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そうだろ。―ストワル視点―

どんな嘘を吐かれても、構わない。何を隠されていようと構うまい。

俺があんたの友達であることを許してくれるなら、それ以上を望むつもりはない。

嘘偽りない俺の本心の筈だ。

しかし、俺の腹の奥底からは叫び声が上がる。何故だ?何故俺はここまで醜い。穢れきった心が御零を非難する。何故、ラシュエルだけがあんたに触れることを許される。

それらを、俺は上手く処理しきれず、御零に隠し通せなかった。


対人関係の能力など皆無に等しい俺には、重苦しい沈黙を破りたくともその術すら見当がつかなかった。

それでも、御零は俺に怒るでも、呆れるでもなく、話を変えてくれた。

今の職業をやめるつもりだと、だから、御零は俺に魔法を習いたいと、そして自ら俺のもとへ来ると言う。

それに驚いた。

対等な友人関係なのだと、御零はそう言葉で表したのだ。御零はただ望めば良いだろう。来て、と。それを俺すら疑いはしなかった。それが当たり前だと、御零に会うために足を運ぶのは俺であって、御零が俺に会いに来るだなどと考えもしなかった。


正直、俺の魔法は常人が到達できる物ではない。非凡な才と血反吐を吐く長年の努力の末手に入れたものだからだ。だからこそ、俺は大陸最強の冒険者などと言う称号を得たのだから。

それでも、御零が望むならば、この知識の全てを与えたかった。

魔力の有無を知らぬと言う御零の魔力を見るため、触れた御零の手は柔く傷ひとつ見当たらなかった。汚れなど何一つ知らぬのだろう。俺の緊張に凍る手に暖かな熱が乗る。俺の言葉に従い無防備に閉じられる瞳に、発狂しそうな理性を無理矢理締め上げて、平静を装った。


穏やかな空気のなか食事を終え、俺は後片付けを手伝い、帰ることにする。長居をしてボロを出さない自信はなかった。外まで見送りに出た御零に礼を言い、マントを被り立ち去ろうとしたところだった。


「御零っ!」


酷く焦ったような女の声が少し離れたところから聞こえた。町中へと続く曲がり角の付近から聞こえた声に御零が反応した。


「ハルベラさん?」

「早く!早くこっちにおいで!」

「どうしたんですか」


とてとてと特段急ぐ様子もなくその女のもとへ近づいた御零を、女は俺から庇うように抱き締めた。抱き締められたことに驚いたのか御零は不思議そうな顔をしている。女が心配げに御零の頬を撫でる。


「御零。またあの男が来たんだね。もう少し早く帰るべきだったよ。何もされてないかい」

「あの男ってストワルさんのことですか?ハルベラさん、ストワルさんは」


御零の言葉を最後まで聞かずその女は俺を睨み付けた。明らかな敵意と嫌悪の表情。向けられ慣れたそれに俺が感じるものはない。


「あんた、御零が何も知らないからって、これ以上この子に何かしたらあたしがただじゃおかないからね」

「ハルベラさん!勘違いです!ストワルさんは私を傷つけるようなこと絶対しません」


俺は、もう…。

その言葉だけで、良いんだ。御零の信頼に背くような俺は、全て切り捨ててしまえ。迷ったままの自分では、御零を傷つけるだけだ。


「御零、気にするな。俺は大丈夫だ。ありがとう。また連絡する」


俺は転移の魔法を唱えた。御零の瞳が消えていく俺を追いかける。その漆黒の瞳が真っ直ぐに俺を見る限り、俺はあんたの良き友人であることを誓う。例え、その目が反らされようと、俺があんたを傷つけることはない。


御零が好きだ、と自覚した。そんな俺は御零にはいらない。そうだろ。

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