本編はここから
あの後、淡い光こと私と同じ名前を持つミレイの
代理となることを了承してから、はや10日。
ミレイとの約束では、今日、全てを解決し戻ってくるはず。
まさかそれほど短期間だとは思わなかった。
でも、私が代理としてこの世界を安定させられる期間というのも、それほど長くはないのだという。
この世界の管理者たるミレイは億単位の年月を管理し守護することができるらしいのだけれど。
ミレイと同じ名前と波動を持つだけのただの人間の私では2週間かそこらが限界で、ただ私がいなければこの世界は2日と経たずに滅んでしまっていたらしい。
だから、ミレイは私を必要としていた。
ミレイは非常にこの世界を愛している。
どのような犠牲を払おうとも、ただ滅亡を迎える世界を手をこまねいて見ていられないほどに。
私はその犠牲者なわけだが、初めから私にはミレイに悪意を持つということができないのだから、起きてしまったことは仕方がない。わりと諦めは早い方だ。
神様に等しいミレイは別にこの世界が滅ぼうと特に痛手はないそうだ。
けれど、ミレイはこの世界を、この世界の生物を愛してしまったから、わりと無茶をやっている。
なぜこの世界の寿命が尽きかけたのか、説明はされたがはっきり言って全く意味がわからなかったのでもういい。
いや、だから魔王と勇者と聖女の三角関係が原因で世界の核が破壊されたとか、ホントに全くわからない。
ミレイはその核の修復、保護、ならびに魔王達の関係の改善までやって帰ってくると言って出ていった。
核の修復だけでも1週間はかかるらしいから、まぁ、魔王達の関係の改善はほぼ不可能だろうけど。
ミレイはそういうとこが甘い。
関係の改善、じゃなくてもっと簡単な方法はいくらでもあるだろうにとふと思う。その程度には私はミレイを気に入ってしまった。
私に言葉を尽くし協力を求めるミレイはとても誠実で、私はミレイの話に簡単に頷いてしまった。
それに代理とはいえただの人間の私がすることはなにもなく、本当にただこの世界に居ればそれで良いのだから、難しいことは何もない。
ミレイにとって時間さえあれば核の修復は容易らしい。勝手に連れてこられて元居た世界に戻れなくなった私にとっては、この世界の破滅に巻き込まれるなんてそれこそ許せない。もはや迷う理由はなかった。
そして、この10日で私が気づいたこと。それはこれが夢でもなんでもなさそうだということ。
いや、夢であったらいいなとは思うのだけれど、痛みは痛みとして感じるし、空腹も、眠気も、尿意だって、普段とかわりなく感じる。
だから、私が今いる場所も、人間が生活するのに必要なものがすべて揃った、神様特製の住居空間となっている。
私のいた世界と、ミレイが守っている世界の様子を移す鏡まで備え付けられている。
私が一人で退屈しないように、との配慮からか。確かにこの鏡のお陰で私はあまり退屈していない。
「御零」
ふと10日ぶりに聞こえた声。ぼんやりとした淡い光だったはずのミレイは、とても綺麗な男の人に変わって帰ってきた。
その身は淡く輝き、プラチナブロンドの髪と瞳はまるでおとぎ話の精霊のように儚げな印象を与えるだろう。けれど、顔の造りやスタイルは儚げとは程遠く男らしい迫力のある美丈夫そのまま。
声から性別は男なのだろうと思っていたが、まさかの擬人化に驚きを隠せない私は、目を見開いたまま固まる。
「ようやく、世界に光を取り戻せたよ。御零の協力のおかげだ。本当にありがとう」
ひどく嬉しそうに艶やかに笑うミレイはただその目にだけ悲しみをたたえていた。私への申し訳ないという思いからだろうか。
驚きからようやく抜け出した私は「良かった」と一言声を漏らした。
「御零。あなたが望むものはなんでも捧げよう。あなたが私の世界での生を不安なく、穏やかに過ごせるように。あなたからあなたの世界を取り上げた私を許すことは出来ないかもしれないけれど…。どうかあなたには誰よりも幸せになってほしい」
私の前に膝まずいたミレイは、私の手を取りまるで許しを乞うように頭を垂れた。私の幸せを望むその言葉に嘘はないのだろう。
「頭を上げてミレイ。どうやら私はあなたのことを嫌いになれないみたい。あなたのそばはとても落ち着くの。それに、あなたの世界は、あなたの力に満ちているからか私にはとても輝いて見える。初めは怒ってたけど、今はあなたの世界で暮らすことも悪くないと思ってる」
文明は確かに私の居た世界と比べればまだまだで、魔法とかなんかよくわからない魔王とか勇者とか聖女とかがいる、現実離れしたファンタジーな世界だけれども、それでもそこで生きる人々は私の居た世界と何ら変わりなく、日々に幸せや悲しみ楽しさや怒りを感じて生きているのだとわかったから。
私は少しの嘘もなくこの言葉を伝える。私はミレイの手を引っ張って立たせた。夢物語の王子様のように麗しいミレイはまるで泣く寸前のような表情で「すまない」と何度目かわからない謝罪の言葉を口にしてから、今度は私の手の甲に額を付けて「あなたの優しさに感謝を」と泣き笑いの声で告げた。
「まずは私の居た世界にお別れを言いに行こう」