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高貴な来訪者

それからの私はハルベラさんに懐いてよく一緒に居させてもらっていた。ハルベラさんは何も知らない私にいろんなことを教えてくれた。ハルベラさんおすすめの八百屋、精肉店に魚屋。その他にもかわいい洋服店やおいしい喫茶店。貨幣の価値がわからないと言えばお買い物をしながら一緒に教えてくれた。

りんご一個が10ベル。日本円にするとおよそ100円くらいだろうか。最小の貨幣から1ベル、10ベル、100ベル、1,000ベル、10,000ベル、100,000ベルと増えていく。それぞれ青銅貨、銅貨、銀貨、白銀貨、金貨、黄金貨という名がついていた。黄金貨はそれだけで100万円の価値があるのだ。そして、それによりストワルさんが支払った金額がとてつもない大金ということがわかった。なんと袋の中には金貨だけでなく黄金貨まで入っていたのだ。私は何度もストワルさんに手紙を飛ばそうかと思ったが、仕事中なら迷惑をかけるだろうと思うと、なかなか思いきれなかった。あの日以来、私の宿にストワルさんがやってくることはなかった。もちろん彼のお金のおかげで私は生活に困ることはなかったが、少しだけ寂しいなと感じてしまった。


ハルベラさんは街の人気者らしくて、私のことも街の人に積極的に紹介してくれたため、少ないながらも知り合いとよべる人が増えていった。右隣のお家のお隣さんであるハルベラさんを通して、左隣のお家のお隣さんであるケイトさんともとても仲良くなった。ケイトさんは学校の先生をしている20代の女性で平日はお仕事でお家に居ないことが多いのだけれど、お休みの日になるとハルベラさんの家で顔を合わせることも多く、知的で優しい彼女のことを慕うのに時間はかからなかった。彼女も私を妹のように可愛がってくれた。

ハルベラさんご夫妻とケイトさんは本当に何も知らない私が一人で宿を経営することが心配で仕方ないらしく、何度も他の仕事を探してはどうかと言ってくれたが、一人で家の外に出て働くことは不安だったのでその度に多少の申し訳なさを感じながらも断っていた。リボンや指輪などの装飾品を付けていても、家が一番安心だというのは変わらない。

しかし、私の宿にお客さんが来ることはなく、ストワルさんが帰ってから一月ほどの月日が流れた。その間に、宿の看板を作ることにした。宿の名前に悩みハルベラさんとウィリアムさん、ケイトさんに相談すると、三人共困ったような、複雑そうな顔をしながらも一緒に考えてくれた。「御零の愛」なんていうとても恥ずかしい店名になってしまったが、三人が一緒に考えてくれたのでその名前にした。料金設定はストワルさんに言われたのを変えてはいない。一泊5,500ベルというかなりの強気設定ではあるがせっかくストワルさんが考えてくれたものだったので変えたくはなかった。部屋が一室のみのため宿泊できるのは一回に一人、もしくは家族や恋人、友人に限り二人という極々少人数。はっきり言って客が全く来ないので一回の宿泊で利益を得ようと思うと値段を下げるわけにもいかないのではと考えた。その価格に見合うように宿の内装にも手を加え、料理にも挑戦している。けれど客が来なければ儲けはもちろんマイナスだ。そろそろ本気で転職を考えようかと思い始める。そもそもが私に宿経営など無茶だったのだろう。それがわかっていたからハルベラさん達は反対してくれていたんだろうな。


今日もハルベラさんのお家でお料理を教えてもらえることになっていたため、私はルンルン気分で支度する。宿の経営は全くうまくいかないが、それ以外は困ることもなく楽しい日々を過ごしている。ハルベラさんは本当に料理が上手なのでほぼ毎日お料理を習いに行っていて、そのまま食事を一緒にとることがいつもの流れになっていた。


それは唐突に訪れた。私の平穏は、家の前で交わされる声によって崩された。


ハルベラさん達との食事を終え自宅に戻ってお風呂に入ったあと、私は図書館で借りた本を読んでいた。キッチンには街の家具屋さんで購入した自分用の小さめのベッドを置いたので、もとの場所にもどしたソファの上でゴロゴロしている。その時、扉の外から常とは違う声が聞こえてきた。なんだろうと耳をすませる間もなく、扉が叩かれる音が聞こえ、私は飛び起きた。ハルベラさんたちでは無いだろう。聞こえてきたのは数人の男の声だった。


「はーい。今開けますね」


私は扉を開けてその向こうにいる人達を見上げた。外に居たのは4人だ。屈強な男達三人が一人の男を守るようにして囲んでいた。その中に見覚えのあるものは一人としていなかった。守られるようにして中央に立つ男は紗を被っており容姿ははっきりしないのだが。

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