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仲良くなったからこそ怖いんだ

ストワルさんと街に買い物に出た。ストワルさんはあんまり人に顔を晒したくないみたいで、マントのフードを目深に被っている。悪いことしちゃったかな。顔が良すぎるというのもきっと色々なトラブルのもとになりそうだし。冒険者なんていう職業柄、恨まれたりすることもあるのかもしれない。


「ストワルさん、あの大丈夫ですか?」

「何が?」

「…いえ、何でもないです」


家の中にいるよりも幾分か険しい表情のストワルさんにびびってそれ以上何も言えなかった。美形って怒ると怖いってホントなんだなぁ。いや、怒ってはないんだろうけど。温度を感じさせない完璧に整った顔に愛嬌はない。


「何を買うんだ?」

「夕食の材料を買おうかと。まだ作れるものって少ないんですけど、ストワルさんの好きな食べ物とかあれば教えてください」

「好き嫌いは特にない。強いて言えば今は魚を食べたいが」

「わかりました。じゃあ、魚屋とパン屋に行きましょうか」

「あぁ」


濃い銀糸の睫毛に縁取られた深い蒼の瞳は鋭く冷たい印象を与えるにも関わらず、ストワルさんのその眦がほんの少し嬉しそうに下がるだけで纏う空気がガラリと変わる。

お店を回って食材を集め、私達は家に戻ってきた。


「ストワルさん、荷物持って貰ってありがとうございます」

「?俺があんたに持たせるわけないだろう」

「そ、うなんですね」


イケメンの破壊力抜群の一言に心の中でだけ仰け反る。あまりこういうこと思ってるの表に出されるの好きじゃなさそうだし。それにストワルさんには他意なんてないんだろう。この人基本紳士だからなぁ。


「手を洗って、ご飯作っちゃいましょう」

「あぁ」

「この間、ようやくお魚捌けるようになったんですよー。あ、煮ます?焼きます?」

「ふっ、その二択なんだな」


思わずといったように漏れたストワルさんの笑顔に私も嬉しくなる。私にとってストワルさんはこの世界で初めて出会って初めて仲良くなった人だから、とても特別に思っているのだけれど、それはもちろん私だけの事情で、ストワルさんには関係のないこと。だから、私に無理に付き合わせてたら嫌だなと思う。ストワルさんはきっとかなり年上だし、私と過ごすことだってつまらないと思っているのに回復薬をもらったから仕方なくとか、思われててもおかしくない。だからこそ、笑ってくれるとそれだけで隣にいることを許されたみたいで嬉しい。


「まだ料理のレパートリーなくて」

「なら、俺が教えてやろうか?」

「はい」


真剣な顔で頷けば、ストワルさんは少し照れたように視線をそらす。ストワルさんってなんかすれてないというか、年上の男の人にこんなこと思うのもおかしいのだけれど。それともこれが女心をくすぐる百戦錬磨のテクニックなのだろうか。この顔で落ちない女の人が居るとは思えない。

魚をおろし始めた私にストワルさんが時々助言をくれた。


「そういえば、ストワルさんっていくつですか?」

「26だ」

「ちょうど私と10歳違いですね」

「…若いとは思ってたけど。あんた、本当に何故こんなところで働いてるんだ?」

「急に私だけ故郷から離れることになって、その時に身内にこの家を貰ったんです。ここで私が出来ることってなんだろうと思って、宿なら元手が何もなくても出来るかなと思って。我ながら甘い考えでしたけど」


そう言って苦笑しながらストワルさんを見上げると、明らかにさっきまでの穏やかな表情とは違っていて、その冷たく感じられる表情に心臓がきゅっと縮こまるような感覚を覚える。


「あ、の」

「何故、一晩の宿代があんなに高いんだ?」

「え?あれはちょっといろいろあって」

「いろいろとは、なんだ?」 

「私もよくわかんないんですけど、この国の王子が店に来て宿代をあの値段にしろって命令されて…」


ストワルさんの表情は厳しく見えて、私は彼が何故急にそんな顔をするのかわからなかった。


「ここはただの宿なんだろ。あの金額が妥当なものでないことくらいあんたにもわかるだろ」

「私もそう言ったんですけど」

「そう、か。わかった」


何がわかった、なのか、私にはわからなかったけれど、ストワルさんが口をつぐんでしまったため、話しかけることは躊躇われた。確かに突拍子なく聞こえると思うが、あれ以外に説明のしようがない。

ストワルさんはその後、手際よく私にも説明してくれながら、白身魚のクリーム煮とカルパッチョを作ってくれた。


「すごい。ストワルさんってホントに料理上手なんですね。いつも自分で作ってるんですか?」


私の問いかけに反応がない。少し不安になりながら私はストワルさんを見上げた。


「ストワルさん?」

「あんたは、俺のこと、どう思ってるんだ?」


何故今そんなことを聞くのだろう。私を見下ろすストワルさんの表情からは何も読み取れない。


「友達だと、思ってます」

「…………そうだな」

「やっぱり、私と友達なんて嫌ですか?」

「そうじゃない。悪かった」


切なげに細められた眼差しに私は困惑してしまう。どうしてそんな顔をするんだろう。ストワルさんを傷つけるようなことをした記憶はない。


「どうしてそんな顔をしてるんですか」

「御零は悪くないんだ。悪かった」


私の問いに対するストワルさんの返事は答えになっていなくて、けれどそれを追求するのもストワルさんの顔を見ると気が引けた。仕方なく私は話題を変えることにする。


「あの、せっかくの料理が冷めちゃいますし、食べましょう?」

「…そうだな」

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