、女は余裕の笑みすら浮かべながら、そうのたまった。何だ、こいつ。俺のこと舐めてるのか。俺の力を知らぬとでも?


「はぁ!?」

「だって、魔王、とっても紳士じゃない。か弱い私に手をあげられるの?知ってるよ。魔王は優しいから、女の私を傷つけられないって」


な、何故それを…!


「ぐっ!」


こいつ、それを知ってるから、こんなにも余裕綽々だったのか。

ふふん、と明らかに俺のことを馬鹿にしたように笑っている女に、腸が煮えくり返るをの感じる。何という女だ。弱いくせに、俺が何も出来ないからって調子に乗りやがって。ギリギリと奥歯を噛みしめた。

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