たったひとつの嘘ーミレイ視点ー
私と同じ名前を持ち、私と同じ波動を持つ異世界の少女、御零。
彼女を異世界に送り届け、2日がたった。彼女は既に私の世界から離れられない。
私がそう仕組んだから。
私の代理として、私の世界の安定のために、私の世界に居てほしいと言葉では願いながら、私は彼女からの了承を得る前に私の世界に彼女を無理矢理組み込んだ。
私の代理として世界に組み込まれたことで、彼女はもう私の世界からは離れられなくなった。
裏を返せば、私の代理としてこの世界に組み込まれなければ、彼女はあちらの世界に戻ることが可能だった。
もちろんそんなことはおくびにも出さずに。
ただ、御零をこれ以上傷つけたくなくて、私はあなたにどうか頷いてくれと嘘の言葉を重ねた。
こんなことが許されるとは思わない。
それでも、私には御零が必要だった。
私はこの世界が好きだ。
初めて自らの力で一から作り上げ、豊かに発展していく様を見守った。
そして、何よりも尊いあの方が転生してくる世界だから。
そろそろ行こう。彼女があちらの世界で過ごせる時間はもはや少ない。今は私の力で押し止めているだけで、彼女は既にあちらの世界では異分子であり、この世界へと押し返そうという力が強く働いている。そして、私の世界からも彼女を引き戻そうという力が働いていた。
御零には2日が限度だと告げている。その時、御零はここに連れて来られてから初めてその漆黒の瞳に涙を浮かべた。
彼女は何故か私を責めることをしなかった。初めは実感がないせいだった、けれど今は違う。
彼女はこの理不尽な現状を受け止めて、それでも私を責めはしなかった。
あまりに御零が優しかったから私の胸はひどくひどく痛んだ。
私の身勝手な理由で、私は心優しい彼女を傷つけた。
私の存在が無くならない程度にならば、彼女からの怒りはどんな方法でも受け止めるつもりでいた。
それだけ酷いことを私は御零に強いたのに。
彼女は、どうして?
御零と共に私の世界へ戻る。
彼女は涙をポロポロとこぼしながら体を小さく丸めしゃくりあげながら泣いていた。
どうにかしてあげたいのに、私にはどうしようも出来ない。
解放してあげることは出来ない。それは彼女にとって死と同義だ。彼女の世界は既にここにしかない。
この悲しみは私が御零に強いたのに、私は御零のその悲しみを癒す術すら持たない。
彼女の世界には家族、友人、恋人だっていたかもしれない。そんな大切な人たちと別れさせられ、ひとり見知らぬ異世界に放り込まれる。
そばについてひたすらに助けてやりたくとも、私が居れば彼女はいつまでもあちらの世界を思い出し、悲しい気持ちになるのではないか。
私のそばは落ち着くと、御零は言ってくれたが、それは当たり前のこと。私と彼女の波動は同じで、力の大きな私のそばは安心感を得る、ただそれだけ。
だからどうか私の愛するこの世界があなたを幸せにしてくれるよう祈る他ない。
その為ならば、私のできることはどんなことだってする。
泣きじゃくる御零を抱き締める。今は少しでもあなたと同じ私の波動があなたを慰めればいい。
優しいあなたがこれ以上傷つかぬように。