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高貴ゆえの傲慢

私の顎から彼の手が離れていった。近すぎた距離が離れ、私はほっと胸を撫で下ろす。


「何故、拒絶する。私は…」


美貌の青年の深く傷ついたような表情にぐっと胸がつまる。顔が良いというのは得だ。だからといって流されるわけにはいかない。


「私は、私のことだけを思ってくれる人じゃなきゃ、好きになんてなれません」


説得力に欠けていることは分かっていたが、今はそんなことを言っている場合ではない。


「貴女は、何者でも受け入れると聞いた」

「な、何ですかそれ?そんなわけないじゃないですか」


私はポカンと口を開けて固まる。そもそもこのチートハウスがかなりの人数を切り捨てている筈だ。


「そうだったのか…。では、もし私が、貴女を思えば、貴女は私を受け入れてくれるのか?」

「だから、からかわないでください」


分かりづらいが、もしかして口説かれているのだろうか。そう思ったが、その言葉を頭から信じてしまうほど馬鹿じゃない。身の程くらい弁えているつもりだ。こんな王子様みたい人が私に本気になるわけがない。


「あなたがどういう意図で私に触れようとしたのか知りませんが、私は、私だけを愛してくれる人しか、受け入れたり出来ません」

「貴女は身勝手なのだな」

「な、あなたに言われたくないです」


ふっと彼の眼差しが一瞬陰り、甘いアメジストの瞳が一度伏せられる。そして再び開いたその瞳には何の感情も窺えなくなっていた。


「私は、ラシュエル・リ・アイリュスト。この国の第三王子だ。私はいずれこの国の王になるつもりだ。けれど、現国王は私に王位を譲ることを躊躇している。私に婚約者が出来なかった為だ。たとえ、婚約者の地位を受け入れたとて、あの女達は醜い私と空間を共にすることすら出来ぬのだから、子を為すなど不可能だろうがな。その点、貴女は、私が貴女を愛せば、私の子を産んでくれるのだろう?決して悪い話ではない筈だ。私の婚約者になってくれ。こんな場所で働く今よりは遥かに良い暮らしをさせてやろう。王妃の責務など考えなくとも良い。私が誰にも何も言わせはしない」


振り上げた手は彼の頬を打つ前に、彼の手で掴まれた。驚いたような青年の顔。やり場のない感情にじんわりと視界が歪んだ。

彼が王子様だとか、その顔が醜いわけないとか、そんな思考を吹き飛ばす程度には、私はショックを受けていた。


「私は、あなたの為の道具じゃない。あなたに婚約者が出来ないのは、顔のせいなんかじゃない。あなたの性格の問題よ!」


切りつけるように叫んだ。掴まれた手に力がこもる。放してと逃れようとした腕を押さえつけられベッドの上に押し倒された。抵抗すらままならない。体を押さえ込む力は強く、甘いと思っていたアメジストの瞳は剣呑な色を宿している。


「誰に口を利いている。許されると、思うなよ」


男に組み敷かれ、低い声で凄まれて、恐ろしさに涙があふれた。なぜ、なぜ、彼は私を明らかに害そうとしているというのに。なぜ、この家から追い出されないの。ここは安全な場所じゃなかったの。

彼の前で泣くのが悔しくて、私は唇を噛み締めて彼の瞳を睨み上げた。

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