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勘違い系主人公―ハルベラ視点―

「寂しさ」を一部修正

一月前



買い物帰り、友人であるマリーに会ったあたしはついつい道端で話に花を咲かせちまった。気心の知れた友人はそりゃあもう嬉しそうに、売りに出していた家の買い手が決まったと話している。長らく空き家だった隣家に人が入ることは、あはたしとしても嬉しい限りだ。


「そうなの!あんまり売れないものだから諦めようかと考えていたところだったからほんとに良かったわぁ」

「そりゃあ良かったね!どんな人が入るんだい?」

「それが若い女の子が一人きりらしいんだけどね、ちょっと訳ありみたいなのよ」

「どういうことだい?」

「それがね、肝心の女の子は契約の際に姿を見せないし、代理できた男があんまり大声じゃ言えないんだけどね、今まで見たこともないくらいのとんでもない醜男だったのよ!私倒れるかと思ったわ」

「へぇ。どういう関係なんだろうねぇ」

「そこまではわからないんだけど、家族ではないと言っていたわ。ただの代理人だって」

「まっ、実際会ってみないことには分かるこじゃないね。とにかく、その女の子のことは任せときな」

「助かるわぁ。ハルベラ!またお家にお邪魔させてね」

「もちろん、いつでも大歓迎だよ」


マリーとはその場で別れ、あたしは家路を急いだ。

帰ったら明日から来るという少女のことをウィリアムに話さなきゃね。仲良く出来ればいいんだが。





-----------------


女の子が引っ越して来たら片付けを手伝うつもりでいたんだが、今日一日荷物を運び込むような様子は全くない。引っ越しの日にちを変更でもしたのかね。

翌朝、まだ日も昇りきらぬような早朝、件の隣家の前で見知らぬ男と少女が話しているのを、偶然見かけてしまった。

少女は寝巻き姿のような出で立ちで、対する男は全身黒ずくめの衣服に身を包み、フードつきのマントを被っていた。その男が被っていたフードが僅かにめくれ、その顔が見えた。

『今まで見たこともないくらいのとんでもない醜男だったのよ!』

そんな友人の言葉と合致する醜い男は、少女に重そうな小袋を手渡していた。

よくあの子平然としていられるね。あたしがあの距離であの男と向かい合って、顔を背けずにいられるとは思えないよ。

人の顔の良し悪しには無頓着な方だという自覚のあるあたしですらこうなのだから、か細い神経のお嬢さんならぶっ倒れてもおかしくないだろう。醜いという言葉では収まらない。まるでおぞましい化け物のようじゃないか。

耳を澄ませば風にのって所々単語は聞こえてくるものの、二人の会話はほとんど聞き取れなかった。


「……金………だ」

「こんなに……………」

「……………な、……費…にシーツ代…………………いない。後日、………金は………………る」

「そんな……………………………………………ストワルさん…………………………」

「あんた無一文…………。御零……………………………。…………………」


男は凶悪な顔を更に歪めた。

これだけ距離が離れてるっていうのに思わず声が漏れそうになっちまったよ。

それに対して少女はのほほんと相対している。その会話の中で、少女は男のことを"ストワル"とそう呼んだ。

ストワルだって?ストワルって言ったら、醜悪な容姿を持つ大陸最強の冒険者じゃないか。金の為ならどんな汚れ仕事もする、気に入らない者は女子供でも簡単に手にかけるという悪どい噂が付いて回るような男だ。まさか本当に?

そんなことを考えていたら、少女と男はあっさりと別れの挨拶を済ませていた。少女が男に頭を下げて見送る。少女は男の姿を見送ると隣家に入ろうとした。


「ちょっと。ねぇ、あんた大丈夫かい」


咄嗟に声をかけていた。少女はこちらを振り向いて不思議そうに小首をかしげている。年の頃は14、5歳くらいだろうか。容姿は平凡だが、濡れたような漆黒の瞳に艶やかな黒髪。傷も荒れもない手肌。幼げに見える仕草は人一倍強いあたしの庇護欲を掻き立てた。


「あんたそこの空き家に引っ越してきたんだろう。前の家主から話は聞いているよ。あたしは隣に住むハルベラだ。よろしくね」


少女はびっくりしたように目を見開くと、慌てた様子でペコリと頭を下げた。


「ご挨拶が遅くなってすみません。隣に引っ越してきた御零といいます。世間知らずなのでご迷惑おかけすることも多いと思いますがよろしくおねがいします」


礼儀正しすぎるほどの挨拶に、きちんとしつけられて育ったのだろうと想像する。あたしは普通そうな様子の少女にホッとして、さっき別れた男のことを尋ねた。あたしは御零という名の少女が何かに困っているならば、助けになりたいと考えていた。


「そんなかしこまらなくて良いんだよ。あんたくらいの年齢なら世間知らずで当たり前だ。それよりさっきの男は誰だい。何かひどことでもされたんじゃないのかい」


そう勘繰ってしまうのも無理はないだろう。あんな醜男とこの少女の組み合わせはあまりに不似合いで、良からぬことを醜男に強要されたのではないかと心配になる。同じ家から出てきて、何かしら物を貰っているなんて…それこそ…。それに対して少女は言いにくそうにしながらも首を横に振った。


「私…、その、宿、をやっていて、さっきの人はお客さんだったんです。だから大丈夫ですよ」


宿?隣家の扉には少女が書いたのだろう『宿』と書かれた紙が貼り付けられている。なるほど。引っ越して早々に醜男の来客なんてついてないね。思わずいつもの癖で少女の頭を撫でてしまう。それじゃあ、あの男は契約に来た男とはまた違う輩なのかね。


「そう、だったのかい。あんたも苦労してるんだね」


一瞬でくしゃりと少女の顔が歪んだ。漆黒の瞳がゆらゆらと揺れて泣く寸前のような表情になる。

なんだい急に…。

そう思ったがとにかく泣き止ませてやらないととその体を抱き締めた。なかなか泣き止まない少女は私の胸の中で辛そうに悲しそうに身を震わせている。少女の持っていた袋があたしの体に当たる。カチャリと音がして袋の口から中身が覗いた。無数の金貨に黄金の輝きを放つ黄金貨までが入っていた。一晩の宿代では到底考えられない値だ。

その額を見れば理解せざるを得なかった。この少女はきっと先程の男に体を売ったのだろう。

だが、それを言いたくはないんだろうね。宿だと言い張る少女が痛々しかった。若い娘があんな醜悪な男に…など、想像しただけで怖気だつ。そうまでせねばならない理由が何なのか。初対面のあたしに抱きついて泣きたくなるほど、それは辛かったに違いない。あたしはその震える背中をとんとんと撫でてやった。


「隣同士になったのもなにかの縁だ。ここにいる間はあたしのことは母親代わりと思っていつでも頼っといで」


泣きじゃくる御零にそう本心から声をかけた。

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