面倒な友人
ストワルさんと作った料理を食べながら、気まずい空気に流石に辟易してくる。味は悪くないはずなのに、こうも重い沈黙が続くと、よくわからなくなってくる。ストワルさんが何か話そうとする気配はない。場を明るくしたくて、私はもともと相談したいと思っていたことを伝えることにした。
「ストワルさんって魔法が使えるんですよね?」
「あぁ」
「今度、魔法の使い方を教えてもらえませんか?」
「構わないが。御零は魔力があるのか?」
「え、魔法って誰でも使える訳じゃないんですか?」
「それはそうだろう。魔力の無いものはどれだけ学んでも魔法を使えない」
「魔力があるかないかってどうやったらわかるんですか?」
「普通の子供は教会で鑑定してもらう。御零はしてないのか?」
「はい」
この世界での普通に私は当てはまらない。変に思われたとして、それはもう仕方がない。
「そうか。なら俺が今見よう」
「ストワルさんそんなことできるんですか?」
「あぁ。手を出してくれ」
ストワルさんが両手の平を私の方に向けて差し出した。私はストワルさんの両手の上に自らの両手を重ねた。少しだけ温度の低いストワルさんの手は大きくて傷だらけで固くて、その手に軽く手を握られた。僅かな緊張を感じていると目を瞑るように促される。そのまま手に意識を向けてじっとしているよう指示された。数秒後、私の手を握っていたストワルさんの手が離れていく。
「どうでした?」
「大丈夫だ。御零には魔力がある」
「ほんとですか。嬉しいな」
まさか私にも魔力があるとは。素直に喜んでいると、ストワルさんも微かに笑っていた。それに安心する。
「どうして急に魔法を習いたいなんて言い出したんだ?」
「私、やっぱり、この宿だけで生活していくことって無理だと思うんです。だから、外での仕事も視野にいれて考えないといけないと思って。でも、私は世間知らずだし、弱いし、臆病だし。出来る仕事が見つかるか不安なんです。だからこそ、自分が自信を持てること増やしたくて。料理も魔法も少しでも技術があれば役に立つかなって」
もちろん、単純に魔法を使ってみたいという気持ちが一番大きいのだけれど。
「わかった。俺もその方がいいと思う。御零が望むのならいくらでも俺の知識を与えよう。その前に、あんた教会で鑑定してないなら、自分のスキルも見たことないんじゃないか?」
「スキル、見たことないです」
「なら見てみろ。心の中でスキルオープンと念じればいい」
(スキルオープン)
そう心の中で唱えると確かに頭のなかに文字列が浮かんだ。私が今持ってるスキルって、レベル1の料理だけか。スキルの他に称号というものもあるみたい。創造神代理、はもう過去のものだから、どうやら一度ついた称号は消えないらしい。後は、世界を渡りし者に、守護されし者?ミレイにチートハウスとかアクセサリー貰ったからかな。あとは、醜怪なる者の愛を受けし者?なにこれ?全く心当たりがない。私はそれらの称号については黙っておくこととした。
「料理だけレベル1でした」
「そうか。魔法を習得すればそれもスキルに追加されるはずだ」
「わかりました」
「スキルの他に称号を得ることもあるが、それに特に意味はない。その人物の特徴や歩んできた軌跡を表すくらいのものだ」
「へぇ」
ストワルさんに次に魔法を教えてもらえる日がいつになりそうかを相談すると、彼は少し悩むように沈黙した。慌てていつでも良いと付け加える。ストワルさんはきっと不規則な生活をしているのだろう。呼んでくれれば会いに行くというと、ストワルさんは目を軽く見張っていた。なぜ驚いてるんだろ。教えてもらう側が赴くのが筋だと思うけど。
「いや、俺が行く方が早い。転移の魔法を使えばさほど時間はかからないからな」
転移の魔法を覚えれば、それは世界を渡れるのだろうか?ふとそう思って、その考えに首を振る。それを望むならミレイに頼めば良いだけだ。それに寂しくなってしまうから、今はまだ行けないけれど。
「わかりました。よろしくお願いします。師匠」
「師匠…」
「先生の方がいいですか?」
「好きに呼べ」
「じゃあ、ストワルさんのままで」
「なんだそれ」
微かに桜色に染まった白い頬に浮かぶ鮮やかな笑みに目を奪われた。重たかった空気は消えている。私はようやく食事を美味しく感じられた。




