穏やかな朝
昨日は怒ったりなんやかんやあって、ラシュエルとため口で話してたけど、一晩経って考えてみるとヤバイんじゃないか。あの人、自分のこと第三王子とか言ってたし。
護衛四人も引き連れてるとか、高貴すぎる見た目からして、ラシュエルが王子だってことを私はすんなり納得してる。
まぁ、嘘をつくのもお客さんの勝手だしお金さえ払ってくれれば別に良いんだけど。
少なくとも、年上のお客さんにため口は、接客としてないよね。
やめとこ。
「おはようございます。ラシュエル様」
うん、これが良いよね。
「…あぁ、おはよう。御零、私に様など付けないでくれ…。昨日のように自然に話してほしい」
明らかに悲しそうな顔で言われて、私は少しだけ悩む。
仕方ない。お客さんの希望だしいいよね。
「本当に良いの?」
「私がそれを望んだのだ。誰にも何も言わせはしない」
「仕方ないな。いいよ。ラシュエル、昨日はよく眠れた?」
「そう、だな」
歯切れの悪いラシュエルの物言いに首をかしげる。
「あれ、寝れなかった?」
「いや、御零が隣の部屋に居ると思うと緊張してしまったようだ」
「ラシュエルって変わってるね」
「そうだろうか」
「あんまりそんなこと女の子に言っちゃダメだよ」
「わかっている。御零以外に言うつもりなどない」
だから、そういうとこだって。しかも真剣な顔をして言うから本当に質が悪い。
そりゃこんな綺麗な顔の人にこんなこと言われたら悪い気はしないけど、この人の言葉を本気にして付き合ったりしたら大変だろうことは想像に難くない。
王子様らしいし、性格も悪いらしいし、女たらしっぽいし…。
「朝ごはん作ろうと思うんだけど、食べる?」
「頼んでも、良いのか」
「うん。それでね、毒味もするけど、ご飯作るときにラシュエルが見張ってたら、もっと安心出来るんじゃないかと思って」
「いや、毒味は不要だ。御零が手ずから作ってくれるものを疑いたくはない」
意外に思いながらもほんの少し信頼されているみたいで嬉しくなった。
「そう。とりあえず、キッチンに行こうか」
ラシュエルって近寄りがたいと思う要素ばかりだけど、話してみると偉そうな癖に意外とマイナス思考だし、そこまで取っ付きにくくはない。
こちらの世界ではまだ同年代の知り合いっていないから、出来れば仲良くしたいんだけどな。(自称)王子様と友達になるなんて、前の世界じゃ絶対体験できなかったことだろうし。この家にいられるってことは私を傷つけるつもりはないみたいだし。力ずくでどうこうという意志があればこの家から追い出されるのだら、そんなことは土台無理な話なのだ。
「じゃあ、顔でも洗ってて。頑張ってご飯作るよ」
「た、頼む」
私のそんな一言にラシュエルの麗しい顔が赤くなった。びっくりして見つめていると視線をそらされた。
「見苦しいところを見せた」
見苦しいどころか、うっかり見惚れてしまいそうになったんだけど。そんなことはラシュエルくらいの美形なら聞き飽きているだろうし言わないけど。
野菜サラダ、ベーコンエッグ、玉ねぎスープ、昨日ハルベラさんにもらったパン。オーソドックスな洋食の朝ごはんを作った。こちらの世界の食事は、特に変わったものもないし、前の世界の洋食とよく似ていると思う。
私が朝ごはんを作っている間、ラシュエルは私のことをじっと見つめていた。それは警戒しているというよりも、嬉しそうで穏やかな甘い視線に感じた。客用のベッドのある部屋に戻りテーブルに座ったラシュエルの前に料理を並べる。
「御零は共に食べないのか?」
「え、お客さんと一緒に食べるのは普通じゃないよね。私は後で向こうで食べるよ」
「私は御零と共に食べたい」
「いいけど」
断る理由もないので頷くと安堵したようにラシュエルが微笑んだ。
「御零の分の料理も持ってくる。待っていてくれ」
そう言ってさっと席を立ち、、ラシュエルは私の分の料理をセッティングしてしまう。王子様ってこんなことするんだ。
ラシュエルは本当に嬉しそうに笑って、私を向かいの席に座らせる。エスコートされて座るのなんて初めてでまごついてしまったのだけれど、ラシュエルはそんな私を急かすこともなくどうすれば良いか教えてくれた。
やっぱり悪い人には見えないんだけど。
毒味はいらないと言ったラシュエルは本当になんの躊躇いもなく私の作った朝食を食べ始めた。
「美味しい。ありがとう。御零」
「よかった」
ラシュエルの綺麗な微笑み付きでお礼を言われるとなんだか焦る。簡単な料理しか出してないんだけど。出した朝食をラシュエルは残すことなく食べ終えた。そして、まだ食べている私に一言告げて席を立つと、キッチンで紅茶を入れて戻ってきて私に差し出した。王子様ってこんなことするんだ…。ラシュエルの入れてくれた紅茶はいつもより美味しく感じた。




